マガジンのカバー画像

小説まとめ

56
今までにあげた小説です。ショートショートです。
運営しているクリエイター

2016年1月の記事一覧

煙の匂い

「……そんでな、煙の匂いで目が覚めたんだ。おれは昔っから匂いに敏感でよ。そのおかげであの大火事で命拾いしたって寸法よ……ん? なんだ?」

休憩時間、よく晴れた日の午後、大工稼業の先輩と雑談していると、女性の悲鳴らしきものが聞こえた。

「ちょっと、ぼくみてきます」

工事現場を離れて一般道路まで出てみると、路肩に乗用車が停まっていた。乗用車は激しく揺れており、断続的に女性のうめき声が聞こえてきた

もっとみる

シチュエーション

「はぁ~、どうしよ」

「なに? どうかした?」

「みればわかるでしょ? 悩んでるのよ」

「ははあ、恋だな」

「ちがう」

「思春期の女子が悩むのは恋じゃないの?」

「あんたさぁ、それ、セクハラだからね」

「そういう君はモラハラだね」

「……モラハラってなに?」

「モラルハラスメント。不適切な言葉や態度で相手を傷つける行為、って感じかな」

「そんなことないです。わたしは先輩を尊敬し

もっとみる

箱舟

 舟の上は多種多様な動物たちでごった返していた。この状態を例えるのならば敷地が小さい動物園とでもいえばいいのだろうか。しかし、動物園では動物たちは柵の内側にいるべきだが、ここでは完全に野放しだ。まあ、近頃の動物園ではふれあいコーナーとかいって動物たちを開放している一画もあったりするそうだが、飼育員の立ち合いがあるのだろうし、ふれあわせる動物もせいぜいハムスターやウサギなんかの小動物だろう。少なくと

もっとみる

It's a small world !  第四話

 ヤナセ先生はそう言い終えると、もうこれで話は終わりだ、とでもいった感じに湯呑みにはいったお茶をすすった。ぼくは、なんだか長い夢をみていたかのようにぼーっとした頭のまま立ち上がり、軽くお辞儀をしてから先生の部屋から出た。

帰り道、ぼくはずっと考えていた。

つまるところ、先生の話はこういうことだ。人生は行くあてのない旅に似ていて、いくつもの分かれ道を判断基準も持てないままに選択しては進んでゆく…

もっとみる

It's a small world !  第三話

……厳格な動作テストをクリアした後、R134号に仕事が与えられた。史上最高のロボットと名高いR134 号に何をさせるのかと世界中の注目が集まるなか、R134号に与えられた仕事は王国のお姫様の身辺警護だった。強大な力と明晰な頭脳をもつR134号にとって、それはあまりにも退屈な仕事のようだ。当時の王国は平穏そのもので、お姫様の警護に最高のロボットが必要とは思えなかった。実際、R134号の使い道に疑問を

もっとみる

It's a small world !  第二話

 ヤナセ先生は古びた2階建ての木造アパートに住んでいた。外装から考えると意外に中はきれいで、先生の部屋は八畳間のワンルームで整然と片づけられていた。中年男性の一人暮らしというものはもっと乱雑で不衛生なものかと思っていたのだけど、やはり聖職者だけあって私生活にも気遣われているということだろうか、と、思ってから、気がついたのだけど、先生の部屋にはほとんど家具や電化製品が見当たらない。本当にここで生活し

もっとみる