見出し画像

夏の花火運動会【 #こんな学校あったらいいな 】

「今年の運動会は、夏の夜に開催します!」

実行委員長になった僕が、4月の全校集会で発表してからあっという間に時間が過ぎた。

「おもしろそうだね、がんばって!」
「わたしも、何か手伝えることない?」
「進み具合はどうだ?困ってることはないか?」

友だちも、先生も、すれ違うたびに声をかけてくれて、応援してくれていた。とっても嬉しかった。「そのおかげで、がんばれました」って言ったら、ちょっとカッコつけすぎかな。
「大変じゃない?」って心配そうに聞かれることもあるけど、そんなこと考える暇もなかった気がする。みんなでいろいろとアイデアを出すのが、すごく楽しかったから。

「夏の夜に、浜辺で運動会をやってみたい。花火を使った運動会を。」

そう思ったのは、去年の8月最後の土曜日に、お父さんが花火に連れていってくれたから。朝ご飯を食べてるときに、
「今日の夜、花火やりたい人ー!」
って突然言った。弟がすぐに「はーい!」って返事をして、僕も行くって答えた。お父さんは、いっつもそうだ。どこかに遊びに行くのときは、いつも急に言う。お盆休みにぶどう狩りに行った時も、朝ご飯を食べたあとに、
「今からぶどう狩りに行くから、早く着替えて。」
って言ったんだ。楽しかったからよかったけど。
花火も、近所の公園でやるんだと思ってたら、車に乗って浜辺の公園に行った。外はもう暗かったから、いったいどこを走っているのか、まったく分からなかった。車を降りてみたら、目の前が海だったってわけ。

その浜辺で花火をしているとき、これをクラスの友だちとやったら、きっとおもしろいって思った。お兄ちゃんが考えた、『花火リレー』と、『線香花火はこび』だ。
『花火リレー』は、リレーのバトンみたいに、自分の花火で次の人の花火に火をつけていくもの。駐車場の前の広場にロウソクを立てていたから、そこから波がくるところまで花火をつないでいこうとお兄ちゃんが言った。途中で消えたらやり直し。あんまり離れていたら消えてしまうから、ちょうどいい幅に間隔をあけて並ぶ。弟から僕に火をつないで、そしてお兄ちゃんの花火につなぐ。3人で何回かやったけど、なかなか波のところまでたどり着けない。意外と難しかった。お父さんも入れて4人でやったら、ようやく成功した。お母さんは応援係だった。

『線香花火はこび』は、ロウソクで火をつけた線香花火を、できるだけ遠くにはこぶ。ゆらしたらすぐ先っぽが落ちるから、そーっと、そーっと。でも、ゆっくり歩いてたら遠くには行けない。絶妙なバランス感覚ってやつが大切なんだ。忍者だったら得意なんだろうな。これは、途中までお兄ちゃんが一番遠くまで行けてたけど、最後の一本で僕が逆転した。

火山みたいに噴き出す花火をしているときに、お母さんが
「あっ、花火!」
と言った。当たり前だよと笑うと、
「違うよ、あっちの空。」
と海の向こう側を指さした。「ヒュルー、、、、ドーン!」と、大きな花火が上がった。浜辺の公園に来ていた人たちも、みんな大きな花火を見ていた。
「よーい、ドーン、みたい。」
弟が言った。

そうだ!運動会だ。花火運動会がいい。

打ち上げ花火は、かけっこの合図。「いちについて、よーい、ドン」と言う代わりに、花火を上げる。
『花火リレー』をクラス対抗でやって、障害物競争の代わりが『線香花火はこび』だ。噴射する花火と一緒にダンスをやったら、すごくカッコよくになりそう。クラスのみんなが楽しそうにしている場面が浮かんだ。

学校に行って、仲良しのヒロトくんに話したら、おもしろそうだからやってみようぜって言ってくれた。実は、僕の学校では、6年生が運動会の実行委員をやっている。5年生の秋に実行委員を決めて、次の年の運動会に向けて準備をしていくのだ。ヒロトくんと一緒に先生のところに相談にいったら、先生も賛成してくれて、ぜひ君たちを中心に実行委員をやってみないかと言ってくれた。その日の学活でクラスのみんなにも話して、僕が実行委員長、ヒロトくんが副委員長に決まり、サトミちゃんと、ユウカちゃんも手を挙げて実行委員が決まった。

『夏の花火運動会』。
僕たちが作り上げる運動会だ。

『打ち上げ花火でかけっこ』、『花火リレー』、『線香花火はこび』、『噴き出す花火ダンスは』、そのままやることが決定した。そのほかに、ロケット花火が飛ぶ距離を競う『ロケット花火とばし』、けむり花火が消えるまでに着替える『けむりの早着替え仮装大賞』、地面に描いた円の中にパラシュート花火が落ちるようにする『パラシュート的当て』を追加して、運動会の種目が決まった。
先生は、僕たちが考えたアイデアを実現できるように、支えてくれた。お父さんと行った浜辺の公園より、もっともっと広い場所を確保してくれた。

一番の心配は天気だったから、運動会の前日は、全校生徒でてるてる坊主を作った。校長先生は、自分の身長より大きな特大てるてる坊主を作ってきてくれた。つるつる頭の校長先生そっくりな顔も書いてあって、みんなで爆笑した。僕は、ずっとドキドキしていたけど、みんなの笑い声を聞くと、ちょっと肩の力が抜けた気がした。ヒロトくんが、親指を立てて、僕に笑顔を見せてくれた。きっと大丈夫。


みんなのてるてる坊主の力のおかげで、当日はきれいに晴れてくれた。夕方から学校のみんな、お父さん・お母さんたちが、どんどん会場に集まってきた。おじいちゃんやおばあちゃんも来ている。真っ暗だと危ないから、ライトをつけたり消したりする最新の設備もある。先生の友だちが、大型ステージの舞台装置を改造して作ってくれたそうだ。
「おもしろいだけじゃなくて、安全は大事だからね。」
と話してくれた。

開会式では、僕が開会宣言をする。その時間が近づくくと、またドキドキがやってきた。ヒロトくん、サトミちゃん、ユウカちゃんが、実行委員席に座っている。みんなの方を見たら、ガッツポーズをしてうなずいてくれた。「きっと大丈夫」。

花火の運動会だからと、開会式用の打ち上げ花火を校長先生が用意してくれた。僕が号令台にのぼって、点火された。

ヒュルー、、、、ドーン!

「ただ今から、夏の花火運動会を始めます。」

最後まで読んでいただきありがとうございます!少しでもお役に立てたら嬉しいです(^-^) いただいたサポートは、他の誰かのお役に立てるよう使わせていただきます。 P.S. 「♡」←スキは、noteユーザーじゃなくても押せますよ(^-^)