「自動運転 Level 7」

私は今日も主人を乗せて病院へ向かう。
途中、主人はスーパーによれ、と。
駐車場で17分待つと、買い物籠をもつ主人が私に近づいて来たので、扉を開ける。5年前に免許証を返納した主人は難儀そうに座席に腰をずらしながら、定位置に座った。買い物籠は左座席に置かれた。

 「匠、病院ね」と主人。私は走り出す。いつものルート、私の学習経験は日々蓄積され、完璧な「自動走行」となっている。
しかし、この日は私にとって学習外のことが起こった。
病院にむかうT字路にさしかかり、減速して右折プロセスにはいっていた時だ。明らかに人間が運転している大型ミニバンがなぜか、ノーブレーキで私に対して追突しつつあるのだ。
 私は全力をもって回避するプランを考えだしたが、私の現速度はわずか8km/hでしかない。急加速回避は無理だ。車はコンピューターグラフィックスではない、物理特性に縛られている。私は瞬時にステアリングをさらに右に切り、私に追突してくる人間車の動きを測定しながら、衝突を最大限にいなすプロセスを採ることにした。
 そのミニバンは私に激突し、私は回転させられる。もちろん私は人間ではない、どんなに揺さぶられても冷静であり、刻一刻迫る歩道に歩く人々を認識していた。
 私は「無事故」は不可能だと判断した。
 歩道には集団登校をしている小学生達と老夫婦、そしてサラリーマンが歩いていて衝突音に驚き、立ちすくむ6人がいた。
 確実に歩道に乗り上げる私だ。ブレーキは煙が出るほど高温になっていても、間に合わない。残るはステアリングである。被害を最小限にできる舵取り努力をする。
 私の判断によって小学生達への衝突は回避できる。あとはそのすぐ後にいる老夫婦、続くサラリーマンを意識していた。
 私のステアリング操作で老夫婦も助けられる可能性は高いが、しかしその判断の結果、サラリーマンに多大な衝撃を与える可能性を確信した。
 そこで私はステアリング操作を緩めた。老夫婦の男性にぶつかって行くことにした。誠に残念だ。
 私にとって通い慣れた道だが、その学習を超える後方からのミニバンの衝突。私を作った武田というプロダクトプランナーは、学習を超える事故想定があった場合、老人へのプライオリティを下げよ、と私に命令している。
私は「匠Takumi」。ロボットカー。
20xx年本日、私は追突され、これから人身事故を起こす。なぜ老人が瀕死を負うことになったのか?予めプログラムされているからだ。しかしそれは公になることはないだろう。

SFショートショート 「自動運転 Level 7」
Facebook 2019年6月3日 再録

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