27歳の誕生日に、ステージⅢの舌がんと告知された話 〜これまでの経緯と心境〜
まさかこんなきっかけでnoteを始めることになるとは思ってもいませんでしたが、タイトルの通りです。2021年1月25日、27歳の誕生日当日、私はステージⅢ(T3N0M0)の舌がんと診断されました。そうです、口の中の舌部分に、がんが発生しました。
がん告知から3週間が経ち、ようやく心の余裕を取り戻してきましたので、日頃お世話になっている方々へのご報告も兼ね、改めてこれまでの経緯と、自身の心境を整理していきたいと思います。
ブログ的なものを書くのが高校生以来で、適切なテンポ・トーンが全く分かっておりませんが、とりあえず書いていきます。 多分、所々ちょっと面白おかしいです(笑)テーマがテーマなので憚られるかもしれませんが、くすっと笑っていただいて構いません。
「それ、舌がんになるやつじゃない?」
すべての始まりは2020年頭からでした。食べ物を飲み込む際に舌の左奥が少しヒリヒリするようになり、不思議に思って2月頃近所の歯医者さんに行きました。が、そのときは「これで様子を見てください」と塗り薬を処方されたのみ。数週間経っても改善されなかったので、2度目の受診をしたところ、「あ〜、左奥歯が一本、若干内側に傾いていますね。これがずっと舌に当たってしまっているのが原因だと思います。奥歯を起こす矯正をすることをお勧めします」という内容。「放っておくとどうなりますか?」と質問したところ、「奥歯がどんどん傾いていくと、使えなくなって、インプラントすることになりますよ」という回答。歯ではなく、舌がどうにかなってしまうかもしれないという話は一切出てきませんでした。
ただし、当時の私はキレイライン矯正(前歯上下12本を中心とした歯列矯正治療)を始めたばかり。すぐに矯正歯科の先生に奥歯を動かす治療への変更を相談しましたが、諸々の事情を鑑みキレイライン矯正が終わってから判断しよう、という結論に。正直痛みは食事中のみかつ無視できる程度で、日常生活には全く支障をきたしていなかったので、「奥歯がこれ以上傾きさえしなければ、きっといずれ気にならなくなるだろう」と楽観的に捉えていました。
しかし、残念ながらそうは問屋が卸さず...。軽度の違和感はずっと続き、10月頃から徐々に違和感が大きくなっていったので、奥歯を動かす矯正治療を本格的に検討するように。
そして、2021年1月上旬の社内ミーティングでの出来事。「最近調子どうよ」という小話の中で、奥歯を動かす矯正治療を始める予定であることをカジュアルに話していると、「えっ、それって舌がんになるやつじゃない?」と、人生経験豊富なメンバーより一言。「へ?舌がん?なにそれ聞いたことない」と思いながら、急いでその場でググってみると...。
「ヤバい、完全に症状が一致している。」
その日は急遽お休みをいただき、別の歯医者さんに駆けつけ、即座に大学病院に繋げてもらい、、、怒涛の検査が始まりました。
がんに対する誤った認識
さて、これを読んでくれているみなさんは、
- 日本人の2人に1人ががんにかかると言われている
- がんは全身のどこにでも発生する
ということをご存知でしょうか。
(参考: https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g4/cat450/sb4502/p024/)
小中高時代はずっと優等生で、教室で先生から教えてもらう内容は全てくまなく頭に叩き込んでいたはずの私ですが、27年間生きてきて、残念ながらこの知識は持ち合わせていませんでした。
がん宣告を受ける約1ヶ月前までの私のがんに対する理解は、
- 過度な喫煙・飲酒をする中高年の方あるいはがん家系の方に発生するもの
- 基本、胃がん・膵臓がん等臓器に発生するものだが、女性だと乳がん・子宮頸がんにも気をつけないといけない
という、どこから得たのか分からない先入観ファーストの(苦笑)、非常に誤ったものでした。
なので、幸いにもこれまでがんで亡くなった親戚はおらず、無喫煙・機会飲酒のみ・週2のジム通い・趣味はAudibleやPodcastを聴きながらのウォーキングという、THE・健康的な生活を送っていると自負していた私からすると、これまでの人生で(女性に対してよく警鐘を鳴らされる乳がん・子宮頸がんを除き)「がんになるかも」という考えが頭をよぎる瞬間は、一切なかったわけです。
また、検査のための通院を重ねる中で、自分が舌がんであるというのは結果が出揃う前から徐々に確信していましたが、がんに対する上述のような認識と自分の楽観的な性格のおかげで、「膵臓がんとかはヤバいって聞くけど、舌がんはそういう話あまり聞かないよな。若いし他の部分は至って健康的だし、まあがんだったとしてもそんなに深刻ではないでしょ」と思っていました。もちろん、ロジックも根拠も全く存在しません(笑)そんな感じだったので、状況を逐一報告していた会社のメンバーからは、「こんな状況で、なお明るくいられるのが本当にすごい」と言われたりしていましたが、今思えば、単純に事態の深刻さを過小評価しすぎていただけです(苦笑)
そして、(偶然にも)全ての結果が出揃った27歳誕生日当日。主治医の先生から、「検査の結果、悪性であることが判明しました。腫瘍の大きさからすると、ステージⅢの舌がんです。細胞レベルではわかりませんが、一応まだ他の部位への転移は認められていません。治療可能な段階です。この場合は手術です。早急に入院手続きをしましょう」と告げられます。
同席していた両親は頭が真っ白になっていたようですが、既に確信めいたものを持っていた私としては、「やっぱりそうだったか〜。ようやくToDoが分かってよかった。ステージⅢってよく分からないけど治療可能なら安心、早く治そう」というのが、最初に思ったことでした。
その場では泣きもせずパニックにもならず、終始落ち着いて入院手続き等のToDoをこなし、会社のメンバーと、そして誕生日祝いのメッセージをくれた方々への連絡を順次行っていた記憶があります。そして、その日の夜は、その返信として届く、お世話になっている人たちからの心配・気遣いの声が本当に有り難くて、「ああ、自分はなんて素晴らしい人達に囲まれているんだろう。本当に幸せ者だなあ」と、感動の涙を流していました。その時の様子が下の写真です。感染対策をした上で、近場でささやかに誕生日祝をしていました。(ノーメイクで失礼します。)
One-way door と Option B、激しすぎた感情の起伏
心の平静を失ったのは、翌日からでした。改めて自分の病気と手術の内容について理解を深めようと思い、「舌がん 手術」「舌がん 患者 ブログ」などのキーワードでググり始めます。そこで目に飛び込んできたのは、手術後の機能障害(嚥下・発話機能の低下)、大きな傷跡、そしてがん再発の可能性ーーここでようやく、自分が立ち向かおうとしているものが、自分の今後の人生を大きく変えるものだという認識が生まれました。「手術とリハビリさえ乗り越えれば、またこれまでと変わらない生活が送れる」と勝手に思い込んでいた私からすると、それはまあ相当なショックなわけです。特に、食べることと話すことが人生の楽しみの大部分を占めている人間にとっては、機能障害について、「どんな結果になろうと受け入れる」というわけにはいきませんでした。
事態の深刻さを漸く自覚した瞬間、私の頭をよぎったのは、Amazon創業者 Jeff Bezosの意思決定フレームワーク。どう考えてもこの状況は後からの修正が効かない "one-way door" タイプであり、ただ流れに身を任せるのではなく、入念に、注意深く、様々な角度から何度も検討した上で、治療法・病院について意思決定しなければならない、と考えを即座に改めます。
そこから治療法・病院を決めるまでの約2週間弱は、「嵐」の一言でした。これまでの人生を振り返っても、今後を想像しても、あれ以上に感情の起伏が激しい期間はもう存在しないでしょう。いや、存在しないで欲しい(笑)「今この瞬間にもがんが進行しているかもしれない」という恐怖の中で、なりふり構わず思いつく限りの医療関係者・がん患者コミュニティに連絡を取らせていただき、それはもう「友人の友人の知人」レベルまでたくさんの人々を巻き込んでしまいながら、猛烈にリサーチを進めました。
リサーチとセカンドオピニオン取得に奔走する中で、「あの治療法でもいけるかもしれない」「この治療法だったらこっちの病院のほうが良いらしい」と状況は刻一刻と変わっていき、前進しているのか後退しているのか分からない混乱を極めた期間が続きました。近くでずっと見守ってくれていた友人が、心配のあまり深夜に眠れなくなって長文のメッセージを送ってくれたほど、当時の私は迷走していたようです(笑)
※後日別記事としてまとめる予定ですが、上述のような私の動き方が正しいと主張するつもりはありません
けれど、ひとつだけ、早い段階で明らかになったことがあります。それは、Facebook COO Sheryl Sandbergが著書で説いた、"Option A is not available" という現実。
今回の私にとってのOption Aとは、「ペインフリー、リスクフリーで、治療後に完全に元の生活に戻ることができる選択肢」でしたが、ステージⅢ以降の進行がんでは、調べた限り、どの治療法を選択し、無事完治することが出来たとしても、何かしらの後遺症と共に残りの人生を歩むことが求められるようでした。しかも、その何かしらの後遺症の度合いについては、「個人差がある」がファイナルアンサーで、実際に予後にならないと分からないという非常に高い不確実性つき。
"So let’s just kick the shit out of Option B" ーー文字通り自分の命が関わっているにも関わらず、Option Aが存在しない状況で、どのOption Bを選ぶか。こんな究極的な不確実性下での意思決定を、まだまだ未熟なこの歳で突きつけられるとは、これ以上のハードシングスはあるのだろうかと、途方に暮れたのは言わずもがなです。
とはいえ、「放置して治る」などという幻想は既に打ち砕かれており、時計の針は進み続ける。なんなら、腫瘍の痛みはどんどん酷くなっている。(余談ですが、この時、病理検査の影響で夜眠れないほどの痛みが続いていました。当時はそれががんの進行によるものと思いこんでいたため、恐怖心もMAXでした。)決めないといけない。学生時代からスタートアップの世界に飛び込み、際どい意思決定はそれなりにビジネスの世界で下してきたつもりでしたが、流石に足がすくみました。
「生きる」という意志
最終的に私が下した意思決定の詳細については、ここでは言及を控えます。凄まじい感情のジェットコースターに乗りながら学んだことの一つですが、医療に関する意思決定に唯一絶対の正解はなく、全ては個々人の死生観と照らし合わせて行われるべき、と考えるからです。将来、舌がんを宣告された患者さんが何かしらのきっかけでこの記事に辿り着いた際に、変な影響を与えたくはありません。(※こちらの詳細も、恐らく後日別の記事で)
その代わり、というわけでもないですが、今回を機に少しアップデートされた私の死生観について少し。
私は "Daily Stoic" というストア派哲学入門用のメルマガを購読しています。配信内容に目を通すのが毎朝のルーティーンとなっているのですが、がん宣告を受ける1週間ほど前にタイミングよく、 "You Are Dying Every Day"と題された内容が配信されました。
Death doesn’t lie off in the distance. It’s with us right now. It’s the second hand on the clock. It’s the setting sun. As the arrow of time moves, death follows, claiming every moment that has passed.
それまで真剣に自身の死について考えを巡らせたことはありませんでしたが、舌がんの確信が強まる中で、これを読んでハッとさせられたことがあります。
確かに、死はいつだって私達のすぐ隣に存在していて、いつどの瞬間に何が起きてもおかしくない。極端な話、自分で終わらせようと思えば、いつだって生を終わらせることが出来る。自分が死んだとしても世界はこれまで通り回り続けるし、痛みが伴わないことを前提に、死というのはマイナスでもプラスでもなく、ただのゼロというステータスだ。そんな中で、「生きる」ということは決して自然な行為ではない。どの瞬間も「生きる」という意志によって実現されているものであり、その意志は、ゼロ以上のプラスを求めているからこそ生じているはずだ。
それならば、生きるという選択をする以上、がんの治療をするという選択をする以上、プラスを最大化できる道を選びたい。I don't live just to survive but to thrive.
自分の中にこういう考えがあったからこその、今回の意思決定となりました。
むしろ、パワーアップして戻ってきます
そんなこんなで、治療法・病院に関してはなんとか腹を括れまして、後は今週からスタートする治療に専念するのみです。実際に治療がどれぐらい辛いものになるのか、今は全く想像できません。
直近数週間の嵐の様子は上述の通りで、心の底からもう同じ経験は二度としたくないと思いますが(笑)、実は、不安・恐怖以上に、周りの人からの愛とサポートを強く感じた期間でもありました。ここについては書き出すとまたとっても長くなる(厳密には、本記事内で書き始めてみたけれど、感謝の気持が溢れすぎて収集がつかなくなって大変なことになった)ので、後日別の記事としてまとめさせてください。
とにかく、もう怖くないと言ったら嘘になりますが、沢山の方からたっぷりの愛情と声援を頂いたおかげで、病気と戦う準備はできました。恐らく今年の上半期終わり頃までは人生のお休み期間に入りますが、その後完全復活、いやむしろパワーアップした姿で、再び皆さんの前に登場するプランはもう立ててあります。27歳の目標は、28歳を迎えるまでに、内面・外面ともに自己ベストの状態を更新することです。
そんな私と会うことを楽しみに待っていてもらえたら、、それ以上に嬉しいことはないです!
それでは、行ってきます!
↑ 治療法・病院が決まるまでの間一切の余裕をなくしていた私の代わりに、大学時代最も密度の濃い時間を共にした友人が入院準備をしてくれました。本当に、持つべきものは友です。クマちゃんは抱えて持ち込みます。
P.S. このnoteについて
本記事内でも何度か「後日別の記事で」と言及した通り、もう少し書き溜めておきたい内容があります。治療期間中にゆるりと更新していこうと思うので、気にかけていただける方は是非定期的にチェックしていただけると嬉しいです。
P.P.S. 入院中のお見舞い・差し入れについて
沢山のオファーをいただき、どうも有難うございます。つくづく自分は幸せ者だと感じています。お見舞いについては、生憎コロナの関係で家族すら面会禁止の状態ですので、ビデオ電話などで構ってもらえると喜びます。差し入れについては、厚かましくも近日中にウィッシュリストを公開させて頂きます。もしよろしければ、公開したタイミングでお知らせさせていただけるよう、お手数ですが、こちらのフォームよりメールアドレスをご登録いただけますと幸いです。
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