みんなの身の上話

みんなの身の上話

誰かが、子供の頃貧しくて、食べることさえままならなかったんですと言い

誰かは両親が不仲で、夜毎に争いや暴力が絶えず今でも不眠症なんです、と言い

親を知らないんです、
虐待を受けていたんです、
いじめに合っていたんです、
浮気されているんです、
ネグレクトなんです、
戸籍がないんです、
LGBTなんです、
病気があるんです、
障害があるんです......

と、ありとあらゆる壮絶な、まるで映画や作り事のような、辛かった出来事、ある時は被害者に、ある時は加害者になり
いまも終わりない苦しみの中にいることがあって

表面的な付き合いの社会の中で、例外なく誰もが
家族が、友人が、同僚が、知り合いが、いま電車の中でとなりに立っているその人が
人には語り尽くせない『複雑な事情』と
単純な心の苦しみや悲しみを抱えて生きていたりする。特に話さずに。

恥ずかしいから
どうせ理解できないだろうし何の助けにもならないから
不幸比べみたいになるのが嫌だから
自分の問題だから
引かれるから
他人だから
関係ないから。

人に語って分かり易い不幸なんてないし
説明できないものもあるし
人生に対しての漠然とした
疲労と、諦めと、倦怠感は
それが漠然としたもののまま、分析もされず、理解されようともせず、答えがない沼のように無視され、放置されているから
救われない

人類の長く短い歴史の中で、何十億(何百億)という人間が生きてきた中で
ありとあらゆる暴力や支配や無理解、残虐、不幸、苦しみが存在していて
いまを生きる私達のそれと同じ類のものも星の数のように人知れず存在し、
それらは語られ、共有され、分かち合われ、理解され、慰め合い、救いあえるものであるはずなのだと思う。本来は。

そういう術(すべ)を、私達は短い人類の歴史の中で学んで、少しずつこの世界を生きやすい場所に変えていけるはずなんだと思う、本当は。

誰も理解してくれない、受け入れてくれない、助けてくれない、かもしれない状況で
果たして自分の身の上話を人に出来るでしょうか
自分の苦しみを人に吐き出すことは、どれだけ勇気がいることでしょうか

それを聞いた人は、どんな気持ちでそれに寄り添おうとするでしょうか
それとも拒絶して逃げ出すでしょうか
色んな人がいて、色んな反応があるでしょう
だってみんな自分自身の『事情』を抱えていて、他人のそれを受け入れる心のスペースはないかもしれません

だけどひとつ間違いないことは、誰一人例外なく

そんなに今まで大変な思いをして、辛く苦しい色々な事があって
それでも今日、この時まであなたは生きていて、本当に凄いねよく頑張っているね
ということです
みんなそうなのです
明日はわからないけど、すべての人がなんとか今日まで生きてこられた、その唯一の理由は何でしょう

それは共感、生き物と生き物の、心が分かり合えているな、という、その瞬間の記憶と希望なんだと思います

今日まで生きてきてあなたは凄い。みんな凄い、色々、あったんだから。あまりにも、色々なことが。お疲れ様、そうゆう事を忘れずにいたい

#自死 #自殺