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からすうり文芸堂(創作)

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詩や小説、エッセイなど、創作文芸をまとめていきます。
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#小説

【掌編】2・マルシェの女教皇

 様々な占い師たちがブースを借りて出展するマーケット式のイベントは、通称「マルシェ」とい…

夏川佳子
2年前
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【小説】インクルージョン〜内包されたもの〜7

 美しい夢を見た後は、夢から醒めるのが少し怖い。  地上世界に浮上しても、私はまだあの金…

夏川佳子
2年前
42

【小説】インクルージョン〜内包されたもの〜6

 催眠療法というのは、子ども時代とか過去世に遡ってトラウマを探り当てたりするものなのかと…

夏川佳子
2年前
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【小説】インクルージョン〜内包されたもの〜5

 私を内側から照らす光は、階段を降りる前に、にがよもぎ博士がくれたものだった。博士は魔術…

夏川佳子
2年前
39

【小説】インクルージョン〜内包されたもの〜4

 にがよもぎ博士のワークは、いささか変わっていた。これが正当な心理療法のやり方なのだろう…

夏川佳子
2年前
50

【小説】インクルージョン〜内包されたもの〜3

 失ったものを数え上げればきりがない。  思考はとりとめもなく、イメージを数珠繋ぎに浮か…

夏川佳子
2年前
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【小説】インクルージョン〜内包されたもの〜2

 私が原因不明の不調に悩まされるようになったのは、1年ほど前のことだ。私の仕事は、専門知識を必要とするような難しい作業ではない。替えのいくらでもきく、お店のカウンターに立つ仕事だったのだけれど、誰にでもできそうなその仕事がどうにも難しくなってしまった。  いくつかの路線が乗り入れる大きなターミナル駅のビルに入っているその店は、場所柄もあってお客がひっきりなしにやってきた。忙しい日にはレジの前に列ができることもあり、私は何も考えずに目の前の作業に集中して、次から次にやってくる

【小説】インクルージョン〜内包されたもの〜1

 幼い頃、近所の雑木林に群生している紫陽花の青色が好きで、私は飽かずにその色を眺めていた…

夏川佳子
2年前
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【短編】小さな海の話

旅が好きだ。 日常とかけ離れた場所に身を置いて、 閉じた世界に風穴をあけるのが好きだ。 知…

夏川佳子
2年前
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【掌編】カフェ情景

きりっと冷えた風を切って自転車を走らせていると、 黄金の葉がタイヤの下で砕ける乾いた音が…

夏川佳子
2年前
3

【掌編】小さな虹のかかる部屋

窓辺に吊るしたサンキャッチャーが、 お日様の光を受けてキラキラと輝いています。 規則正しく…

夏川佳子
2年前
6

【掌編】不在の魚

もう十数年も前になるだろうか。 私のことを描いた画家がいた。 「私のこと」とは言っても、そ…

夏川佳子
3年前
4

【掌編】かなしみをきちんとかなしむための小品

5歳になる息子の静かな寝息が、灯りを消した室内に優しく繰り返されている。 トワの規則正しい…

夏川佳子
3年前
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【掌編】失語的情景描写

人が集まる場所では、言葉を失う。 いつの間にか、たくさんの人が集まる場所では喋らなくなってしまった。 口を開いて、視線や意識が私という1点に集中すると、とたんに頭の中に空白ができたようになり、何を話すべきなのかわからなくなってしまう。 楽しげだった会話の流れは途切れ、急にぽっかりとできた空白の中で、私はいやな汗をかいている。 ほかの人たちの楽しそうな言葉を聞きながら、心に浮かんできたものを言葉に置き換えようとしていたのに、視線と意識を1点に浴びて私の思考回路はショートしてし