旅館の食事
※創作であり、実在する人物や団体などとは関係ありません。
『高い旅館に泊まったら、大失敗。多すぎて到底食べきれない。廃棄前提としか思えない。不味くはないけど、体験価値としては…』
自分の投稿があっという間に炎上するのを他人事のように見ながら、男は幼い頃のことを思い出していた。
夏休みや冬休みには、母に連れられて父の実家へ遊びに行った。
祖母の作る料理はいつも盛り沢山だった。何枚もの大皿に山盛りの料理が並んだ。食べるのは男と、男の妹、そして祖母と母だけだったのに。
普段は食が細い母が、「おいしいね」と何度も言うので、少年だった男もいつもより箸が進んだ。結局みんなで全てを平らげるのが常であった。
「おばあちゃんの料理、いっつも量が多いよね。畑で採れたもの全部料理したんじゃないかな」と言えば、母は
「そうね。でも、全部食べたから、おばあちゃんうれしそうね」と言ったものだ。
母の料理は、むしろ簡素過ぎるほどではあった。買ってきた惣菜とリンゴだけ、ということもあった。
「このリンゴ、蜜の量間違えたのかってくらい甘いね」と言えば、母は
「そうね。すごく甘いね。あたりだったね」と言ったものだ。
炎上騒ぎもひと段落した頃、母からLINEが来た。普段は忙しくてテレビもインターネットも見ない母は、時々気まぐれに投稿を見ては感想を送ってくる。
「旅館泊まったのね。美味しそうな料理🍱」
と母。
「捨てるんかっていうくらいの量だったよ」と男。
「そうだったの😲」と母。
男は
「でも全部食べたよ。美味しかった」
と返信を送った。
母からは「👍」と返信があった。
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