楽器奏者が曲を作ると「歌いにくい」曲になる理由


今日のテーマはこちらです。

割といろんな人に相談を受けるんですが

曲が難しい、のではなく「歌いにくい」と称される理由を分析してみます。

結論から言うと、最たる理由は「歌で歌を作ってないから」ということになりますが

もう少し細かくみていき、解決策も出していきましょう。

大きく分けて3つあります。

(4つ目は、本人の意思でどうにもならない事である事と、自由な発想という点ではプラスにはたらきますが、歌いづらくなるという点ではマイナスになるので、あえて数には入れませんでした)

1.音域が広過ぎる

楽器奏者が最初にやりがちな事ですが、まず事前に確認してみて欲しいのが、自らの声域です。

どんなもんでしょう?2オクターブぐらいでけっこうキツさ感じませんか?

3〜4オクターブ楽勝で出せるぜ!なんて人はそんなにいないと思います。

ところが、普段楽器を触ってる人とかって、3〜4オクターブかそれ以上の音域を扱うのが割と当たり前なんですよね。

そしてその楽器でメロディーをつける、となると人の声で再現しやすい範囲を明らかに超えてくるわけです。

ここに、歌い手と作曲者のギャップが生まれます。

2.声質の変化を計算に入れていない

先ほどの音域の話に繋がりますが、出せる声域の中でも

「歌として美味しい所」となるとさらに範囲は狭くなるかと思います。

また、仮に3〜4オクターブ出るからと言っても端から端まで使え、となると話が変わってきます。

2オクターブ間の移動を正確に行うとか、機械でないと苦しいです。

これも先程と同じように、楽器では簡単に、音質の変化も少ない状態で出せてしまうので、そのままメロディーにしてしまいがちです。

ところが、歌い手にしてみれば地声のまま声域の端から端まで使えるわけではなく、必ず声の出し方を変える必要があります。

伸ばす音も、歌詞の母音によっては伸ばしづらくなったり、けっこう奥深いものです。

声質にこだわらなければ音程としては出せるけど、本人としてそれが歌として良い物ではない、というのは歌い手の大きな悩みではないでしょうか?

実は名曲と呼ばれる曲って、そんなに音域が広いとか、凄いことをしてるわけではありません。

だいたい1オクターブと少しぐらい、にまとめていけば、あとは適切なキーに変えれば誰しもが歌いやすい範囲に収まると思います。
3.息継ぎがない

これも楽器でメロディーつける人がよくやりがちですが、音を詰め込み過ぎて息継ぎするところが無くなったりします。

あとはロングトーンで伸ばしすぎるとか。

たとえば、楽器にしても人の息を使う吹奏楽器などの経験がある人ならば、息継ぎのポイントを作る大切さはすぐわかると思いますが

特にギターなどの場合、ビブラートすればいくらでも音伸ばせたりしますし

キーボードも音色によってはサスティーンが無限になることもあります。

ところが、生身の人間には必ず息継ぎが必要です。

自分が普段必要としてない事なので、案外抜けてしまいがちですが

ここでも作曲者と歌い手のギャップが生まれるわけですね。

余談ですが、ギターインストなんかを作る時も同じように

歌、特に息継ぎの「間」を意識して作ると「歌心がある」と言われるような

メロディアスなラインを作りやすいですね。

4.時代に影響されている

これに関しては時代的なものもあって、機械的な編集で手を加えたり、ボーカロイドの影響もあると思います。

早口な曲だったり、どう考えてもブレスがないまま歌ってる曲もあります。

また、音程を補正するようなソフトも使用されていますし

そういう曲が世に出てしまってるので、普段から聴いている、だからそのままやっちゃう。

ところが、目の前にいるのは生身の人間の歌い手なので、実際にできる範囲が想像よりも狭い…という感じじゃないでしょうか。

もう今や機械的な加工なしで世に出てる音源はほぼ無いと言っていいと思います。

何かしら絶対に手は加わっているので「思ってたのと違う」とならないようにしましょう。

そう言った意味でも、作曲者がミックスやマスタリングの知識をつけることは大きな意味があります。

これに関しては、楽曲分析がどこまでできるかで変わってくる感覚だと思います。

これは人間には無理だな、とか

加工前はこうなっているんだろうな、とすぐわかるようになるので

ケースバイケースで人にできること、機械にできることを切り替えて考えられるように

日頃から分析力を鍛えておく事が肝要ですね。

解決策は1つ、自分が歌う

歌は誰でも歌えます。たとえ音痴であろうとも(笑)

上手く歌うのはあくまで歌い手の仕事ですから、下手でもまずは自分が歌ってみて、歌い手の気持ちを共有していくことが大事です。

多くの場合、作曲者は「メロディーをつける」ことをしますが

DAWなどで打ち込んでいる場合、その音色に依存したメロディーになりがちです。

これがガイドメロディーというやつですね。

ガイドメロディーに沿って歌ったら、なんか思ってたよりキツそう!というのはよくある話で

これが逆になる事もあります。

鼻歌で良いと思ってたのに、ガイドメロディーで聞くとなんだかダサい…という風に、恐らくなります。

結果として、ガイドメロディーを派手にしていったものの、いざ歌になると歌いづらい…そんな曲になってしまいがち。

なのでガイドメロディーを使うなら「ダサいな」と感じるぐらいが実は歌としては良い塩梅だと思ってください(笑)

逆に言えば、最終的に歌になるならガイドメロディーがダサくても何の問題もないんです。

歌になった時にカッコよければ、それで良いんですから。

なので、メロディーをつける段階でしっかり歌う事が大事です。

歌詞がないなら鼻歌でも構いません。こうして実際に歌う事で、上記のような明らかなギャップはかなり少なくなります。

また、個人の差による部分もあります。

例えばボーカロイド等は製品さえ同じなら同じ声が誰でも手に入りますが

人間の場合、同じ声の人は基本的にいませんし、男だから低音が得意で、女だから高音が得意、なんて事も一概には言えないものです。

当然の話で、例えば僕はB'zの稲葉さんが大好きですが

稲葉さんのように誰もが歌える訳ではないですよね?(笑)

なので、いくら好きだからと言ってもそれをベースに作曲したりはしません。

あくまで自分が歌ってもらう歌い手さんに合わせて曲を仕上げるのが大事です。

機械や楽器、他の歌い手で演奏できても、目の前の生身の人間に同じ事ができるとは限らない、またそれが良い物になるかはわからないのです。

実際に自分が歌ってみれば、明らかに歌いづらい事はしなくなります。

出ない音域は出ないとわかります。

無理して出すと声の質が変わるのもわかります。

息継ぎが足りない部分もわかるようになります。

まとめ
要するに歌い手の目線で、同じ気持ちになるように寄り添う事が大切です。

歌い手にすら響かない、納得いかないで歌った曲が、世に出てお客さんに響く、とは僕は考えにくいですね。

また嫌なことをやれ、というのはなかなかのストレスです(笑)

僕は普段歌はやっていませんし、もちろん人前で歌うこともないですが

曲を作る時だけは絶対に歌ってみます。

数字や目盛りだけでは測れないものがあるからです。

立場が違えば、例えばキーボーディストが書いた曲はギタリストにとって弾きにくいものになったり

またその逆も起こります。これの理由も同じです。

お互いが何をどんな労力でやっているか、それがちゃんと見えてないからなんです。

ドラマーさんとかよく「腕が3本ないと無理」みたいな事を言ってるのをよく聞くようになりましたね(笑)

特にDAWによる打ち込みが広まってから、各パート間でのギャップというか「こんなのできるか」という問題が沢山増えたんじゃないかと思います。

本来は、ギターのパートを作るならギター、ドラムのパートはドラム、鍵盤のパートを作るなら鍵盤で、歌を作るなら歌をそれぞれやらないと出来なかった事が

PC上でクリック1つで再現できるようになった。

しかし誰でも簡単にできるが故に、相手の労力がわからなくなる、そういう目に見えない代償が生まれています。

きちんとそれぞれのパートの視野を持って曲を作っていくと、楽曲トータルの完成度も上がってきますし

良い意味で自然な流れの曲になりやすいです。

本採用の曲でなくても構いません。一度全パートを自分で演奏して作り上げてみる、なんて事も

作曲する上でとても良い経験になると僕は思います☀️

オクターブ下でも構いません。下手でも良いです。自分で歌ってみて

なるべく、歌い手が味わう現実を自分の身で感じてみる。

プレイする人が見ている世界を、自分が知ってみる

音楽に関する知識だけではなく、そういう思いやりをもった理解も必要ですね。

綺麗な言葉で言えば「リスペクト」というやつでしょう。

何事においても大切な事だと思います。

便利さのなかで薄くならないように気をつけたいですね。

以上、楽器奏者が作ると「歌いにくい」曲になる原因と対策でした

役立ててもらえれば幸いです👍



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