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背水の陣、中月裕子が紡ぎあげた未来

(会報コラム「ボーダーライン」第8号/2023.1)

2022年12月4日(日)は、第21期女流雀王決定戦の2日目であった。
今期より女流の決定戦は5人打ち。
この日最下位の1名が敗退し、次の最終日は4名で戦うことになる。

5人打ちになった理由の主なものは、一つには昨今の世情があり、
急病など何らかの事情で対局ができなくなった場合でも、決勝戦を行うことができるため。

もう一つは、最終日に差が大きくなり過ぎて、競技性が損なわれることになる可能性を減らすためである。

実際これによって生まれる敗退逃れのドラマが加わって、
道中の勝負を面白くするスパイスとして軽視できない効果があった。

2日目の5半荘の戦い。最終回の抜け番は、1日目5位だった中月裕子である。

2日目の4戦目。
全15回戦の対局で、この第9回戦が中月にとって瀬戸際の半荘というわけだ。
ここまでも中月のトータルポイントは△183.7で、初日よりさらに上位とは離された状況であった。

南3局1本場、中月の親番。

27300点持ち2着目で、配牌は、10種。
現在4位が今抜け番の澄川なゆで、△42.1。
次の回を打てない中月はなんとしてもここで大きなトップを取って、
澄川にある程度の条件を課さなければならない。

国士か──。それしかない。

4巡目。

10種のまま、4トイツになる。ホンロウチートイツや、ホンロウトイトイが見えるようになった。

ただ国士に行くこと自体はもちろん簡単である。

しかし、この中月にとって最後かもしれない親番で、
決して他のルートに変更の利かない、狭い狭い一本道に身を投じるのは、
本当に勇気がいる行為だ。

中月は熟考した。
トイツの9p1s東南を仕掛けても、18000は見える。

だが──。

ドラまたぎの9pを1枚放して、未練を断つ。
中月が鳴いても、他家は容易に進めさせてくれないはずだ。

ここからはもう、麻雀の読みとか思考とか手組みは一切不要の世界になる。
ただ、1pと西と発を。
引き当てるだけの坊主めくりである。

しかしこれこそが、背水の陣でただ牌をツモるだけの必死の行為が、
観る者の心をとらえて離さない、麻雀の最も純粋な醍醐味であるのだ。

まずは発を引く。

そこに水崎ともみがドラの8p単騎でリーチ。

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