FX戦士くるみちゃん:感情を高める仕掛けをしっかりすれば「チャートの上げ下げ」だけでも物語は作れることを証明した傑作
こちらのnoteでは「掛け金をあげる」というお話を紹介しました。
感情を高めるための仕掛けをどれだけ作れるかは作者の持ち味の見せ所。(ハルヒスキーさんは荒木飛呂彦先生の例を挙げて「掛け金を上げる」という表現を使われてました。)
これに関連して1つ作品を紹介しておきます。
まさにこの「掛け金を上げる」に特化したお話です。
「ギャンブル系マンガ」はえてしてすべてこの掛け金をつりあげる手法を用います。それでも掛け金をあげる「だけ」ではありません。ちゃんとゲーム要素も盛り込んできます。しかしこの作品は本当に掛け金を吊り上げる1点突破のみです。それだけで面白いマンガを作ってしまいました。
そのくらい11話で語られた手法は効果的だということが言えると思います。
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私は原作時代からのファンですが、原作は投資やったことない人にはちょっと理解するのにハードルが高い作品でした。(↓が原作)
これが商業化にあたって作画・監修がつくことにより、やや毒は薄れたものの一般人にでもわかりやすくなったのでマンガ好きの人すべてにおススメできる作品になりました。
絵柄が萌えに全振りだし投資というテーマ自体に拒否感もつひともいるかもしれませんが、それで敬遠するにはあまりに勿体ない作品なのでぜひ読んでみてほしいです。
「掛け金を上げる」→「生き死にとリンクさせる」だけで読者をワクワクさせる物語が作れてしまう
商業版では主人公の行動原理などがわかりやすく設定されてますが、原作はさらに尖ってて「チャートの上げ下げ」だけで十分読ませる作品になっていました。
「実際に起きている現実は絵面で考えるとめちゃくちゃ地味」です。画面でチャートが動いてるだけです。なによりもトレードをしている主人公以外、周りには全く関係がない話。
「こんなん物語になるのか」と思うのですが・・・なるんですよね。なるということをこのマンガが証明してくれた。
実際これ以前には株関係のマンガはいくつもありましたが、だいたいすぐ打ち切りになるか、投資とは関係ない部分にシフトせざるを得なかった。「銭華」とか「金と銀」とかも、トレードそのものよりそれ以外の部分がメインで、トレード自体は主役にはなりえなかった。
しかし本作品はリスクの感覚をちゃんと読者にもわかる形で共有してくる。
他の作品では絶対不可能な「自分の限界の59倍」の掛け金を積むという行為によって物語を盛り上げる
①基本的に凡人には掛け金を吊り上げるということ自体が許されていない(相手や周囲がそれを受け入れてくれない)
ジョジョでも「自分の魂をかける」とか「花京院の魂をかける」といった展開はありますが、これでも数人分しかかけられない。というか「かけることを許されない」んですよね普通は。
セカイ系みたいに「自分以外の魂をかける」ってのは選ばれし人間の特権です。そんな無謀な賭けは他の人が許してくれないし。始める前から失敗するのわかってる。
菅総理が国民すべての命をかけたギャンブルができるのは彼が最高権力者だからです。普通の人にはそういうことは許されてないし、そのあたりを適当に描いてるマンガはなんか白々しいものになりがちです。
(なので、個人的には「リアルアカウント」とか「神様の言う通り」みたいな作品はあまり好きじゃないです)
②でも、どんな凡人でも自分の本来のキャパシティの何倍まで掛け金を吊り上げて勝負できるのがFX
というわけで、ただのトレードでも掛け金をここまで吊り上げると、物語になるわけです。
掛け金を吊り上げることによって、同じ行為でも全く違った世界に見えてくる
主人公がやっていることは明らかに愚かなのですが、その愚かさによって、世界が強烈に刺激的になっていきます。
これギャグに見えるかもしれませんが、実際に「全財産の」60倍なんていうハイレバレッジでやってたら本当にこういう風に見えます(経験談)
今では信用取引(上限3倍)すらやらなくなりましたが、アホなころってその怖さが本当にわからないですからね。
そして、この値動きの描写と主人公たちの心理状況をリンクさせることができれば、これは普通のマンガの何倍も激しい「感情が起伏する」作品になります。
とはいえ、登場人物の感情を「トレードなんかやったことない読者」にどこまで伝えられるかは未知数
私にとってはもう5話の時点で傑作以外の何物でもないのですが、この作品が本当の意味で真価を問われるのは、「投資なんかやったことない人」にどこまでこの登場人物たちの感情を伝えられるか。
5話までの内容は、「本格的な格闘漫画」を描いた時に、格闘技をやったことがある人がそのリアルさを賞賛する、という段階だと思います。投資やったことがない人が「なんかすごそうだけどよくわからん」と言ってる間はマニアっくな作品にとどまっています。
そこで6話目から登場するのが「完全に投資ド素人の女子大生」です。
このキャラクターを通じて、投資したことがない人でも引き込まれる作品になるかどうか、ですね。
原作版は、やりすぎなくらいにやりすぎたわけですが、商業版でどこまで原作のエグさを残しつつ、一般層に受け入れられる展開を描いていくのか、今からすごくすごく楽しみです。
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