『一庶民の感想』 10 人間嫌い

 人間が嫌いだ。人間が不快だ。自分が人間であることが不快だ。自分が人間であることに嫌悪をおぼえる。

 人間が気持ちの悪い、醜悪な、腐臭を放った化け物に思えるときがある。人間を見るだけで胃がムカムカし、吐き気が込み上げてくる。気持ちの悪い物体が蠢き、しゃべっている。人混みなど最悪だ。一秒だっていられない。

 自分自身が人間であることが、我慢ならないくらい気持ちが悪い。早くこの世から離れて、人間でなくなりたい。次もし生まれ変われるとしても、絶対に人間だけにはなりたくない。人間以外の動物あるいは植物、川や海なんかが良い。もしくは、もう二度と生まれなくして欲しいと思う。

 カート・ヴォネガット・ジュニアが、ポールモールの煙草のフィルターを切り取って吸っていることを問われて言ったとされる言葉、

「これは緩慢な自殺なんだ」

ぼくも同じことを考える。直接死ぬ勇気がないから、煙草によってゆっくりと死期を早めてゆくのだ。

 人として生きなくて良いということの幸福。人間として生まれたことのなんたる不幸。

 エミール・シオランの言うように、「死が一切である」。

 生は苦痛である。それは、人間として生まれたとき最も顕著である。大切な人も愛も物も失い続ける人生は、醜怪な人間には相応しい。

 ぼくは人間として生まれたことが激しく不快だ。

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