『一庶民の感想』 9

 失恋による傷は、新しく愛されることによってしか、過去にならない。

 愛することを知り、愛を失うことの苦痛を知った今、心の中に大きく抉り取られた傷がある。その傷は仕事でも音楽でも、本でも漫画でもアニメでも映画でもスポーツでもファッションでも、埋まらない。愛した人のための傷は永遠にそのままだ。無数につけられた傷によって変形した何か、それがその人固有の個性となる。

 現在進行形の傷は常に今ここに存在する。たとえそれが何年も前のできごとであっても。それが過去のものとなるのは、傷つけられた総体そのものを、それでも良いと言ってくれる人が現れた時のみに限られる。それまでの間をいかに生きるか、それが最大の問題だ。

 不完全で不恰好に変形した自分でも、愛してくれる、好きだと言ってくれる人が必ずいると信じられるようになった時、きっと本当にそういう人が現れる。

 信じる度合いは微弱でも良い。希望は薄められた望みである。確信は生を支える。信は何度でも蘇る。

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