その夜の妻(1930)

小津安二郎監督作品。

『非常線の女』と同じく、若き日の小津が完璧なアメリカ映画しぐさを見せるハイパースタイリッシュ犯罪ドラマ。この頃から細かい部分でアクションつなぎをやりまくっている一方で、若さほとばしるパンニングや移動撮影のケレン味がたまらん。

大正モダンを飛び越えてまったく日本に見えない大理石風の建造物の前をパトロールする警官で幕を開け、やさぐれた色気を全身にまとった岡田時彦はシャープな逃走劇を演じ、絶妙な面長顔の八雲恵美子は和服で二丁拳銃を構え、ふてぶてしさの化身のような山本冬郷はおもむろにタバコを吐き捨てる。端的に言って前半がカッコ良すぎて死ぬ。岡田時彦が帽子を放ると、ピタッと机に落ちるカット割りに「そこまでやるかウヒョー!」と悶絶!

『非常線の女』とこれまた同じく、後半はテンポを落とした道徳劇になっていてどうしてもボルテージが落ちるのだが、前半後半で対比にしようという狙いはよく分かる。前半が面白すぎてまだるっこしく感じてしまうだけなのである。

(確か本作の3年後製作の『非常線の女』では、その反省のようにラスト数分がオープニングを上回るスタイリッシュさで〆られていたように記憶している)

西洋の映画ポスター(ウォルター・ヒューストンの名が目を引く)を貼ってコーヒーを飲む生活スタイルで本当に子供の治療費が出せんレベルの貧乏なのか?とか、なんか良い話っぽくまとめられたが結局治療費は手元にないのでは?とかは、まあ忘れましょう。

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