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『みぽりん』別府ブルーバード劇場 上映、舞台挨拶参加レポ。


2月14日、15日の2日間(連日で舞台挨拶に参加するとか珍しいです)
『みぽりん』の別府ブルーバード劇場での上映、舞台挨拶に参加してきました。
ネタバレが含まれます!
『みぽりん』という作品をまだ観ていない方、先入観なく作品に触れたい方は、一旦スルーして、鑑賞後再び読まれることをお勧めします。



別府ブルーバード劇場について

大分県別府市といって、あなたは何を思い浮かべるだろうか?『山は富士、海は瀬戸内、湯は別府』というキャッチフレーズがあるが、別府は本当に温泉があるだけの町だといっても過言ではない。「別府は言うだけ(湯だけ)」とは、自分が若かりし頃、良く耳にした地元を卑下したダジャレ。
実際に、その通りだと長年思っていた。
そんな別府の町に別府ブルーバード劇場という特異点が発生したのは、映画ライターの森田真帆さんが、この劇場のサポートを始めてからだと思う。ここに、想像つかないような、そうそうたる役者や監督達が、舞台挨拶やトークイベント等で訪れ、今も定期的に劇場に登壇し続けている。最近はあまりの頻度に、「マジで、時空がここだけ歪んでいるんじゃないの?」
と、薄ら寒くすらなる。

極めつけは、毎年11月に開催されるBeppuブルーバード映画祭
この、昭和情緒残る片田舎に、映画界の一線で活躍する豪華な役者や監督がゲストとして集い、まるでベルセルクの蝕のような3日間が開催される。
この映画祭が終了すると、そのあまりの熱量の高さに、何ヶ月か腑抜けてしまう程だ。そして、映画祭ロスでぽっかりと空いた、暮れなずむ心の穴を埋めようと、通常上映時に別府ブルーバード劇場を訪れる、監督や役者の舞台挨拶への参加を繰り返し、空っ風が吹き抜ける心を慰めるのだ。
今回の『みぽりん』も、そんな心の埋め合わせをするつもりの、軽い気持ちでの参加だった。有名な役者がゲストでもなく、『みぽりん』が長編初監督作品の松本大樹監督の登壇のため、期待はそれ程高くなかった。
一応、新感覚ホラーという謳い文句が、作品紹介のページに載ってあったので、ホラーを観る心構えで、上映にのぞんだ。



『みぽりん』舞台挨拶初日

いつもなら、ネタバレをしないように、映画の内容には極力触れずに、上映参加のレポ的なものをnoteに上げるのだが、今回は、映画の制作、監督業、演出、広報など、『みぽりん』を通して感じたことが多々あったので、ネタバレ的な要素にも触れてみたいと思う。
『みぽりん』の初日上映は、19:00から。20分前に劇場に着き、早々と中に入ることができた。すでに、松本大樹監督が劇場入口にいらっしゃり、
「楽しみにしてます」
と、ひと声かけて中へ。いつも座る2列目右寄りの席が空いてたので着席。
しばらくすると、劇場で顔見知りのAPUへ通うハーフの子と遭遇して挨拶。今回、驚いたのが思いの外、お客様の入りが少なかったこと。上映時間が近づくが、中々席が埋まらない。舞台挨拶のある上映にしては珍しい。いつもの癖で、後ろを振り返り入りを確認していると、真後ろの席に見知った顔が。以前、役所に派遣で働いていた時、顔見知りになった大塚さんが座っていた。
「久しぶりですね。しかし、またマニアックな作品を選択しますね」
とご挨拶。大塚さんは直方映画祭でも『みぽりん』を観ていて、今日は2度目とのこと。人間、どこで繋がるか分かんないなぁ。

作品の感想は、ホラーと構えて本作品を観ていたので、とにかく役者の演技にイライラする。ボイストレーナーの『みほ』以外、全体的にふわっとした演技。監禁されるアイドルの『優花』なんかは、どっかとぼけた所のある役で、ホラーに似つかわしくないキャラクターだ。これも、最後の着地点の陰惨さを強調するために、あえてこういう演出なのだろうか? まだ、完全にホラー作品と疑わずに観ていた。
要所々々で、不意に映り込む真っ黒い『某』が、『みほ』以外で唯一画面をキリッと引き締める。映り込むタイミングも『呪怨』の真っ白い少年のように、唐突でドキッとする。この『某』と『みほ』が最後に融合するか、反発しあって、大量殺戮でもするのかなと思いながらストーリーを追っていた。
段々、ストーリーが進むうちに、ホラーというよりは、ギャグの要素が強くなっていく。
「これは思っていたホラーとは路線が違うぞ……」
(思っていたホラーは『リング』みたいな感じでした)
なんとなく雰囲気が読めてきたので、役者の力の抜けた演技に、クスッとする余裕が出てくる。だが、最後の最後にちゃぶ台をひっくり返すどころか、ちゃぶ台置いてある部屋、いや、家自体を叩き壊すような展開で、何を観ているのか訳がわからなくなる。
特に『みほ』を中心にミュージックビデオを撮るくだりからは、現実なのか? 妄想なのか? 心象風景なのか? 殺戮後の世界なのか?全く理解が追いつかない。そして、ここから役者のキャラ、役者の演技、物語の時間軸がブレまくり、着地点さえ見失い、ブラブラと宙ぶらりんのような状態に感じた。(後から触れるが、ひとりだけキャラ、演技が確立していると感じる役者は存在した)

かなり前に、寺山修司が監督した『田園に死す』を観たのを思い出した。
あの作品も、ワンシーンワンシーン理解不能で、独特なわらべ唄みたいな奇妙な音楽が入る。現代に焼き直すとそれがアイドルの楽曲になるのかな、とか思いながら呆然と観ていた。ラストシーンで確信。これは絶対、
「このシーンはこれを象徴していて、こういう意味なんですよ」
「母の呪縛からの解放、姉と妹の屈折した関係からの脱出をテーマに作品を形にしました!」
的な監督のこだわりで撮った作品に違いない。上映後のトークで、監督のこだわりや、シーンの意味やテーマを説明するような展開だろうと考えながら上映は終了。
上映後、5分間の休憩の後、司会の森田真帆さんの紹介で、松本大樹監督、ベビーヴァギーさんが登壇。

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予想に反して、いきなりヴァギーさんからB級映画や下らない映画でも記憶に鮮明に残る作品があるみたいな話から始まり、松本監督は、笑いながら同調。松本大樹監督は、最近観た映画で印象に残ったのが『死霊の盆踊り』だったという話へとつながっていく。
そういう下らない映画の中でも、映画好きに引っかかるものが無数に散りばめられているのが『みぽりん』とヴァギーさん。あれれ? 何か和やかな雰囲気で始まったぞ? この作品のテーマとか、表現したかったものとかで始まるんじゃないのか?
『みぽりん』は、初めて作るカレー感が半端ない、訳が分からないから何でも入れちゃう。でも、その中にすごい一級品のガラムマサラみたいなのが入ってるから、この作品は面白いと解説が続く。監督としては、
「和製ミザリー(原作スティーブン・キング)を撮りたい」
という衝動から走り始めた作品らしい。

ここから撮影に関して、目が点になり、空いた口が塞がらないような話ばかりが、出てくる出てくる。
森田 「あの真っ黒い奴、某(それがし)が怖かった~」
監督 「あっ、某(なにがし)ですね」
(狙っているわけではない、素で間違っているのだ……)
『某』は元々は登場の予定はなく、あまりにも話、画面が弱いため、急遽、ヘアメイクの篁怜さんに出演をお願いしたとのこと。あの黒衣も用意したものでなく、普段からあんな感じなんだとか。
余談だが、名前にが入るのはメッチャかっこいい。
Sgt.ルーク篁Ⅲ世を必ず思い出してしまう。
高校時代の日本史の教科書で『小野篁』を見て、平安貴族の衣装を着たルーク参謀の姿しか思い浮かばなかったのは、今は昔。
閑話休題。
あの、インパクト抜群の『某』が、急遽入れ込んだ設定だと?
『某』が出ない『みぽりん』ってホラー設定が成立しないんじゃないの?
てか、ラストは撮影始めてから決めたってこと?
その場で脚本書き変えるの?
と、疑問点がわくばかり。ここから『みぽりん』の撮影裏話が続く。
大体、アイドルへの熱い思いやこだわり、昨今のアイドルブームに物申す的に作られたと思わせる本作だが、
そんなこと全然考えてなかった
と松本大樹監督。ただ制作時にアイドル関連の事件が多発しており(NGT48等)、それを風刺し盛り込みたかっただけだとか。
混沌とするラストの畳み掛ける展開で、あるものが生誕するのだが
森田 「あれは、どうして入れようと思ったんですか?」
監督 「ザ・フライっていうハエ男の映画があって、ああいうシーンがあるんです。あれをどうしても撮りたかったので……」

ここで理解した。この作品は、監督が撮りたいモノだけを全部詰めこんで、形にしたものなんだと。テーマだとか、伝えたい事とか二の次。
監督のどうしても撮ってみたい、形にしたいシーンを凝縮して、映画バカ一代を炸裂させた作品に他ならないのだ。ちなみに自分は、あるものの生誕シーンは、日野日出志の漫画の影響かと思っていた。
そして、それが分かると、撮影の裏話ひとつひとつが、もう見事に振り切れたバカっ振りで、手を叩いて声出して笑わずにはいられなかった。そして、映画や音楽などは、伝えたいものがあるからこそ、形にして届けるのものだと信じていた自分の価値観を見事に打ち砕かれた。
また、ラストに刀を使いたいのだが、いきなり都合良く刀があっても辻褄が合わないので、
「生き物の身体から刀が現れる、ヤマタノオロチ伝説がありますよ」
というスタッフの話を聞いて、あるものの生誕 ⇒ 刀の出現で
「あっ、つながった! やった!」
と嬉しくなったそう。いや、ここにきて辻褄もクソもないでしょ… 
と思ったのは自分だけじゃないはず。

畳み掛けるラストの流れは、やってもらえないかもしれないので、脚本を撮影3日前に渡したとか。
「ギリギリに渡したら、やらざるを得ないでしょ」
と監督。
去年のBeppuブルーバード映画祭で、ゲスト登壇した白石和彌監督も、際どいシーンは事務所からNGが出るのを見越して、あえて脚本に載せないと言っていたの思い出す。どんだけ役者に負担をかけるんだよ! とあきれながらも、どうしても自分が撮りたいシーンを形にしたいという監督の脱線気味の熱い思いに、笑いが止まらなくなる。
極めつけは、ラスト付近、カトパンのオカンが唐突に登場するのだが、その方、六甲山YMCAの管理室で働いている女性で、
監督 「以前、役者をやっていたらしく、無名塾の……」
森田 「無名塾!! 仲代達矢さんの? 真木よう子さんとか在籍していた!」
監督 「を受けて落ちたそうなんですが……」
森田 「落ちたのかよっ!」
監督、話を切るタイミングが絶妙でした。自分も森田さんと一緒に客席から声のないツッコミ。
監督 「もう、これは、この作品に出てもらうしかないと思い、急遽、シーンを追加しました」
て、どんだけ自由なんだよ。オカン相手に演技するカトパン役の近藤知史さんの負荷高すぎだわ!

そして、ヴァギーさんからの振りで、
「監督がこの作品に命を懸ける理由があったのよね」
と、なんと撮影前日に離婚したとのこと。ヴァーギーさんのトークは、歯切れがよくってカラッとしている。そして何より陽気。この普通に聞くとドン引きしそうなシチュエーションも、笑い飛ばしてしまうような雰囲気が劇場内にできてたような気がする。
森田さんの、
「ぶっちゃけて、どのくらいお金がかかったんですか?」
の質問に監督、全部含めて制作費300万だったそうだ。ボランティアのような役者の起用はしたくなかったらしく、きっちりそういうギャラは支払ったとのこと。
ヴァギー 「別府でなら家買えるんじゃない?」
森田 「300万! 300万なら別府で家買えるよ!」
一昨年話題になった『カメラを止めるな』が300万の予算で撮影されてたので、この予算で撮ろうと思ったらしく、きっちり出演者、制作陣にお金を払い10日間で撮り終えたそうだ。

森田 「PAにもお金かかるんですよねぇ~」
ヴァギー 「PAって何?」
森田 「宣伝費。パンフレットの制作とか……」
監督 「そうなんですよ、宣伝費とか、舞台挨拶とかにもお金かかっちゃって。制作費と諸々合わせて全部で借金が○△◇✕……」
ここで、司会の森田さん、客席の空気が凍りつくのを感じた。東京に舞台挨拶に行った時は、マンスリーマンションを借りて役者を全員連れて行ったそうで、そういう経費が積もり積もったようだ。また、挿入歌のCDや、パーカー等、『みぽりん』のノベルティグッズもかなり製作したらしい。
もう、天晴!
それだけ自分の作品にお金と魂を注ぎ込めるとは、潔すぎて気持ちがいい。
ネットでザッピングしてると、みほ役の垣尾麻美さんの誕生日を祝うため、船上クルージングパーティーを開催したとか…… 宣伝費、それもカウントされてます?
他にも、お金に関して、映画制作へのクラウドファンディングの活用提案や、副音声で解説を入れたDVDを作成したらいいのではないかとか、話が続く。印象的だったのが、『みぽりん』は他の劇場で絶叫上映や、人力4DX上映を行ったそうなのだが、Beppuブルーバード映画祭で使用している劇場3階の写真を見て、真ん中に通路があり、人力4DX上映が出来そうな箱で興味が湧いたとの話。(人力4DX上映は、上映に合わせてその場で同じ寸劇を再現してみたりするそう)
司会の森田さんは、もう監督の奥さん目線で、役者全員引き連れて別府でこれを実現すると、監督の借金が更に増えるのが目に見えているため
「その時は、キャストは現地調達しましょう」
と、監督の暴走に釘を指す。また、なぜか別府では、上映中に意味の分からないシーンが来たら、挙手して上映を止め、監督がそのシーンを説明してわかりにくさを詫びる『説教上映』を開催しようとの提案がヴァギーさんから出され、実現しそうな雰囲気だった。

最後に、次に撮りたい作品は? という質問に
「神戸には南京町があるので、キョンシーものとか、サメ映画を撮りたい!⤴」
と、ここから監督が、サメ映画に対しての熱意を語り始める。サメ映画に対して、司会の森田さん、ヴァギーさん、客席までもが、
「これは失敗するぞ…」
的な冷めた反応だったように感じた。自分もサメ映画は、松本大樹監督には、まだ早いと思った。そして、ちょっとトーンダウンして
「借金返し終わってからですね。次作は…」
監督は、全額借金を返済してから次に臨もうと思っているようだ。これは少なからず衝撃だった。
初日の舞台挨拶は、ヴァギーさんのトークが熱く、それに呼応するように場の雰囲気が盛り上がり、ずっと笑いっぱなしだった気がする。トーク後、劇場カウンターで、パンフレットにサインをし続けている松本大樹監督は、
「こんなにパンフレット売れることが無いんで、驚いてます!」
と興奮している様子。劇場関係者に、監督を交えたオフ会に誘われるも、お金を下ろしておらず(この辺りに今回の舞台挨拶への期待の薄さが垣間見える)参加すると、駐車場代が払えない。その日は、脚本が収録されてある『みぽりん』のパンフレットを購入し、劇場を後にした。



『みぽりん』舞台挨拶2日目


帰宅して次の日、あれ程大笑いした松本大樹監督の映画への姿勢、宣伝活動に使った金額だの、パンフレットの脚本を開きながら思い返すと、笑っていたシチュエーションが、冷静になると全く笑えないどころか
「こいつは、いかんだろ……」
と、深刻に感じ始めていた。
チャールズ・チャップリンは
「人生はクロースアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見ると喜劇だ」
と言ったが、松本大樹監督は、真逆で
「クロースアップでみると喜劇だが、ロングショットでみると悲劇」
のように感じる。
昨夜、かなり笑ったポイント
・画、ストーリーが弱いと、急遽『某』を投入。
・アイドル論とか、熱い思い、こだわり等、監督自身全く持ってない。
・演技拒否されないよう、ラストの脚本部分を撮影の3日前、役者に渡す。
・役者経験のある、六甲山YMCAの管理室のおばちゃんを急遽起用。
・制作費よりお金のかかった宣伝費。

冷静に考え、致命的なのが、とにかく脚本がゆるいこと。役者の立場で考えると、演技プランの組みようが無い、最後の最後でキャラがブレてしまうのだ。ラストこういう展開だったら、あのシーンこういう風に演じたのにな、とか、3日前に渡された脚本に、演技修正が追いつかず勢いで乗り切ってしまったとか。どんなに知名度の低い自主映画といえども、映画に役者として携わる経験は非常に稀だと思う。特に『みぽりん』に登場するキャラクターは、それぞれが良いバランスで作品内で映えている。主要な役として関わるならば
「あの時、ああいう演技にしておけばよかったぁ~」
という後悔は深いものになるのではないだろうか。2日目の上映後のトークでも触れるが、何かと役者に優しくないと感じた。

もう一点は、宣伝費にそれだけかけるなら、自分なら半分に抑えて、次作制作の準備資金に当てる。昨日の松本監督の舞台挨拶を聞いていても、どこか『みぽりん』を形にしたことで一旦、映画制作に線引きしようとしているような気がしてならない。初監督作品でこれだけの形を残すことができたのだ。賛否両論あっても、商業作品として耐えうる画作り、映画のクオリティだったと思っている。ここで、借金返済のために時間をおくのは、監督としての経験値を上げる機会を逃すようで、非常にもったいないと感じた。

松本大樹監督は持ってると思う。
余韻を残す作品を撮れる監督は、一線で活躍する監督でも、そうそういるものではない。作品を深読みさせるような、意図していないフックが『みぽりん』には散りばめられいて、観た後で考察したくなるのだ。
本当はこの日、去年、一昨年とBeppuブルーバード映画祭にゲストとして、2年連続登壇してくれた須賀貴匡さん出演の犬鳴村を観に行くつもりだったのだが、引っかかることがどんどん溢れてきて、急遽2日目の舞台挨拶のある『みぽりん』の上映に参加することを決めた。

ブルーバード劇場で、その日のチケットを購入しに行くと、館主の照さんから
「あんた、昨日メチャメチャ笑ってたなぁ、あんだけ反応したら話ししよん方も嬉しいで」
と言われ、ちょっと恥ずかしくなった。かなり周りから認識される程、馬鹿笑いをしていたようだ。目くそ鼻くそを笑うとはこういうことか…… 昨日に増して、今日もお客様の入りが少ない。そんなタイミングで、また大塚さんを見つける。自分を棚に上げて
「大塚さん、3回も観るんですか?」
と挨拶もそっちのけで質問。
「今日は、トークで登壇するんです」
何!? あなた運営側なのか! 一般客として観に来たと信じて疑わなかったわ! 実は大塚さん、福岡インディペンデント映画祭プログラミングディレクターやっていたのだ。そんな人だったとは、出会った時には知るよしもない。


2回目の鑑賞は、観る軸をホラーと限定せずに観たため、役者の演技にイライラせず、逆に、上手いなぁと感心。(特にカトパン役、近藤知史さんは、味があった)しかし、やはりラストは、キャラや演技がブレているという思いを強く持ってしまう。なんかキャラとキャラとの力関係、それまで重ねてきた造形などがあっさり覆り、やっつけ演技に感じてしまうのだ。そんな中で安定した役者がひとりいた。
木下里奈役のmayuさん。彼女の演技は、初めから終わりまでブレない。パンフレットにも書いてあったが演技が憑依型らしく、その人物なりきるとのこと。演じるということの究極は、その役として存在すること。表現するんじゃない。自分の身体、声を使って、虚構のはずのその役として生きること。
別府ブルーバード劇場に登壇してくれた役者さんの中で、『デリバリー』の舞台挨拶で2度も別府に来てくれた、鈴木つく詩さんは、同じタイプじゃないかなと感じている。憑依型って、天然な人が多くないですか?
上映後、司会に森田真帆さん、松本大樹監督と、大塚さんが登壇。

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昨日のヴァギーさんを交えたトークと違い、今回は落ち着いた雰囲気。
大塚さんは、森田さんとの交流も深いようで、本作の『みぽりん』の話も上映決定前からしていたようだ。影で大塚さんが森田さんに、『みぽりん』をかなり押(!)してくれてたのかもしれない。大塚さんは、韓国語の通訳、翻訳をしている関係で、福岡インディペンデント映画祭、映画自体に深く関わることになっていったとのこと。

映画祭に携わっている大塚さんも、かなりの本数の自主映画を観ており、森田さんがそこを踏まえて質問。
森田 「最初観て、どう思いました? あいつが生まれたシーンとか」
大塚 「いや、面白いな。潔いなと思いましたよ」
大塚さんは、終始冷静。トークのトーンも変わることなく淡々と話す。
しかし、『みぽりん』が面白いと感じたことは伝わってくる。
自分は、『撮りたいものを形にする』という監督の意思を理解した時、初めて作品を『潔い』と感じたが、大塚さんは映画を観た時にすでに感じていたようだ。また、役者同士のグルーヴ感、仲の良さ、つながりの深さが画面から伝わってきたとの感想。
大塚 「作品観たら、この役者さん達バラバラだなぁ。自分が前に出ることしか考えてないなとか、何となく分かりますからね」
『みぽりん』の役者の雰囲気は、かなり良かったとのこと。

また、森田さんは、カメラワークの有り得なさに言及。
森田 「大体、女優さんに下からのアオリでカメラ向けるとか有り得ませんよ。普通なら、『やめてください!』って怒られますよ」
監督、下から至近距離でのカメラアングルのみならず、レンズを魚眼レンズを使用しての撮影だったそうだ。
どんだけブサイクに撮ろうとしてたのか…… 女優に優しくなさすぎだろ!
市川崑監督の『獄門島』とか、昭和の頃のサントリーレッドのCMを今観ると、有り得ないくらい美しい大原麗子に、ハッとする。
映画には、2度と戻らない、女優のその瞬間の美しさを切り取るという一面があるが、松本大樹監督の撮影は、真逆である。
森田 「もう、あんなに下から撮られたら、ブタっ鼻の変な顔じゃないですか。有り得ない」
監督 「ましてや、魚眼レンズ使ってるんで、顔が大きく見えるんですよね……」
って、分かってて撮ってんかーーい!

撮影の話の流れで、スタッフの人数の話へ。『みぽりん』はスタッフ3名で撮っていたので、照明さんが元々いないとのこと。撮影と、音声と、メイクと、松本大樹監督… だったかな? 予算も無いんで、照明まで準備できないですよね。案外、照明は予算がかかるのです。
森田 「じゃあ、特殊造形とかもいないんですよね? あいつはどうやって作ったんですか?」
監督 「楽天で3,000円くらいのぬいぐるみ買って、ちょっと手を入れて、ローションまみれにしました。思いの外、良くできて……」
大塚 「みぽりん先生の手に、ツーッと一筋垂れるのが、いいんですよね」
大塚さん、細かい所まで良く観ている。自分はそこまでは気が付かなかった。

この後、東京での舞台挨拶はどうだったか、昨今の自主映画の近況、盛り上がりについて、松本大樹監督、大塚さん交え、話が続く。途中、今後の制作について聞かれた松本大樹監督が、
「最近の日本映画は、出演する役者が同じ顔ぶれが多いので、もっと新しい人と組んでやっていきたい」
と答えると、森田さんのリミッターが飛んで、荒ぶりすぎて暴走。ここから先を文字に起こすと、森田さんの職が危ぶまれるどころか、業界から抹殺されかねないので割愛させていただきます。
松本大樹監督のリアクションを見ていると、どうも別府の反応は、かなり良いようだ。他劇場での上映で、ツラい気持ちになることが多かったのだろうか?

最後に、森田さんが、松本大樹監督の今後の成功を願い
「あの監督の初監督の映画、別府で観たんですよ! みたいに自慢できるようになればいいな」
という感じで締めた。自分も全く同じ気持ちだった。
トーク後、昨日と同じく劇場カウンターでパンフレットにサインを書いている松本大樹監督。昨日、パンフレットを購入したので、手が空いたのを見計らって、
自 「監督、2作目は借金を返し終わってからと言ってましたが、おそらくどんなに早くても全額返済するのに5年かかると思います。それはもったいないので、もっと早い段階での新作を待ってます」
と伝えると、ちょっと冗談交じりに
監督 「え! さらに借金を重ねろと……」
みたいな返しだった。
自 「昨日のトークでもヴァギーさんが話してましたけど、オーディオコメンタリー、副音声付きのDVDをクラウドファンディングで融資を募って作成するとか、『みぽりん』を使って借金を返す方法は絶対あると思います。新作を期待してます」
と伝えて劇場を出た。

正直、舞台挨拶初日には、そう思っていたが
今は訂正します。

松本大樹監督に、在庫を抱えるモノに手を出させるのは危なすぎる。
できれば、オーディオコメンタリーの入ったバージョンの『みぽりん』はWeb配信みたいな、在庫を抱えない形が理想だと感じた。
NETFLIXや、Amazon prime videoの関係者の方、『みぽりん』のWeb配信をお考えになりませんか? オーディオコメンタリー付きの配信は、需要があると思うんですよ。キャストを3グループくらいに分けてバージョンを別にしたり、ベビーヴァギーさんを加えたら鉄板で面白くなると思います。
そして、もし作品が良いものだと感じたなら、松本大樹監督に2作目を撮らせてみませんか?

『みぽりん』というコンテンツ、そして多くのファンを獲得した松本大樹監督が、借金を返しなが新作に取り掛かるのは、不可能じゃないと思っている。映画を撮ると借金が増えるという、その固定観念を自分の中から外してみて欲しい。『みぽりん』を撮ったぐらいなので、規定路線を壊すのは得意なはず。
『借金を返しながら、次作を撮るにはどうしたらいいか』
日々、問い続ければ、ヒントがそこら辺に転がっているかもしれない。
天から降ってくるかもしれない。最初から諦めることだけはして欲しくない。
松本大樹監督は映画の神様に間違いなく愛されている。きっと
「これだけを抱えて、なお撮りたいという気持ちがあるか?」
と、映画の神様から問われている気がしてならない。


そのドアに鍵は無い
開けようとしないから知らなかっただけ

BUMP OF CHICKEN 虹を待つ人



そして、松本大樹監督には、この『みぽりん』で是非、今年の『Beppuブルーバード映画祭』に参加してもらいたい。去年と同じゲストが登壇するとは決まっていないが、去年のゲストでいうとクラウドファンディングで資金を集めHE-LOW』、『HE-LOW THE SECOND』と2作品を制作した高野八誠監督。広島で3本の映画を形にし、今現在も監督として勢力的に活動を続けている時川英之監督と交流を持って欲しい。
クラウドファンディングで映画を撮る心構えやノウハウを高野監督から、地方を中心にして作品を作り、収益を上げるために大事なことを時川監督から吸収してもらうと、さらに映画が作りやすく、作る意欲が高まるのではないかと思う。
ただ、高野組はかなり酒豪が揃ったチームなので、ノウハウ聞く前に酒で潰される可能性大。時川組には、ラスボス感半端ない『加藤雅也』さんがいるんで、舞い上がって何聞いたか覚えてない可能性大なのだが。
でも、きっと『Beppuブルーバード映画祭』に参加したら、新作を作ってもう一度参加したいと絶対思うはず。自分も森田さんが、その気になるように、援護射撃をしつつ『みぽりん』を映画祭で上映できるように、押(!)してみます。

これをまとめている段階で、『みぽりん』の最終上映を別府ブルーバード劇場に観に行った。
「3回も観るのかよ!」
と、我ながらツッコミたくなる。だが、3回目で初めて分かることもあり『みぽりん』の奥深さに驚いた。
「相変わらずカメラ近いなぁ」
と観ていた自然派ワインの居酒屋シーン。カトパンこと近藤知史さんのメガネが
「ガチのメガネなんだぁ」
と思いながら観ていた。それもかなりの強度近視。
初回、2回目とカトパンには劇中に違和感を覚えていたが、どこに違和感があるのかというのは、具体的には分かっていなかった。ラストのオカンとの絡みで、今まで標準語で話していたのに、無理矢理、関西ノリの演技を強要される苦境が、そう感じさせるのかなと思っていたが、3回目の鑑賞でハッとする。
何と! 劇中でカトパンのメガネが変わっているのだ!
それも変わっちゃいけないタイミングで。
でも、強度近視のガチメガネだから、メガネは近藤知史さんの私物のはず。これは、監督の演出なのか? 
あるポイントのカトパンと、ラストのカトパンの世界線、時間軸はズレているのか?
この作品の本当のラストシーンは、劇中の別のポイントなんだろうか…… 実はたまたまで、監督は何も考えてないのかもしれない…… 
とか悶々と考えながら、これと同じ気持ちを経験したことが、以前にもあることに気がついた。

23年前、東京にいた頃、深夜にテレビ東京で、1日に数話づつ再放送されていたアニメを何気なく観ていた。運良く第1話から観ることができ、翌日の放送から全てビデオに録画した。この作品にも、最後の最後にちゃぶ台をひっくり返され、結局ラストがどうなったのか、本当のラストがどこだったのか全く分からない。作品を何度も観返したり、考察本を読み漁ったりした。
この再放送が終了してまもなく、劇場版が公開され、スッキリしたラストを求めて新宿コマ劇場まで観に行った。それでも、未だにその明確な終わりが分からないし、理解できないまま時が無情にも過ぎ去った。
しかし、今まで観たどの作品よりも、焦燥感に駆られ、こんな作品を形にした監督に強烈な嫉妬を覚えた。



その作品の名は『新世紀エヴァンゲリオン』
危険だ…… 
『みぽりん』を観た後の自分が、あの頃と重なる。



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「『みぽりん』、パターン青っ、間違いなく使徒ですっ!!」

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