うちのフィルムは不良品

50年ほど前、小学生だった。修学旅行をきっかけにカメラを使わせてもらえるようになった。私が通っている小学校は修学旅行にカメラを持って行っても良かった。私はワクワクしながらハーフサイズのカメラを持って修学旅行に行った。

華厳の滝、中禅寺湖、陽明門、三猿など初めて訪れた場所を写真に残そうとカメラを構えると「イェーイ!」、「撮って撮って!」とフレームインしてくる同級生。小心者の私は「邪魔だ!」とは言えず、渋々シャッターを押した。「撮りたいのは、お前らじゃない」と思いながら。

ということで初めての撮影旅行では、撮りたいものはほとんど撮れず、いつも会っている顔ばかり撮らされた。「人は撮りたくない。」という強い思いだけが残った。

その初カメラ体験の時、疑問に思っていたことがある。父から渡されたフィルムには『不良品』と印が押してあった。「えっ、不良品?」と言うと「不良品じゃないよ。」と言う。いやいや、緑の箱に赤い判で『不良品』って押してあるじゃない。まぁ、あまり深いことは突っ込めずにフィルムを受け取った。どこかで安売りしていた『不良品』を買ってきたのだろうと思った。

その後、よく見ていると父はいつも『不良品』のフィルムを使っていた。

中学の修学旅行の際、『不良品』は嫌なので、自分でフィルムを買って持って行こうと思っていた。買う前に父から『不良品』のフィルムを渡された。「自分で買うから、いらない。」と言うと「いいから持っていけ。」と言う。仕方なく『不良品』を持って行った。でも、恥ずかしいからフィルムの外箱を友人から見られないように気を使っていた。

中学の修学旅行では、一眼レフカメラを使っている生徒が何人かいた。私も天体撮影用に買ってもらったNikon FMを持って行った。友人の竹内君はNikon EL2というニコンブランド初のAEカメラを持ってきていた。竹内君はカメラに詳しく、このEL2がいかに素晴らしいカメラであるか解説してくれた。

その竹内君が持っていたフィルムにも『不良品』の印が押してあった。驚いて「えっ、おまえのも不良品!」というと竹内君は「不良品じゃない。」と父と同じことを言う。竹内君が『不良品』ではない理由を説明してくれた。

竹内君の父と私の父は同じ会社で働いている。緑色の箱のフィルムを作っているメーカーだ。フィルムをたくさん作っているので時々『不良品』が出る。箱がつぶれているとか、箱の印字がずれているだけのものもある。そういうものは『不良品』として処分される。処分されるものだから工場外に持ち出しても問題ない。社員はそれを自分で使うために堂々と持ち帰ることができる。

『不良品』はそんなにたくさん出るわけではない。ところが、運動会や修学旅行前には『不良品』の需要が多くなる。そこで、検査担当の方は、日々少しづつ『不良品』を備蓄する。ちょっと落として箱が少しつぶれただけのものを蓄えておく。それでも足りない時は、とりあえず『不良品』と押してしまう。

そういうことで『不良品』の中身は不良品ではないらしい。理解はできたが、どうもスッキリしない。やっぱりフィルムはお店で買おうと思った。

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