最初の2センチ

2センチ

相手が「ここ」で取りたい、打ちたい、と思ったところから、2センチずらす。それで、相手は崩れ始める。崩れを拡大していって、必要なら投げるなり抑えるなりに結びつけるのだけど、それは、崩れが拡大している限り、ゆっくりでもいい。

相手に握られる瞬間、相手が打ち込んで最初に触れる瞬間に、当たり所を2センチずらす。手でずらすと、悟られる。ハラで、足で、さりげなくずらす。さりげなく、最大限の集中力を使って。

逆に、自分の力の入れどころ、2センチずれると自分が崩れる。だから、上手な人は、実は細かく腰や足の位置を調整しながら技をかけている。調整をスムーズにやるための基本動作が舟漕ぎ運動であり、足さばきの鍛錬だったりする。

樹木希林さんが茶道の先生を演じる映画が作られているらしい。その中では、畳一畳を6歩で歩くように指導する場面があるそうだ。これを、自然にいい姿勢で実現するには、足腰の繊細なコントロールが必要になる。そういう動作を昔の人は自然に身につけていたのだとすると、我々が昔の人並みに体をコントロールできるようになるには相当「意識した」鍛錬が必要になる。

ハラで、足で、ぼんやりと動くことはだれでもできるけど、2センチずらすのは、稽古しないとできない。合気道は力でやるものじゃない、と言われるけれども、確かにこれは、繊細な技術。力でやろうとすると、塗りつぶされて見えなくなる。根気が必要な稽古である。

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