エンジンとタイヤ

エンジンとタイヤ

腸腰筋をメインにお尻の回りの関節群を動かしている筋肉は、意識しにくいけれどたぶん人体で最も頼りになる。普段姿勢を支えるために黙々と働き続けている人たちで、強力で疲れにくく、年をとって新陳代謝が落ちてきても比較的フレッシュな血流が届きやすいので疲労回復も早い(ように思う)。

普段裏方で働き続けているこれらの人たちに、表に出てきて活躍してもらうというのが、合気道の大きなテーマの一つ。
だから、姿勢を整え、足さばきを繰り返し訓練し、倒れては起き上がるという受け身の稽古を、稽古の半分以上の時間を費やして行う。

受け身、ただのやられ役ではない。痛くなければよいとか、ダメージが少なければよいというものでもない。やはり姿勢を意識しつつ、相手の動きに合わせて(時には相手の動きを引き出して)動くことで、自分の姿勢をコントロールする技術を磨くという、これも大切な稽古課程。

で、そのようにして姿勢を支えている人たちが少しずつ鍛えられてくると、技のメインの動きは四肢ではなく胴体の作用が中心になってくる。

足さばきで自分が有利な位置に移動し、相手に作用を及ぼすのだが、そこで「仕事」をするのは、胴体。なかんずく、お尻周りの人たち。四肢は胴体が生み出した動きを相手に及ぼす際に微妙な方向やら衝撃やらを調整するための役割を担う。
お尻がエンジンで、四肢がタイヤ(や、サスペンションやギア)。

「しっかり立つ」というのは、エンジンにしっかり働いてもらうということで、「力を抜く」というのは、タイヤなどの調整の感度をあげるということ。

たぶんにこれは、人との対し方にもつながってくるように思う。軸となる信念はしっかり立てて、でも言葉や表情は柔和に接した方が、世の中うまく流れる。その前提として、いち早く、でもさりげなく「いい場所」を占めるというのも、世渡りにちょっと似ている。

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