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小江戸に暮らした絵師――Museum Collection #4 山崎美術館

全国の美術館・博物館が所蔵する古今東西の名品を、学芸員の解説とともに紹介する「ミュージアム・コレクション」。
『本郷』160号よりお届けします。

小江戸に暮らした絵師                  

 「小江戸こえど」と評される埼玉県川越かわごえは、往時の江戸を思わせる蔵造りの町並みが有名です。店蔵みせぐらが数百メートルにわたって軒を揃える一番街の通りを歩けば、江戸時代にタイムスリップしたような感覚を味わうことができます。
 そんな川越の町中にあります山崎美術館は、当地と縁の深い日本画家、橋本雅邦はしもとがほうの作品を中心に収蔵しております。幕末、川越藩の御用絵師ごようえしであった橋本雅邦は、江戸木挽町こびきちよう狩野かのう家邸内で生を受けた、まさに狩野派のエリートというべき絵師でした。明治になってからは、同門の狩野芳崖ほうがいとともにフェノロサの庇護下で積極的に西洋画の技法を取り入れ、後に東京美術学校(現在の東京芸術大学)の初代日本画教授を務めて横山大観よこやまたいかん菱田春草ひしだしゆんそうを育て上げるなど、まさに「日本画」の黎明期を創造し、支えた人物と言えます。
 晩年、川越の有志で結成された「画宝会がほうかい」では、雅邦の作品の頒布を行い、経済的な援助をしていました。当館を代表する「昇龍図」も、画宝会にて頒布された一品になります。伝統的な狩野派のモチーフでありながらも、跳ね上がる波と、天に昇る龍のダイナミックな構図に、西洋的な遠近技法が見て取れます。
 川越を訪れた際は、日本画が生まれた時代に思いを馳せながら、ゆっくりと雅邦の作品を楽しんでみてはいかがでしょうか。
              (やまざき よしまさ・山崎美術館理事長)

●昇龍図
橋本雅邦筆 明治32年(1899)
絹本墨画・掛幅装 1面 112.8㎝×41.6㎝


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