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3月24日、目玉焼きごはんと全敗の将棋大会

8歳の将棋大会があった。大会への出場は初めてで優勝する気もまんまんだったが、なんと最初から最後まで一度も勝てなかった。

実は最近負け続きだ。教室から出てくる息子の顔がこのごろいつも暗い。通いはじめたばかりのころは勝ちを数えるのが楽しかったのに、ここ数ヶ月は負けることのほうが多い。勝てないと級が上がらないのに、その間に下の級にいた友だちがぐいぐいと迫ってきて、焦りも見えた。

それでも将棋が好きだ、と言う。
負けたのは俺が飛車を見逃したからだ、盤のすみっこが見えてなかったからだ、あそこで桂馬を進めなきゃ勝てた、あと二手だった。二手で詰めたのに。

そうやって自分のさした手を振り返って教えてくれる。聞きながら、少し胸が痛む。

わたしには、彼の後悔が半分もわからない。ルールはなんとか覚え、とりあえず将棋をさせるようにはなったけれど、ただ視界に入った駒を進めているだけ。計算もできなければ策もない。

もしわたしが将棋にあかるかったらば、「いや、あの98手のところで銀を上げたらよかったんじゃない?」とか「向こうの角見えてた?」とか具体的なことが言えたはずだ。一緒に駒を動かして感想戦をやれたかもしれない。

将棋のことだけじゃなく、サッカーのことだって娘のダンスのことだって、わたしは子どもたちになんのアドバイスもできない。演劇とか作文とかわたしが得意なことにはふたりとも興味を持ってくれないので、悲しがっていてもただ「えー?…でも、じょうずだったよ」と言うしかなくて不甲斐ない。

とぼとぼと隣を歩きながら、「うーん、でも最後までがんばったじゃん」と言い、そっと横顔を見る。

あと二手だったのになあ。
と、8歳はまたつぶやく。わたしが信じているか疑わしいのかもしれない。
ほんと、あと二手だったのにね。
と、わたしは嘘をついた。
うん、と8歳はわたしを見て言う。
ね。とわたしも8歳を見る。

あと二手。
次は思いどおりにさせますように。


目玉焼きごはん
フライパンでシュレッドチーズを溶かし、その上にたまごを落として焼く。
ソーセージは切り込みを入れて焼き、温かいごはんに目玉焼きとソーセージをのせる。

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