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サロン・ド・セゾン、あるいはくるくるドライヤー【#自分なりの枕草子】

 春は風。少し乾燥した風は「くるくるドライヤー」でセットした髪をかき乱す。美容院サロンに着いた時にはすでにボンバヘッド。何を使ってセットしていますか、と聞かれ「くるくるドライヤーです」と答えると美容師さんは笑う。「くるくるドライヤー」なんていまどき使ってる人いませんよ。今は縮毛矯正も良くなってますし、たいていの癖毛くせげの人は縮毛矯正します。それにセットに使うのはだいたいヘアアイロンですね。さっそくオバハラされる。若くないとか古ッとか息子に言われたような気持ちで心はシュンとなるが髪はシュンとならない春。

 夏は湿気。梅雨でも盛夏でも日本の夏は一緒。意地でも「くるくるドライヤー」を使う私の髪を、湿気が直撃する。白髪があるのでほぼ月イチでオバハラ美容院に行かなければならない。美容院に着いた時にはやはりすでにボンバヘッド。あれからヘアアイロン使ってます?と聞くので「くるくるドライヤーです」と答えると、美容師さんは苦笑。縮毛矯正本気で考えてみませんかと言ってくる。白髪があるのでそちらが優先です、ヘアカラーしてカットして縮毛矯正したら何時間かかりますか。んーだいたい3時間、4時間かな。そんなわっきゃない。友は5時間かかると言っていた。私はサロンに関してはタイパ主義である。だいたい冷房完備のサロンでさえ夏は首筋に汗をかくからできるかぎり早く帰りたい。私が若いころの縮毛矯正は板に髪貼ってたんですよ、と言うと、話には聞いたことがありますが見たことはないです、と美容師さん。いつの時代の話ですか今は薬つけるだけです楽なんですよとまたオバハラされる。縮毛矯正推しの美容師さんはそれでも丁寧に、こういうブラシを使ってこういうふうにすればまっすぐにできます、とテクを教えてくれる。さすがプロ、テクニシャン。わあすごいやってみます、と言って家に帰る。翌日言われた通りに汗だくで髪を伸ばすが外に出たとたんボンバヘッド。

 秋は晩秋がベストシーズン。まだ夏の名残がある時期はとてもじゃないが落ち着かない。あれからヘアアレンジがんばってます?と美容師さん。はい、結構いい感じですと言っておく。結局「くるくるドライヤー」だがな。一瞬の「きれい」ならいくらでも作れる。玄関出たらボンバヘッド。ヘアカラーの日と、縮毛矯正の日を分ければいいんですよと美容師さん。あそっか、そうですよねと笑っとく。私には美容にかける意気込みが全くない。元がダメなのだから何してもダメと思っている。年を取ったらますますだ。お金と時間をかけても、それはサロンを出るまでの一瞬の美。
 それでも梅雨から晩夏までつづく暴れん坊な髪に辟易し、縮毛矯正を考え始めるちょうどそのころ、晩秋を迎える。人生の中で「今日髪いい感じだね」と友達に言われるのは晩秋の一瞬だけ。1年で1日あるかないか。そういう日はモナ・リザみたいに微笑んでみる。そして縮毛矯正をしそびれる。

 冬は乾燥。夏よりは数倍マシだが今度は乾燥でボンバヘッド。湿気でも乾燥でも膨張する私の髪は実に高性能なセンサー。世界征服に利用できればいいのに。冬の日は寒いし外に出たくない。でも髪は年々短くなっていく。短いと冬は寒い。乾燥した髪に「くるくるドライヤー」をかけると一瞬は伸びるがすぐ元通り。しかもさらに乾燥する。トリートメント、とか?と思いながらサロンに向かう。普段ヘアケアに何を使っていますか、と美容師さん。つけるとベタッとするのが嫌でつかっていません、ムースとかですか。というと、今ムースとか売ってますかね。業務用ではほとんどないですね。ヘアオイルかヘアクリームですよと笑う。使わないから知らねえんだよと思わずお下品な言葉が心に浮かぶ。トリートメント、と言いかけた言葉がひっこむ。きっとトリートメントだって違う言葉になっていて笑われるに違いないわ。ああいっそ尼。尼になればよいのではないか。尼になったらサロンにはいかなくてよい。白髪も染めなくていい。癖毛のことで煩わしいことがなくなる。煩悩も減る。お下品な言葉も浮かばない。お出かけも楽。でもきっと寒い。修行も寒い。ああやっぱり私にはまだ尼は無理。と堂々巡りな、冬。

ああすみません
不親切でした
これが「くるくるドライヤー」です
ドラマ『不適切にもほどがある』で
純子がつかってたやつです

 三毛田さんの企画に参加しています♪


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