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マルガリータとマルゲリータはマーガレット

 マルガリータとマルゲリータについて話題になっているので、本来それをメインに扱った記事ではないですが、関連する記事を書いていたのでアップします。
 マルガリータもマルゲリータも、マーガレットという女性名の言語が違うバージョンです。その意味とバリエーションについて見てみましょう。


聖マルガレタの伝説

 グレタとメーガン、メグという名前を耳にしたことがあるのではないかと思います。実はこれらはある名前から派生した同じ名前です。
 グレタという名前は、女優のグレタ・ガルボや環境活動家のグレタ・トゥーンベリで知られています。また、メーガンという名前は英国王室ヘンリー王子の妻であるメーガン妃、旧名レイチェル・メーガン・マークルで知られています。メグという名前は女優のメグ・ライアンで知られています。
 これらの元となったのは、英語では「マーガレットMargaret」という名前です。

 マーガレットは、さらに遡るとギリシャ語の「マルガリテスMargarites」に由来し、その意味するところは「真珠」です。この名前は、4世紀初頭のローマ皇帝ディオクレティアヌス帝の迫害により殉教したとされるアンティオキアの聖「マルガレタMargareta」の竜退治伝説で知られるようになりました。
 英国においてこの名前が広がったのは、スコットランド王マルコム3世の王妃マーガレットの存在が大きいです。彼女はスコットランドに多くの教会を設立し、キリスト教の布教に尽力したことで列聖され、聖マーガレットにあやかる名前として人気が出ました。以後、北欧や大陸にもその名前は知られていきます。ちなみに、ウェストミンスター寺院の敷地内にある聖マーガレット教会は、アンティオキアのマルガレタに捧げられたものです。
 マーガレットの名で知られる人物としては、元英国首相のマーガレット・サッチャーや作家のマーガレット・ミッチェルがいます。その他、女王、王妃、王女など多くの王侯貴族の名前に見られます。
 マーガレットの異型に「マージョリーMarjorie」「マーゴットMargot」という名前もあります。

 ミッチェルについては、以下の記事で触れているので御覧ください。

各言語のマーガレット

 マーガレットはドイツ語で「マルガレーテMargarete」「マルガレータMargareta」です。神聖ローマ皇帝ルートヴィッヒ4世の王妃マルガレーテ・フォン・ホラントを始め、王侯貴族に見られる名前です。
 フランス語では「マルグリットMargurite」「マルゴMargot」です。フランス王アンリ4世のマルゴ王妃、本名マルグリット・ド・ヴァロワが知られているでしょうか。
 イタリア語では「マルゲリータMargerita」です。マルゲリータは、ピザの名前としてよく知られています。これは、イタリア国王ウンベルト1世の王妃マルゲリータにちなんで名付けられたものです。
 スペイン語では「マルガリータMargarita」です。マルガリータは、テキーラベースのカクテルの名前として知られ、ロサンゼルスのバーテンダーがカクテルコンテストに出品し入賞したことで、世界中で人気を得ました。狩猟中の事故で亡くなった恋人マルガリータを偲んで名付けたという逸話が伝わっています。
 マルガレーテ、マルグリット、マルゲリータ、マルガリータは、マーガレット同様いずれも女王、王妃、王女など多くの王侯貴族の名前に見つけられます。それに比して一般によく知られた有名人がほとんど見当たらないのも、この名前の特徴かもしれません。

マーガレットの愛称

 王侯貴族に愛されたマーガレットですが、愛称や短縮形になると知っている名前が出てきます。
 最初に紹介した「グレタGreta」という名前は、マーガレットの北欧における形である「マルガレータMargareta」の短縮形グレタに由来します。グレタは愛称でありつつ、名前としても使われています。グレタ・ガルボもマーガレット、つまり真珠という意味の名前です。
 また、「メーガンMegan, Meghan, Meagan」という名前は、マーガレットのウェールズ語形です。メーガン妃はマーガレット妃ということです。
 「メグMeg」は、マーガレットの愛称です。メグから派生した愛称に「マギーMaggie」「ペグPeg」「ペギーPeggy」などがあります。マーガレット・ミッチェルの愛称はペグでした。さらに、マルガリータからは「リタRita」という愛称も生まれました。

 グリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」で知られる「グレーテルGretel」は、マルガレーテの愛称であるGreteに指小辞-elをつけた形で、これもマーガレットです。ちなみに「ヘンゼルHänsel」もHansに指小辞-elがついた形です。ハンスはヨハンネスの短縮形でした。つまり、ヘンゼルとグレーテルは、指小辞を除いて英語に置き換えると「ジョンとマーガレット」という表題になります。全然違う感じですね。
 ジョンとハンスについては以下の記事もご覧ください。

 Greteに通常のドイツ語の指小辞である-chenをつけた形の「グレートヒェンGretchen」は、ヨハン・ヴォルフガンク・フォン・ゲーテの作品「ファウスト」の主人公ファウストが愛した女性の名前になっています。

 変わったところでは、「デイジーDaisy」という名前もマーガレットを意味します。デイジーは古英語dæġes-ēageに由来する、day’s eye「陽光の目」を意味する花の名前であり、和名はヒナギクです。フランスにおいてはマルグリットがデイジー(フランス・ヒナギク)を指す言葉としても使われるようになったため、転じてデイジーがマーガレットの愛称として使われるようになり、独立した名前としても使われています。

 マーガレットはとても高貴な名前だったんですね。最近よく聞くグレタやメーガンがマーガレットと同じ名前というのも意外な発見です。

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