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【2024年補講は国保、介護、税金まで】確定給付型企業年金の受け取り方を視聴者さんの事例で解説!

退職金・企業年金コンサルティングチャンネルを運営しております大森祥弘です。さて、今回は視聴者さんから頂いた相談について久しぶりにしっかり取り上げて具体的に解説してみたいと思います。

というのも、私の運営しているYouTubeへのコメント質問の6割くらいが企業年金の受け取り方を年金にするか一時金にするかといった話です。

企業年金の業界に長くおりますし、ずいぶん前にはなりますが年金受給者の方やこれからいざ年金をもらうといった退職者の方から質問相談頂くような管理系の部門にいましたので得意といえば得意です(会社員としての勤務先では全然使わないスキルなんですが 苦笑)。

それで、結構な動画の本数をこの企業年金の受け取り方といったテーマでYouTubeにアップし配信しております。

やりきった感もあり、最近は新NISAや確定拠出年金の運用商品ファンドに興味を持つ視聴者の方も多いようなので投資系YouTuberみたいな動画もアップしているんですが、久しぶりに他の視聴者の方の参考になりそうな質問を視聴者さんに頂いたので具体的ケース解説ということでコメント回答解説動画を作成することにしました。

このnoteにもしっかり書いておくつもりですが、よかったらYouTube動画もあわせてご覧ください。

YouTube動画はこちらから視聴頂けます

動画のまとめポイント解説

・確定給付企業年金で、かつ、終身年金や有期年金(生存していたら+5年支給など)といった制度の場合は100%年金受け取りを推奨
・悩んだら100%年金。一時金で受け取った場合に退職所得控除の枠内に収まる(つまり、一時金で受け取ったら税金かからない)場合でも年金
・年金給付利率5.5%ってあるけど、具体的に年金どのくらい増えるの?
・年金受け取りとして、引退後の社会保険料(国保、介護)、所得税や住民税への影響を視聴者さんの事例で試算
・年金で受け取って失敗したなと思っても、支給開始から5年経過したら一時金で受け取れる

なぜ一時金での受け取りが推奨されるのか?(note補足解説①)

YouTubeを始めて、このnoteを書いている時点で3年が過ぎておりますがYouTubeやWeb検索で得られる情報において確定給付企業年金と具体的に限定し、また、終身や有期年金の場合は年金を推奨とはっきり言っているのは私しかいません(自分が調べた限りですが、、)。

なぜでしょうか?このようなケースでも年金でなく、一時金が推奨される理由について私は次の4つだと考えています。

【一時金が推奨される理由1つめ】

確定給付企業年金を年金として受け取る際の年金支給額の作られ方(考え方)を伝える側が知らない、具体的に体験していない

【一時金が推奨される理由2つめ】

会社員引退後の社会保険料負担、住民税の負担に気が取られてしまい、「一時金であれば税金がかからない」場合には国民健康保険料や介護保険料といった社会保険料負担や住民税の税額を計算する際に収入とみなされない(年金だとみなされますが)ので、社会保険料や住民税の軽減という観点で一時金を選択したくなってしまう

【一時金が推奨される理由3つめ】

一時金で受け取ってもらったほうが金融機関からするとコストや手間がかからないので、金融機関各社は情報媒体で一時金を推奨する傾向にある

【一時金が推奨される理由4つめ】

一時金で受け取るとまとまった資金を得られる。このまとまった資金について、FPの先生方で金融機関との結びつきが強い先生だと一時金を元手に資産運用(一時払いでの保険購入や退職金専用プラン)をお勧めすることもあるようで”売る側”からするとビジネスニーズのもとになるため。
*視聴者さんからの情報も含め、私の勝手な印象です。

私がYouTubeで一貫した姿勢を貫いているにも関わらず、確定給付企業年金の受け取り方を視聴者さんに悩ませてしまうのは私の実力不足かもしれませんがやはり、一番、悩んでいる方が引っかかるのは上記の2つ目で取り上げている「年金受け取りにすると、社会保険料や住民税を計算する際に収入に含まれる。結果、年金にすると一時金で受け取るよりちょっと増えそうというのはわかるんだけど、保険料負担、住民税負担を考慮すると一時金の方が良さそう」という点ではないでしょうか。

実際、YouTubeの視聴者の方から何度も上記の疑問はいただいてきたのですが受け取る確定給付企業年金の制度内容や社会保険料、住民税を確定するときに算定基礎となる収入に関してはみなさん1人1人違いますから踏み込まなかったんですが、熱心なファンの方もお陰様で増えてきまして、最近は家庭事情により新作動画がアップしづらい状況でもありますので視聴者さんへの感謝企画として今回、初めて詳細解説を試みる次第です。

それで、さっそく具体的に年金でもらうと一時金でもらうで社会保険料、住民税がどうなるか取り上げていきたいのですがここから先の話についてくるためには次の動画を見ることをお勧めします。

【過去動画参考】企業年金の損しない受け取り方


年金受け取りの損得を具体的に考える

それでは視聴者さんからコメント質問頂いたケースを取り上げて次のケースで年金で受け取るか、一時金で受け取るか考えてみましょう。

視聴者さんの状況

・現在、再雇用で就業中(60歳定年で再雇用を終え、65歳とします)
・確定給付企業年金を60歳から繰下げ
・60歳定年で100%年金で受給する場合、確定給付企業年金の支給額は年額83万円
・確定給付企業年金とは別に定年退職時に一時金を支給された
・年金給付利率は5.5%
・支給期間は15年確定、終身年金(15年経過後は生存を条件に支給継続)
・年金でなく一時金で受け取ると退職所得控除の枠内に収まる

繰り下げは一旦、置いておく

確定給付企業年金は規約に定めがある場合(勤務している企業が仕組みとして導入している場合)、60歳以降繰り下げをして一時金の受取額や年金の受取額を増加させることが可能です。

ですが今回、年金か一時金かという受け取り方を考える上では一旦、比較しやすいように繰り下げは置いておきます。
(以降、説明しづらいので繰り下げは一旦、置かせてください。)

企業年金の繰り下げの話が気になる方で、次の動画を視聴していない方はあわせてご覧ください。

【過去動画参考】意外と知らない「企業年金の繰下げ(繰り下げ)」を解説します


一時金の受給は退職所得控除の枠内に収まると仮定

確定給付年金の受け取りを一時金にした場合に使える退職所得控除は企業から支給された退職一時金を考慮した残りとなります。

これが退職所得控除の枠内に収まったとすれば退職所得の課税所得は0。そのため、所得税と住民税は退職金から取られません。

年金給付利率5.5%の効果を考える

次に確定給付企業年金を年金で受け取る場合を考えてみます。

ここから私以外あまり語っていないような話をしますので、ぜひついてきてください 苦笑
*以下、前述しましたように繰り下げの話は一旦置いておきます。

年金で受け取る場合は年金給付利率というものを考慮に入れます。
質問者の方が予定利率と言っていましたが、年金給付利率と思います。

質問頂いた方の確定給付企業年金は定年時点で年額83万円とのことでした。
一時金で受給するとしたらいくらくらいでしょうか?

年金原資÷年金現価率=毎年の年金額

として、15年確定年金と年金給付利率5.5%といった前提で年金現価率は10.590とします。その結果、年金原資は8,789,700円。約878万円としましょう。

*なお、10.590の算出方法ですが、年金の支給期間は15年ということですので最後に受け取る15年後まで時の経過を考慮すると利息が付されます。1年に5.5%の利息を得ることができるので、2年目の現価は1÷1.055 = 0.948になります。3回目の年金額1の年金の受け取りは2年後ですから、3回目の年金に対する現価は、1÷1.0552 = 0.898と計算できます。こんな流れで15回分続けて合計すると、15年確定年金の年金現価率を計算することができます。

一時金でもらうと878万円に対し、15年年金でもらうと1年で83万円なので1,245万円。

一時金と年金の差額は15年間で考えると367万円になります。

*ただし、生存に限らず支給が確定している15年確定年金部分に限った話になります。

15年、年金で受給することにしたら一時金で受け取るより支給額ベースではなんと1.4倍になりました。

でも、ここまでの話は皆さんがよく気にされている国民健康保険、介護保険といった社会保険料や引退後の住民税というのは考えていません。

今回は視聴者の皆さんへの感謝企画ということで最後まで解説していきたいと思います。次に税金を含めて考えてみましょう。

受け取り方による税金(所得税、住民税)の違い

一時金でもらった場合は今回のケースでは退職所得控除の枠に収まるので、課税所得金額は0円、結果的に税金がかからないとします。

年金でもらった場合は7.6575%が所得税として取られますので単純計算で1,245万円×7.6575%=953,359円

(年金で受け取ると消費税位、税金を取られます)

年金受け取りにより得られる確定年金部分のプレミアムが367万円、ここから15年確定年金の支給時に徴収される所得税額の累計953,359円を引くと2,716,641円になります。

*上記に繰り下げは考慮していません。

*正確には確定申告すると、戻ってきたりします。知らなかった方は以下の動画もどうぞ。

【企業年金と確定申告】企業年金の受給者は確定申告が必要な理由

ここまでで所得税の話をしてみました。

ちなみに住民税は年金受け取りですと総合課税になります。退職所得になる一時金と違い分離課税(企業年金だけで税額を計算する)ではないので、年金受け取りは住民税が増える要素にはなりますが一概にいくら増えたと言いずらいです。

もし、このnoteやYouTubeをご覧頂いている方で企業年金を年金で受けるとか一時金で受け取るか住民税まで考慮に入れたいといった方はぜひ、来年の確定申告の際に①年金収入に公的年金の支給額に企業年金の支給額を加えた額②公的年金だけの額とそれぞれ入力して所得税がいくらになるか試算した後で、住民税を算出してみてください。

シンプルにA:課税所得の10%(所得割)、B:均等割(定額、5000円)の合計になります。
*Aの所得割を算出する際に税額控除が使える方は税額控除を考慮できます。この点注意してください。

引退後の社会保険料(国保、介護)、住民税を考える

次に引退後の社会保険料の負担を考えてみましょう。
引退後のといっても実は会社員の方がフリーランスになるのと同じです。

国民健康保険料(国保)

国民健康保険料は計算方法や考え方を解説するとそれだけで1つの動画ができてしまうので、今回は簡便的に新宿区の公開している早見表を使います。

引退後に就労しないという前提でしたら↑の

令和5年度 国民健康保険料 概算早見表(給与/年金のみの場合)PDF:275KB

の右の列、年金収入を参照します。

公的年金のみの場合の国民健康保険料の額(65歳以上)

令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況(令和5年12月)P.8 表6受給者平均年金月額の基礎年金ありの149,216円とします。
これを12ヶ月(年)換算した1,790,592円に対応するあたりは大体、月6,800円程度。これを年換算すると81,600円になります。
*介護分(64歳まで支払う介護保険料)を除きます。

公的年金+企業年金の場合の国民年金保険料の額(65歳以上)

公的年金分を月額149,216円とし、企業年金分を年額83万円を月額換算し69,166円とします。合計で218,382円を毎月受給するものとします。

これを年換算すると2,620,584円です。これに対応するあたりの国民健康保険料の概算は14,758円とします(実際にはもう少し少ないように思いますが)。年換算すると177,096円になります。
*介護分(64歳まで支払う介護保険料)を除きます。

まとめると国民健康保険料は公的年金だけだと年間81,600円。
企業年金を年金で受け取ると年間177,096円程度となります。

1年あたりの差は95,496円です。
これを15年間ですので、単純に15倍すると1,432,440円の負担増ということがわかります。

介護保険料(65歳以上)

次に介護保険料に関して考えてみましょう。
65歳以上ですと介護保険料は年金からの特別徴収(給与天引きのようなイメージ)となります。
*納付書で払う普通徴収もありますが今回は割愛。

具体的な金額はご自身の所得が階層のどこに当てはまるかにより決まります。

(参考)新宿区

例として紹介した新宿区ですと16階層に分かれており、住民税課税世帯として少なくとも第6階層を超えると思います。

所得により保険料が違うということで、国民健康保険のように過敏に捉えてしまう方もいるかもしれませんがそもそも65歳以上ですので国民健康保険料ほどのインパクトはありません。

保険料負担としては第7階層と第8階層の差が15,000円程度ですので、次のように考えておけば良いかと思います。
(私なら次のように考えます)

公的年金のみの場合の介護保険料の額

第7階層として、年額92,160円

公的年金+企業年金の場合の介護保険料の額

第8階層として、年額107,520円

まとめると、企業年金を年金で受け取ると1年あたり15,000円増、確定年金の支給期間である15年間の合計は公的年金だけと比較して225,000円増とします。

企業年金を年金で受け取る実質プレミアムを算出

これまでの情報を整理します。

A:確定給付企業年金を年金で受け取る場合の確定期間15年におけるプレミアムの合計は367万円

B:確定年金の支給期間15年の企業年金にかかる所得税は953,359円
*確定申告すると還付される可能性あり。一旦、概算で上記とする。

C:住民税は企業年金も公的年金同様、総合課税のため課税所得を算出(確定申告しないと住民税を計算する基礎になる課税所得が確定しない)。
そのため今回のケースでは考慮が難しいので反映しない。

D:確定年金の支給期間15年の国民健康保険料は1,432,440円

E:確定年金の支給期間15年の介護保険料は225,000円

AからB〜Eを引くと、1,059,201円です。
Cの住民税15年分を考慮に入れてないので、企業年金を年金で受け取った場合に1年当たり70,613円(1,059,201円÷15年)を超えて住民税負担が増えてしまうと年金給付利率5.5%で企業年金を受け取ったとしても年金で受け取った方が損するということになります。

ここまで聞くと、やはり一時金で受け取ろうと思ってしまいますよね。

ただ、今回のケースは15年確定の終身年金になります。

「15年は必ず支給、16年目以降は生存を条件に亡くなるまで支払う」という給付内容なので、16年目以降に得られる年金額は全額プレミアムといえます。

一時金は15年間支給する確定年金の年金原資であり、16年目以降は全額プレミアムになります(一時金受給したら貰えなかった部分)。

この確定期間を過ぎた後の生存を条件に支払い続ける年金額は制度設計の視点では確定期間の年金額と同額にする必要はないです。半分になることもあります。

そのため、「確定期間を過ぎたら終身部分はいくらもらえるのか?」を確認することが引退後の生活設計、年金の受け取り方を考える上でのポイントになります。

税金や保険料がいくらかかっても、確定期間を過ぎた後の全額プレミアム部分を捨てて、一時金で受け取るというのは損です。

逆に言えば、確定年金のみでしたら確定期間の住民税も概算でも良いので計算してみれば年金と一時金のどちらが損しないかわかります。
たいていは一時金の方が損しないと思います。

退職所得控除の枠内に収まらなければ、収まらない分を年金で受け取るといった感じが王道かつ損しないと思います。

年金受け取りは、支給開始から5年経過したら一時金で受け取れる

最後に年金でもらうか躊躇されている方がいれば、アドバイスですが年金で受け取りやっぱり一時金にするという受け取り方は可能です。

条件があり、5年過ぎたら一時金で受け取る一時払い請求が可能です。

ただ、子供の婚姻、災害といった事情がないと5年以内で請求するというのはできないので注意してください。

私だったら悩んでいたら年金を選択します。その後、急にまとまった資金が必要になったり税金や社会保険料を考慮したら一時金で受け取った方がよかったとわかったのなら一時払い請求をして一時金でもらうと思います。

最後になりますが、確定給付企業年金を一時金で受け取るか、年金で受け取るかというのは私からすると尊敬すべき方の悩みです。

基本的には、DC確定拠出年金と異なり、加入者期間(ほぼ勤続期間と同じと捉えて良いです)が20年以上といった長期勤続の条件を満たさなければ確定給付企業年金を年金で受給するか検討する機会を得ることができません。

ぜひ、長期勤続の権利として考えてほしいと思います。

おわりに

なんだか今回の動画、有料級な内容だったかもしれません。
久しぶりのnote、YouTube投稿になると思うので頑張ってみました。

参考になったと思った方おられましたらnoteのハート押してもらうか、YouTubeのいいね高評価を押してもらえると嬉しいです。

YouTubeコメントも大歓迎です。今後もよろしくお願いします。