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HIP HOPの世界で巻き起こるSnippet カルチャーとは? TikTokからTrillerへ

この記事はCentral Sauceさんの『The Hard Reality of Snippet Culture: A Case Study』を元にたくさん加筆しています。


今US HIPHOPの中では、Snippet Cultureといった文化が誕生している。この「Snippet Culture」という言葉は、2019年から徐々に使われるようになった言葉であり、しっかりとした決まった定義があるわけではない。しかしUS HIPHOPのトレンドを知る上で重要なことであるので、一度自分のためにもまとめておきたいと思う。

Snippetの本来の意味は、切れ端という意味であり、ここでは楽曲の「切れ端」のこと。簡単に表現すると、アーティストが曲の一部を意図的に流出させるのが、このSnippet Cultureというわけだ。いわゆる未発表曲のちょい見せである。最近はインスタグラムのストーリーから発信されるものが多くなった。

数年前までは、この役割をTrailer(予告編)もしくは先行シングルが担っていたかもしれない。ただTrailerとSnippetでは大きな違いがある。それはSnippetの場合、実際にリリースされるかどうかが全く不明ということだ。Trailerでは完全に曲の制作を終了しており、マーケティングの一環として行われる。Snippetの場合、ミキシングもマスタリングもまだ無の状態だ(例外もあるが)。車の中や、iPhoneからの再生も多く、正直音質はめちゃめちゃに悪い。ただこのSnippetは非常に多くのメリットを含んでいる。

InstagramからTwitterへのトレンド変更

2017年のアメリカはSNSのトレンドが変わった年である。Instagramユーザーの割合が、Twitterユーザーを初めて超えたのだ。そうしたことで、Instagramのカルチャーが、音楽の世界にも入り込んできている。Cardi BのSNSなどを見るとわかりやすいが、Twitterは考えをのべる場所として落ち着いた。主にヘイターやドナルド・トランプに対して、NoにはNoと、ファンに対して、YesにはYesと、自分の立ち位置をはっきりさせるために使っている。ただ、あまりにネガティブエナジーが多すぎて、インスタにトレンドが移り変わったのは当然のことだろう。(日本ではInstagramよりTwitterのユーザーの方が多い)

Instagramにはリツイート機能がないため、意見をいうのにはあまり向いていない。バチバチにキマッた写真や、娘のKultureちゃんの動画などを投稿し、ストーリーでは好き勝手にライフスタイルを映している。

そしてTwitterからInstagramに移り変わったタイミングで徐々に力をつけてきたのが、(Instagramの)ライブ機能だ。これまで使われていたストーリー機能では、24時間以内であったらいつでも見ることができた。ライブになると、その時、その瞬間に見なければならない。

これは一生変わらない心理かもしれないが、ファンは勝手に自分たちで階級を作ってしまう。アーティストにとってファンは、1人1人平等に大切な存在であるが、ファンは自分が一番好きということで競いたがる。そうした考えは、特定のアーティストを追いかけるために、病的なSNS依存をもたらした。ライブというツールはまさにそこをついたコンテンツでもあるだろう。

そうしたトレンドの狭間に生まれたのが、Snippet Cultureである。アーティストにとって1番のファンになりたいものたちは、まだリリースされていない曲を知っているという優越感に浸り、それを知りたがるファンに保存したライブ動画を供給するのだ。

見えない階級社会と未発表曲

カニエの未発表曲が、ファンの間で売買されたこともあった。そうした例から分かる通り、未発表曲を知っている人、ではない人で、見えない階級が出来上がっている。Playboi Cartiを例にあげよう。

インターネットから絶大な人気を誇るPlayboi Carti。Young Nudyとの「Kid Cudi」は、ライブでかかると大盛り上がりの大ヒット曲だ。Spotifyのバイラルチャートでも1位を獲得。中毒性のあるフロウと酩酊感のあるビートが絶妙にマッチしている。この曲はおかしなことに、「Pissy Pamper」という別名もついているのだ。その理由は非常に簡単で、正式にリリースされてないからだ。

正式にリリースされず、どこかから漏れた楽曲を「リーク」というが、これは業界の間でも非常に厄介な問題として扱われている。理由は考える必要もないだろう。Lil BabyとGunnaの「Sold Out Dates」は、このリークが原因でリリースを無理やり変更させられた。それだけならまだいい方だ。Lil Uzi Vertの「Sanguine Paradise」は、裏で13万円程度の金額で売買されている。

Playboi Cartiに至ってはもうめちゃくちゃだ。リーク曲のリミックスまで出ている。(ちなみにUnoTheActivistはCartiの従兄弟。2人はビーフ状態にあると思われていたが、実際は周りが騒いでいただけであった)

数十曲ほどあるリーク曲の中でも、Kid Cudi、Cancun、Whole Lotta Neon、Mollyなどは、ライブで披露すると次の日にXXLなどのメディアがこぞって持ち上げるほどの人気ぶりだ。Apple MusicやSpotifyのアーティストページにいってももちろんこれらの曲は聞くことができない。グレーゾーンであることから、リークされたことをメディアもあまり取り上げず、Playboi Cartiの真のファンのみ知っているという勝手な構図が出来上がった。

インターネットギークはここに強い執着を持っている。Rolling LoudのYoutubeライブ配信でも、メインでライブ中のJuice WRLDよりも、サブでPlayboi Cartiを待機している人の方が倍以上多かった。コメント欄でもリーク曲のタイトルが飛び交っている。リークされたことで多くの金を失っていることは間違いない。ただそれに引き換え、多くのヤバイ熱狂的なファンを手に入れたのだ。ヤバイというのはヤバイという意味である。ライブ中にみんなが聞きたい曲を勝手にコールし始め、Carti自身がキレるような事件もあったことから想像はつくだろう。

Juice WRLDも一時期サンクラに大量のリークで溢れている時期があった。

個人的にこの曲が好きでサンクラでよく聞いていたのだが、ある時を境にサンクラやYoutubeから一掃されたことがあった。自分が見る限り、他のリーク曲も多く消えていた。リバーブ&ディレイなど極端に質が低いものしかなくなり、いつの間にかリーク王はPlayboi Carti一強になっていたように思う。一度リークしたものは、想像以上に大きなインパクトを残すため、すぐにリリース日を設定するか、Playboi Cartiのように無頓着な姿勢を取るしかないのだろう。

インスタライブを使いこなす

リークの力が強大になるとともに、あえて自分から未発表曲を公開する流れも出てき始める。これを最初に積極的に行ったアーティストは個人的に6ix9ineではないかと思う。

彼がSnippetしたのは、KekeのFetty Wapバースだ。そして間髪入れずA Boogieのバースも公開する。

6ix9ineという一つ大きな視聴者がいるプラットフォームに、Fetty WapとA Boogieの夢のNYコンビが投下されるのだ。6ix9ineバースがいらないと言われようと関係ない。いつドロップするかわからない緊張感を、流れの速いタイムラインに生み出したのだ。6ix9ineは2019年では当たり前になっているこの作戦を、17年の時点で当たり前のようにやっていた。音はめちゃめちゃに悪いのだが、全部聞けないもどかしさは何にも変えられないものであった。

そこからというもの、よりわかりやすい形で未発表曲を公開していくアーティストが多くなっていった。1000RTで新曲公開(実際あんましないのだが)や、ドロップすべきかしないべきか問いかけるものなどである。

ある程度知名度のあるアーティストになると、あえて何も発することなく無言でストーリーやライブに投下することが多い。何もしないことで、勝手にファンが騒ぎ立て、メディアが勝手にニュースにするからだ。そもそも未発表かではないかを調べる必要もある。アーティスト単体への興味をより深く持っていっている一面もあるだろう。

TrillerがTikTokからの差別化

ここに目をつけたのがTrillerなのだが、動画投稿アプリとしてTikTokとTrillerの違いがついていない人もいると思うので、ここで少し自分の中での違いを示しておきたい。

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TikTokはどちらかというと、Twitterに近いように感じる。編集できる幅や、動画のエフェクトなのは日に日に増大し、質の高い動画が勝手に増えていった。簡単に動画を他SNSに投稿できることからも、逆にTikTok以外からTikTokへのネタの流入も激しい。TikTokはそれら自然に発生するトレンドをうまく汲み取り、ユーザーにも提示している。

ただ最近の動画は本当にかなり手が混まれており、どのように撮影するかのHow to動画なども再生数が増加させた。40代のユーザーが増えたことからも、若干違うコンテンツに変わっていくような気配もしている。

そんな転換に一つの意思を持って力をつけてきたのが、Trillerだ。

Trillerの軸は主に2つ。動画編集の簡略化と音楽ベースの動画作成だ。簡略化からまず説明したい。

Trillerにも画像エフェクトなどは存在するが、基本的には動画をいくつか撮影し、シャッフルというボタンを押し、いくつかつなぎ合わせるだけで完成する。非常にシンプルな作りだが、ランダムに画像が切り替わり様子は、ミニMVのように見えなくもない。

そして音楽ベースの動画作成についてだが、これに関してはTrillerのアーティストへのリスペクトが感じられる。まず動画作成を始めるにあたり一番最初にする行程は、楽曲選びからだ。

ユーザー&クリエイター&アーティストから得るリスペクト

TikTokは楽曲を選ぶ際に、「エモい」や「ポップカルチャー」など、トレンドに合わせて楽曲も提供しているが、Trillerはそれに加え、AfroやElectricなどの音楽ジャンル。ThrowbackやGlobalなどのコンセプトジャンルも豊富に取り揃えている。またApple MusicとSpotifyに対応しており(TikTokはApple Musicのみ)、そちらから簡単にアップロードすることができる。

2018年からユニバーサルミュージックともライセンス契約を結んでおり、楽曲仕様に関しての問題を早くからクリアにしようとしているようだ。

Trillerが面白いのは、これまでのSNSが【ユーザーorオフィシャル】だったのを、【ユーザーorクリエイターorアーティスト】という形に変えたことだ。

ユーザーに関してはこれまでSNSと同じ扱いであるが、クリエイターとアーティストにはまた異なるアプローチをしている。まずはクリエイターの例をあげよう。

クリエイターに関しては、教育と組み合わせて力を入れている。Varietyによると、大学進学を実現させるために、積極的なサポート行っていく方向性のようだ。最初に発表されたフランスのライフスタイルインフルエンサーのLea Eluiは、Trillerを通して500万円超を調達することに成功した。大学進学にかかる費用が、フランスでは400万円ほどと言われているので、十分すぎる額だろう。

アーティストに関しては、序盤で話したSnippetとリンクして新たな取り組みが始まっている。2019年下半期に入ると多くのアーティストが、今までインスタのストーリーで行っていたSnippetを、Trillerで一斉に始めたように思う。おそらくTrillerからのアプローチだと思われるが、ほとんどお金をかけることなく簡単なMVをバズらせることができることを可能にした。アーティストはその動画をインスタやツイッターにそのまま流すだけで勝手に認知される。シンプルにTrillerの認知度向上とユーザー数増加もあり、双方にメリットがあった。

Trillerで動画がバズる理由には、その後のプッシュアップがあるのも一つである。Trendingという欄には、Snippetされた楽曲のハッシュタグが早々に作られる。下の画像はLil Babyの「Woah」がTrillerから先行で出された時のものである。クリックすると、demo動画が一番最初に出てくると共に、アーティスト(ちなみに今回のはMeek Millが#woahlilbaby に参加している)とクリエイターが参加した動画も上から登場してくる。

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Trendingは横にスライドすると、多くのハッシュタグが登場し、既にリリースされている楽曲はもちろん、未発表のSnippetも多く見ることができるようになっている。TikTokにはない試みとして、Trillerはジャンル分けもかなり気を配っている。動画を投稿する際は必ず、Comedy、Dance、Fashionというジャンルを選んでから投稿するシステムになっている。正直ここにどれだけメリットがあるかはわからないが、将来的にはトレンドのメディアのような未来が見えているのだろうか? 

単純に未公開の曲を出して人を集めるだけのものだったのが、今やそれ自体が一つのカルチャーと呼ばれるまでとなった。もしかすると、先行シングルというようなものは今後なくなるかもしれない。アーティストとしてもチャートインするために、初週売り上げに全てをつぎ込みたいので、Snippetでファンのテンションをギリギリまで高めるのが、最も効率のいい方法になっていくのだろう。

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WafflingTVというYoutubeチャンネルで、週一くらいのペースで動画も投稿しています。

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今年中に登録者数1000人行きたいという気持ちがあるので、その気持ち、どうか! 伝わってくだされ! お願いします。

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written by Yoshi

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