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韓国で流行のHipHopサバイバル番組、Show Me The Moneyとは

韓国にShow Me The MoneyというHipHop系サバイバル番組があるんですけど、最近めちゃくちゃハマりましてですね。。。ここ2ヶ月くらいの休日はほとんどそれに費やしました。オタクってこういうとこあります。1時間位のやつを100話くらいですかね。もったいないので忘れないように感想を今のうちに書いておこうと思います。

Show Me The Money(以下SMTM)ってなに?って方のために簡単に説明しますと、韓国中から(シーズンによってはアメリカからも)ラッパーを集めまして、その中で最後の1人になるまでとことんラップし続ける番組です。2002年からSMTM1が始まりまして、2020年10月にSMTM9が始まりました。今となっては歴史ある番組です。

SMTMからリリースされる楽曲は、どれも一流のアーティストが絡んでいることもあり、物凄いクオリティが高いです。番組がなかったらあり得ないコラボの連続なので、そりゃあ人気も高まります。年間チャートには必ず3.4曲、SMTM関連の楽曲が入ってきてますね。今回のSMTM9からも、「VVS」という曲が早速リリースされ、韓国のMelonチャートではBTSなど大物を抑え堂々の1位に長いこと居座っております。(クリスマスのときマライアキャリー様に一瞬抜かれてましたが笑)

韓国で最も利用されているメロンでも2019年の12月1位はSMTM9にて披露された「VVS」でしたね。

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SMTMのシーズンに1を足せば、今の西暦になるのでそう覚えるとわかりやすいです。例えばSMTM5は、5+1で2016年に開催されてたことになります。毎年やってるんでその計算で大丈夫です。

自分の好きなK-HipHopでプレイリストを作りました!ちょっと長いのでこれ聴きながら読んでみてください。Spotifyのほうは自由に曲追加できます。



番組内容

番組の特徴として、キャリアを積んだラッパーorビートメイカーがプロデューサーとして参加します。彼らは番組序盤ではラッパーのジャッジをしつつ、後半では(例外もありますが)4チームに別れて、それぞれラッパーをプロデュースしながら優勝を目指すといった形です。毎年やってるので、構成はちょっとずつ変わりますが、基本的にはこんな感じの流れで進んでいきます。

一次審査

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アカペラのラップで評価します。年々参加者は増え続け、SMTM8では16000人近いラッパーが集まりました。ここで一気に100人ほどに絞るので実質最大の難関のような気もします。どでかいスタジアムでも1日で終わらない規模になったので、ここ3年くらいはビデオ審査も一回挟んでます。

二次審査

SMTM3から始まったもので、60秒審査になります。ここで更に半分になります。

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三次審査

ここでは多くのシーズンで、ランダムに選ばれたラッパーが、対戦相手を指名して1vs1の対決です。SMTMはフェアに審査することを掲げていますが、プロデューサーも人間なので、元々知名度のあるラッパーが有利に進んでいくのは事実です。ただこの1vs1の場合、知名度のあるラッパーは敬遠されがちなので、スキルのあるラッパーが最後まで残って潰し合いになることが多いです。このあたりから段々と激しくなっていきます。

プロデューサーチーム分け

三次審査の後いくつかのミッションがあった後(サイファーやチームラップバトルなど)、プロデューサーのライブが行われます。それを見たラッパーがチーム選びをして、それぞれのプロデューサーのチームに所属していくことになります。この選び方も毎回ラッパー有利になったりプロデューサー有利になったりシーズンごとに変わります。

音源ミッション

SMTMが盛り上がるのはここからです。4チーム×4,5人という人数に絞られたことで、それぞれのラッパーに一気にフォーカスがされるようになります。

プロデューサーが出した課題のビートに4人のラッパーがそれぞれラップを乗せ、1人脱落です。脱落以外のメンバーで再録された音源は実際にリリースされていきます。ここでリリースされた曲はヒットしやすいですね。初の音源&オールスターみたいな感じになるので。

本戦

多くのラッパーがここを目標にしています。ここまで来るとラッパー数も10人ほどになるので、それぞれフォーカスされるようになり、優勝しなくともSMTM外で成功を収めるラッパーが出てきます。

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大きなステージでの発表になりまして、大物ラッパーのゲストが登場することもしばしば。話題になったステージはYouTubeで1000万再生なんかも余裕であります。(VVSは1週間ほどで達成していましたね)

ファイナル

ファイナルは生放送され、観客投票&オンライン投票で優勝者が決まります。惜しくも破れてしまったラッパーの特別ステージもあってショーみたいな感じです。

正直ここまできたら、優勝しなくてもSMTM外で活躍できるだけのファンベースが既についています。番組終了後にレーベル契約とかもよくありますね。最近はHIPHOPのマーケットがデカくなりすぎてレーベル所属しているアーティストばっかりですが...


といった感じで番組は進行していきます。一応触れておきますが、フリースタイルは入ってこないです。本戦までの新たにリリックを用意する必要がないミッションでは、準備したリリックor既リリースの歌詞だったりを持ってきて披露します。その場での完成度を重視するので、フリースタイルだからといって評価が落ちることはありません。むしろ歌詞が飛ぶことがないという面では、序盤はフリースタイル上がりのラッパーが有利だったりします。

番組のモットーとしては、フェアな審査ですが、シーズン初期は正直そんなこともなかったです(今も)。SMTM3くらいまでは、編集も意図的で、「悪魔の編集」という言葉が世間に浸透するほど... 誰か1人のラッパーを悪者にするようなことや、意図するキャラ設定を番組内で作り上げることが普通に起きてました。

SMTM3.4あたりからは、番組の批判を実際に写すようにしたりして、健全な放送を進めていこうという意思が少しずつ出てくるようになります。

YDGというラッパーは発言だけ切り取られることを防止するために、でかい時計を首から下げて出演したりしてましたね。

ただ問題がないかと言えばそんなことはないです。どちらかのラッパーが有利に見せるようなミスリード的な展開や、既に実力を証明しているラッパーが少しミスったところを見過ごすことは多々あります。

個人的に一番問題だと思うのは、「SNSでの批判で心を病んだがそれに負けずに頑張る」というシナリオを番組内に入れ込むことで、SNSでの批判を抑制する気がない部分です。実際に病んでしまうラッパーがいるのも事実で、そういった場合への返答が、「番組に出るな」なのは正直どうかと思ってます。ネガティブを番組を通してポジティブに変換する、という流れは正直無理があります。

ただそれを差し引いても面白い部分が多いので、結局馬鹿みたいに見ることになりました。

SMTM3, 4, 5, 6, 7, 8, 9

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高等ラッパー1, 2 ,3

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GOOD GIRL

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と10番組ほど見たので時系列に並べて、それぞれ番組を通して感想話していきます。なるべくみんなに見てもらいたいので、優勝者は全シーズン伏せますが、ちょいちょいネタバレします。ただシーズン見る上でそんくらい大丈夫でしょってさじ加減なので、そこは私を信じてください。

SMTM1, 2は、あらすじ読んで、本戦ステージ見ただけなんで、てきとうに書きます。ご了承ください。軽く書くつもりがここまでで2500字... 頑張ります。


SMTM1, 2

正直ここまで番組が続いているのは、1, 2でほぼ無名のラッパーが、SMTMをきっかけにちゃんと世に出てヒットしたことでしょう。1では現在当たり前のように韓国チャートに登場するLocoや、後に開催されるSMTMのスピンオフ番組「Unpretty Rapstar」で活躍する、フィメールラッパーのCheetahが登場します。今のSMTMを知ってから見ると、最初の審査とか公園で歌詞書いたりしててウケます。

SMTM2では、その後10年でSMTMから韓国のHIPHOPシーンにまで多大な影響を与えるラッパーが登場します。Swingsです。SMTM3を見ると、ほとんどのラッパーがSwingsに憧れを持っているのが伺えます。ガタイのいい体と、そこから発生される圧倒的なエネルギーは、多くのラッパーを魅了しました。彼がSMTM2に登場していなければ、今のSMTMが存在していないと言っていいほどでしょう。

そして圧倒的なスキルを持ったMad Clown(ラップのトーンやタイトなスタイルを聴くとEMINEMを連想しました)や、今後司会業などでも幅広く活躍するDin Dinなどが登場し、一気にHIPHOP人気が加速することとなります。

SMTM3

プロデューサー(Swings & San E,  Tablo & Masta Wu,  Dok2 & The Quiett,  YDG)

このシーズンを一言で表すと、『アイドル vs JUST MUSIC(Swingsのレーベル) vs ルーキー』です。 3つのバランスがうまく調和して、一つの番組になっているのが楽しめるシーズンです。まずはプロデューサーから見て衝撃なのは、YGエンターテイメント(過去にはBIG BANGや2NE1、現在はBLACKPINKなどを擁する巨大事務所)がTabloとMasta Wuという、一時代を作り上げたラッパー2人を召喚してきたことです。

そして参加者でも、YG練習生の(後にiKONのメンバーである)B.IとBobbyが登場します。アイドルラッパーって日本だと馬鹿にされるイメージあると思うのですが、韓国では違... とはなりません。当時多くのラッパーがアイドルに対してBADな印象を持っていました。ただB.IやBobbyの場合、ラップスキルが他参加者に決して劣っているわけではなく、むしろステージパフォーマンスだと彼らの方が圧倒的に上手いので、そこら辺のバランス感が非常に刺激的でした。特に番組を通して成長していくBobbyの姿は、のちの韓国HipHopにも大きな影響を与えます。

そしてSMTM2では参加者だったSwingsが今度はSan Eと共にプロデューサーとしてカムバックします。Swingsが代表を務めるJUST MUSICから、(今では大物ですが当時は)若手ラッパーのGiriboyとC JAMM。10年以上のキャリアを積み上げ、2014年の3月にJUST MUSICに移籍した優勝候補のVascoなどが登場し、番組を大いに盛りあげます。

そして無名のゾーンからは、アイドルのような顔立ちながら安定したラップスキルのIRON、荒削りながらも声のトーンやラップは抜群のユクジダム、Giriboyに対してHIPHOPは何なのかを説教したり、とにかくはちゃめちゃキャラのチョン・サンス、フリースタイルラッパーのOlltiiなどなど。

全体通して見ると非常にバランスの取れたメンツで進んでいきます。B.IとBobbyは、同時期にサバイバルにも出演しており、信じられないくらいタイトなスケジュールでの参加になります。ただ、それを感じさせないほどの、エネルギーを番組に持ち込んできていたのが印象的でした。

アイドルファンが一気に視聴者に増えたことにより、番組の知名度が一気に高まったのがこのタイミングでもあります。中でも番組内で披露したBobbyの「YGGR」は、YouTubeで2000万以上の再生回数を誇り、SMTM始まって以来の特大ヒットになりました。

Dok2とThe Quiettの影響もあってか、Waka Flocka Flameや、Travis Porterのようなタイプのビートが番組内で非常に目立っていた印象です。この2人が海外のトレンドをいち早く番組内に浸透させていたのは、非常に大きな功績だと個人的には感じました。

そしてもう一つ番組の注目ポイントとしては、Vascoのフックアップです。圧倒的優勝候補として登場したことで、どんなステージをするのか注目が集まっていたのですが、蓋を開けるとロックでした。SwingsとSan Eチームなのですが、San EはこんなのHIPHOPじゃない、SwingsはVascoのやりたいようにやらせようと、意見が食い違っていたのが印象的です。Jay ZとLinkin Parkのアルバムの影響だとは思いますが、このような議論が韓国でも起きていたのかと勉強になりました。Post Maloneがヒットする遥か昔ですからね、面白いです。Vascoは「これまで10年以上HIPHOPをやってきた俺が何をしようと、これはHIPHOPだ」と民衆を批判していましたが、2020年から言わしてみたらそれは正解だったのでしょう。それを信じてサポートしたSwingsが、現在多くのラッパーから信頼を得ているのも、少しずつ見えてきます。

SMTM3ではアップカミングなラッパーへのフォーカスがまだまだ弱く、そこまで1人のラッパーに感情移入できなかったのが、ちょっともったいなかったなと思います。それでもIRONのようなスキルがあるラッパーは、無名だろうと関係なく勝ち続けることができるので、面白い番組だなと思いました。

SMTM4

プロデューサー(Jay Park & Loco,  Paloalto & Zico,  Verbal Jint & San E,  Tablo & Jinusean)

SMTM3でアイドルでもラップが上手い人は上手い。という認識が広がった中で、アイドルvs他ラッパーという構図が拡大したのが、SMTM4です。全シーズンと決定的に違うのは、全体のレベルが一気に上がったことでしょう。

アイドルラッパーが多数出演したことで、上記の構図を作りたかった番組側なのですが、MONSTA XのジュホンやVIXXのRavi、SEVENTEENのバーノンらはかなり初期段階で落とされます。デビューしたて、もしくはデビュー前の彼らにとって、経験値の低い状態での挑戦は非常にハードなようでした。アイドルが次々と脱落してく中で、徐々に番組側が意図していた構図は、少しずつ回らなくなっていきます。

ただWINNERのミノ(ソン・ミンホ)は、アイドルラッパーですが、ラップのスキルがずば抜けてまして、そうしたアンバランスさの中から、番組は徐々にミノvsその他ラッパーという構図にシフトしていきます。ミノはもともとZicoの所属するBlock Bの候補生であり(同じく出演者のハネも候補生だった)、アングラでラップスキルを磨いていたことで、忖度なしにラップが上手いです。そのためアイドルラッパーといった強すぎる先入観に、PaloaltoとZicoは露骨に嫌悪感を表す場面もありました。

下手なラッパーほどアイドルのくせにと言いつつ噛みつきますが、誰の目から見てもミノの方がラップが上手いので、序盤は見てる側からして逆に冷める要因になっていたかもしれません。

Tabloが発言していた、「この番組は本当面白い。ラッパーはアイドルになりたがってるし、アイドルはラッパーになりたがっている。」という言葉は、短いながらにこのシーズン、またその後のSMTMをうまく表現していた言葉だと感じました。この「ラッパーがアイドル化する」という部分に関しては、2017年を過ぎたあたりから加速していくこともあり、本質を捉えていたコメントだと思います。

SMTM3の広がりもあり、全体のレベルは一気に上がりました。Lil Boi、Basick、Microdot、Bewhyといった前回だったら余裕で優勝候補のメンツがバンバン出てくるので、後半若干失速した3とは比較にならないほど面白くなりました。

番組終了後の動きが活発だったのが、SMTM4の特徴でもあります。JUST MUSICからBlack Nutというラッパーが出てくるのですが(個人的には全シーズン合わせてTOP3に入る好きなラッパーです)、これまた問題児で、めちゃくちゃ面白いです。

「どうせ優勝はソンミンホ」と煽り続け、ミノvsBlack Nutに徐々に白熱していくのは見応えがありました。ダーティーな言葉でラフなラップスタイルが特徴のBlack Nutと、エネルギッシュなスタイルでカリスマのあるミノの2人はいつしか番組の中心的存在になっていて、それに答えるだけのスキルが彼らにはありました。

番組前に出したBlack Nutの「100」という曲では、韓国を代表する100人を名指しで挑戦状を送る内容で、彼の自由奔放なスタイルが番組を超えて広がった代表的な曲でしょう。イントロにYGGRのラインを引用しているのが、またBlack Nutっぽいというか笑

SMTM3で活躍したBobbyとミノは、MOBBというユニットでも活躍しており、番組ベースの人気を実世界に広げていくというのはこの辺りのシーズンから加速していきました。

また、SMTM4は番組の企画に対する疑問も数多く残った回でもあります。ある回ではSnoop Doggが審査員に現れたことで注目を集めたのですが、「10分で20数名のラッパーが自由にサイファーして、マイクを取れなかったラッパーが落選」という、スキルが全く関係ない意味不明なミッションを入れ込んでいます。

Snoop Doggのスケジュール上、短い時間で判断する企画を作り出す必要があったのはわかりますが、あまりにも酷い内容だったので、今後このような企画は出てきていません。まさかの(マイクを奪い取る)腕の力が強い人が残るシステムなので、女性が圧倒的に不利になっている姿を番組で煽っていたのはかなり不快でした。フリースタイル出身の本選に行くと予想されていたラッパーのソチュルグが、若いラッパーにチャンスを与えるために、半ば自主的に辞退したのは、衝撃的な出来事です。(この事件はソチュルグのラッパーとしての人気を後に高めることにもつながります)

また番組が終わると、参加者であったSuperbeeとプロデューサーであったTabloの間でビーフが発生したりもしました。Tabloが一見不当にも捉えられる勝たせ方をしたラッパーが、番組直後に自分の会社からリリースさせたのもあり問題になりました。その被害を最も受けた形になったのが他でもないSuperbeeでした。Superbeeは本来攻撃的な性格ではないのですが、非常にディスバトルが得意なことから、「破天荒で、荒れた、攻撃的なラッパー」というSMTMに作られた固定概念に悩まされるアーティストになっていきます。

SMTM5

プロデューサー(Simon Dominic & Gray,  Zion T & Kush,  Gill & Mad Clown,  Dok2 & The Quiett)

まずはプロデューサーからですが、SMTM4の成功した部分があってのこのメンバーになったような気もします。チームミッションや本戦での楽曲が当たり前のように、世間的なヒットを繰り返すようになり、プレイヤーよりかは、楽曲をプロデュース&ヒットさせれる人がプロデューサーとして呼ばれるようになります。Zion T、Grayといった現在もヒット曲を飛ばしている売れっ子プロデューサーや、Big Bangなどのヒット曲を手がけていたKUSH、優れたソングライティング能力を持つGillなどがその代表でしょう。

一言でこれまでのシリーズを振り返ると、SMTM1.2はOGのフックアップ、SMTM3.4はアイドルとアングラの垣根を無くす、という部分が番組の裏の狙いでした。あえてSMTM5.6を一言で表すなら、スーパースターの誕生でしょうか。

SMTM5はどんなシーズンだった? と聞くとほとんどの人が、「BewhYとC Jammの2人のシーズンだった」と言うはず。幼馴染だった彼らが、韓国中が注目する舞台でずば抜けたラップのスキルを誇示し合うのが、清々しいほど、かっこいいです。後にSMTMに登場するラッパーがこの2名のアーティストを口に出すことが多かったことが何よりの証拠でしょう。(ちなみにBewhYにラップを教えたのは他でもないC Jamm)

C Jammは早めにSwingsから目をつけられたこともあり、BewhYより少し早く人気が出ました。BewhYはSMTM4で実力はあったものの、プレイヤーからの評価が高かったことから優勝候補と連続で当たる結果になり、運悪く落選します。

ただ、そこからアーティスト活動が徐々に注目されるようになり、2人揃って優勝候補として、登場した段階でまるでこの番組の主人公のように活躍することになります。既に実力は認められていたC Jammと、圧倒的カリスマ力のBewhYはHipHopシーン全体にも今後大きな影響を与えていくことになります。

この辺りからSMTMの物理的な規模もかなり拡大していきました。The Quiettも、「SMTMのステージは自分たちでさえ難しい」と話す通り、サバイバル特有の緊張感や、大きく変則的なステージは、経験のないラッパーにとっては非常に不利な要素になってきます。

SMTMにでる以上、目標は優勝をすることで、ラッパーもプロデューサー側も全力でそこに目指していきます。そしてその優勝をするためには「大きなステージで観客を魅了する必要」があるというところから、回を重ねるごとにシンプルなラップのうまさだけでなく、よりアーティストとしての全体像を見てジャッジすることが多くなりました。

SMTM5では、Myundoのようないきなり駆け上がったタイプのアーティストが、大きなステージに苦しめられていた一方で、#Gunのように逆にステージの上の方が輝くタイプのアーティストも存在しました。そうした部分からSMTM6以降では、ファイナルで何ができるのかという部分により焦点を置いて審査されていくようになったと感じています。

SMTM4までは、「は?」と感じることが番組構成上ありましたが、今回は失言するタイプのプロデューサーも少なく(誰とは言いません)、それぞれのアーティストによりスポットライトが当たった形で、見ていて気持ちがいいシーズンでした。

高等ラッパー1

メンター (Swings,  YDG,  Jessi,  Deepflow, Mad Clown, Giriboy & ソチュルグ)

SMTM人気が一つ回収された番組がこの高等ラッパーだと感じています。サバイバル系の番組はYG系列から始まり、韓国音楽シーンに広く浸透した考えですが、そのアンチテーゼとしてのHIIPHOP文化がもはや一つのカルチャーとなり若い世代が育ってきたことの証明にもなっていました。番組の内容は、簡単に言うとSMTMの高校生版です。プロデューサーではなくメンターとして、現行シーンで活躍しているアーティストが、高校生をサポートする形になっています。

SMTMに一度は出演したこともある人が名を連ねる中、このような番組には出ないと思われていたDeepflowが出演したことで大きな話題になりました。VMCというHipHopの世界では硬派なスタイルを貫いてるレーベルの代表を務めています。

SMTM5でも活躍したフリースタイルラッパーのソチュルグや、Unpretty Rapstarでも名を残したJessiなど、MNET系列の並びを感じます。

Swingsの『Just Music』や、The QuiettとDok2の『1llionaire Records』、Jay Parkの『AOMG』、Paloaltoの『Hi-Lite Records』などラッパー主体で活躍するレーベルや、他クルーなど、プレイヤー主体の枠組みが主流の韓国に置いて、そうした考えが強く高校生にも強く反映されているのも、見ていて面白い注目ポイントです。Dickidsというクルーは、高校生ラッパーなら誰でも知っているクルーとして実力を証明しつつあり、SMTMが隆盛を迎えるにあたり、若い世代が確かに実力をつけてきていることが、MNETを通して全韓国中に伝わったことでしょう。

SMTM4と5で好成績を残したYoung B(その後YangHongWon改名。のちにSwingsが設立したIndigo Musicに所属)と、当時大注目のルーキーアイドルであったNCTからマークが出場したことで、番組の序盤は一気に盛り上がりを見せました。Young BはDickidsのメンバーでもありますね。

今回番組MCがバラエティ寄りのブッキングだったため、ラップとは関係ない部分で高校生を刺激したり、Young B VS マークの構図を作りたがるあまり、SMTMに慣れている身としてはかなりバランスの悪い運びでした。(マークの性格が死ぬほど良いので、悪魔の編集が全く機能しない新しいパターン笑)

そうしたバランスの悪さは、高校生のラップが予想以上に上手かったからだとも個人的には感じています。HongWonはのちに韓国シーン全体でも成功を収めますが、ラップのスキルだけでなくグルーヴの作り方や発声がずば抜けていました。

その他にも、番組中にSwingsが口説いたチャン・ヨンジュン(NO:EL、のちにIndigo Musicに所属)、大人も出場するフリースタイルの大会で何度も優勝しているチョ・ウォヌ(Jowonu、のちにHi-Lite Records所属)、そして予選で自ら作詞作曲するセンスを見せつけ無名から一気に優勝候補にのし上がったチェ・ハミン(Osshun Gum、のちにJust Music所属)などなど。SMTMの影響力が徐々に拡大し、若い才能が続々育っていることが一気に韓国中に伝わった瞬間でもありました。

カッコにて括りましたが、ここで実力を証明したラッパーは、ドでかいレーベルに引き抜かれ、すぐにシーンで活躍していきます。単なるSMTMのスピンオフではなく、ドラフトのような役割も今後果たしていくことになります。そのような影響も少なからずはあり、高等ラッパーは2,3に続くにつれ、わかりやすくレベルが上がっていくのも面白いです。

SMTM6

プロデューサー(Tiger JK & Bizzy,  Dynamic Duo, Zico & Dean, Jay Park & Dok2)

長年オファーをしていたTiger JKにDynamic Duoという韓国HipHopの歴史を支えた人物が、ついに登場したということもあり、SMTMがHIPHOPシーンにしっかりと軸を置いた回であったと思います。そしてZicoとDean、Jay ParkとDok2というトレンド最前線のラッパーを組み込んだことで、一見バラバラながら、前回までと比べ、かなりバランスの取れたプロデューサー陣のようにも思いました。

SMTM5ではBewhYとC Jammが優勝候補として扱われてましたが、今回はNucksalがその立場を担い番組が進行していきます。VMC所属のアーティストで、ラップスキルもプロデューサーと同じレベル(SMTM777ではプロデューサーになります)、ファンベースもしっかりいるアーティストの登場で、むしろなぜノクサルが? という状態です。ラップがバカみたいに上手いので、番組が進行すると同時にその声は消えました。いいラップを聞くとみんな黙ります。

Rhythm PowerのメンバーであるチグインとBoi BがそれぞれSMTM4と5で活躍する中、SMTM4でまさかの予選落ちしたヘンジュが今回最後のメンバーとして奮闘するのもまた熱い展開です。彼らはAmoeba Cultureからデビューしたものの、当時はそこまで人気が出ず、ずっと苦しんでいたグループでした。そしてAmoeba Cultureの設立者は他でもないDynamic Duoなのです。遅咲きの才能でもこうして平等にチャンスが与えられるものとして、SMTMのサイクルはしっかりと機能していたとも言えます。

そして今回は当時全くの無名だったラッパーの活躍が目立ちます。13歳にして贔屓目なしに同等のラップスキルを持っていたウチャンや、のちにH1gher Musicに所属するWoodie GoChildなどは、ここから出てきました。

そして韓国どころかワールドワイドのヒット曲をのちに出すこととなる、Woo Won-jaeが初めてスポットライトを浴びたのもこの番組です。自身はメンタルヘルスに苦しみながらも、それを音楽に昇華させていく姿は、これまでSMTMに出てきたどのアーティストととも違う異質な存在でした。SMTMがサバイバル番組である以上、相手を蹴落とすという構図は必ず出てきてしまいますが、それに囚われず自分自身と戦い続ける姿は、番組の見方を変えてしまうほど強烈なインパクトでした。単なるバラエティとしてではなく1人のアーティストとして成長する余地を作ることが、SMTM6になってやっとできたんだと勝手に感動した部分でもあります。

序盤でざっくりと、SMTM1.2はOGのフックアップ、SMTM3.4はアイドルとアングラのミックス、SMTM5.6はスーパースターの誕生、とSMTMの功績をまとめましたが、5と6にはもう一つ大きな功績もありました。それは海外で活躍するアーティストと韓国HIPHOPシーンのミックスです。

SMTM5からアメリカでの予選も始まり(プロデューサー陣はアメリカまで行ってTimbalandと一緒に現地のラッパーを審査してます。金ありますよね)、NY出身でありAziatixとして世界で活躍していたFlowsikが、本国で注目されるきっかけを作りました。ただSMTM5では、アメリカからのラッパーは、本国での知名度も少なく、不利な進行を余儀なくされていました。

SMTM6ではその辺りは少し改善され、JunoflowやKillagramz、Maniacといったラッパーが、しっかりと評価されていたと感じます。SMTM5では、Junoflowが事故に近い形で脱落したこともあり、そうした不満を抱かせたことがなんとなく世論を動かせるきっかけにもなったかなと思います。

また、SMTM以外のシーンとして触れておかなければならないことで、YouTubeを通した韓国外にもヒットする作品が出てきたことがあります。

一つ目はDPRのチャンネルからドロップされた、Eung Freestyle。これはSik K、Owen、Punchnello、Flowsik、そしてDPR LIVEというこれから爆発するであろうアーティストが集まり(本当に皆さん有名になってます)、マイクリレー形式の動画です。SMTMを通さずとも、映像作品としてしっかりと届けることができれば、ちゃんと数字となって跳ね返ってくるということが証明された重要作です。

そしてもう一つが皆さんご存知のIt G Maです。音数も馬鹿みたいに少なく、韓国人には敬遠されそうなビートチョイスでも、うまく文化的な進化を見せることができれば、アジア、さらには世界でこうして聴かれる曲が誕生したのは、番組と韓国シーンに同時に影響を与えていたと感じます。Zicoが番組内で提供していたビートも完全にグライムでした。

高等ラッパー2

メンター(Groovy Room, Hangzoo & Boi B, San E & Cheetah, Deepflow)

Just MusicからIndigo、1llionaireからAmbition Musik、AOMGからH1gher Musicとレーベルヘッドが変わらずとも、次の世代をまとめ上げるようなクールな集団が力をつけていく時期になります。

各レーベルそれぞれ、H1gherはSik-KとWoodie GoChild、IndigoはYangHongWonとNO:EL、AmbitonはKeem Hyo-EunとHash Swanなど、SMTMor高等上がりのアーティストが活躍していたこともあり、ラッパーで生活することは、高校生にとってそう遠くない現実に見えていたと思います。

サバイバルでいい成績を残さずとも、才能を認められれば、番組後にサインするケースも多々あり、そうした部分にも夢がありました。SMTM6でJay Parkに気に入られたWoodie GoChild、番組中にSwingsが口説いたNO:ELなどはその典型的な例です。

そうした流れもあり高等ラッパー2からはのちのスターが大量に誕生します。Haon、Vinxen、Ash Island、Rohann、A mond、Oh Dam-ryul、Sandy、Bullyなどなど。2020年に活躍している彼らを知りながら見てたので、個人的にはとても面白かったです。

H1gher Musicの売れっ子プロデューサーのGroovy Roomが登場したのは、大きな転換でした。番組で制作された楽曲というのは、ヒットしやすい傾向にあります。そのため、いい楽曲を作ろうという方向に進んだのが、SMTM5でしたが、ここまでトレンドを意識した大胆なブッキングができるのは、高等ラッパーだったからとも言えます。

これまでずっとアングラとアイドル、海外と韓国、OGと若手、などのカルチャー全体のミックスを意図的にしていく上で、それをまとめ上げられるだけのプロデューサー力というものが必要だったので、年齢も自然と上の人が多かったです。HIPHOP番組と言えど、出演者は様々なので、年齢差の文化が日本よりも激しい韓国ではその影響を感じました。

高等1では、Unofficial BoyがTOPを務めるDickidsというクルーが既に有名で、番組もかなりクローズアップしていました。YangHongWonやBullyもこのクルーですね。

逆に高等2では、Vinxenが立ち上げたKiff Clanというクルーを中心に番組序盤は組み立てられていきます。地元の仲間というよりかは、高等1を中心にメンバー構成されたということもあり、スキルレベルが非常に高い状態で集結したというのがこのクルーの特徴です。高校生だからこそできるパフォーマンスを、高いラップスキルで表現できるというのは、Dickidsとの差になっていたかもです。Dickidsは良い意味で高校生じゃないです。

高校生ならではの歌詞など、今聴いたら恥ずかしいようなことも彼らは堂々とラップしていて、そうした清々しさを感じれるのもこの番組の良さかもしれません。

SMTM777

プロデューサー (The Quiett & Changmo,  Paloalto & Code Kunst,  Swings & Giriboy,  Deepflow & Nucksal)

正直これまでのSMTMのシーズン全てが伏線に見えてしまうレベルの素晴らしい出来だったのが777です。この回はマジで面白いです。

プロデューサーは、ChangmoやCode Kunst、Giriboyなど、0から100まで楽曲をプロデュースしてヒット曲を作り出せる今が旬のスターが続々登場したのが特徴です。新人としてSMTMに出演したGiriboyが、今やヒットメイカーですからね。アツイものがあります。DeepflowにNucksalと、VMCの2人が揃って登場したのもまた話題になりました。

今回だけ(謎の)BETシステムというのが設けられ、ラッパーをお金で評価していく形になります。ただ実際上手かったら落ちる下手だったら負けるというのはシンプルなので、番組調整上、スキルの高いラッパーがなるべく早く脱落しないように考えられた方法だと思います。

7はなんといっても歴代で最高レベルの参加者だったので、かなり盛り上がりました。紹介していきます。

まずはLoopyとNafla。今回の絶対的優勝候補として、登場したNaflaと、彼が所属するMKIT RAINの代表Loopyです。ロスで育った彼らは韓国での成功を夢見て、少ないコネクションの中から少しずつ影響力を強めていました。LoopyはかつてSMTMをディスっていましたが、それでも参加を決めたのは、SMTMがシーンの中心にスライド行くにつれて、自分たちの居場所が少なくなっていることを感じていたそうです(Naflaがそのようなことを言ってました)。Chillin Homieは参加した理由として、LoopyとNaflaと同じステージに立ちたかったからと話しているように、若い世代も目標とするラッパーです。

そして、その対抗馬としてKid Milliも登場します。日本でも高い知名度を誇る彼ですが、SMTMでもその立ち位置は同じです。出演者のほとんどが、NaflaとKid Milliを優勝候補に挙げています。そしてSMTM4,5で大活躍した、Superbeeもここで登場します。また?という声があったみたいですが、あそこからさらにラップのスキルが上がっていて、登場するや否やすぐにまた優勝候補として数えられるようになります。

ph-1、Yun B、Reddy、OLNL、Zene The Zilla、ブヒョンソク、Odee、Qwalaあたりの、既にある程度シーンに実力が認められているラッパーが多く登場したのも、今回の魅力です。このボリュームゾーンのラッパーが多くいることで、たとえ優勝候補だとしても絶対にミスできない緊張感が保てていたと感じます。

また高等以降の若い才能もSMTMで花開いていきます。イスリンやBully、イドンミン、jowonu、Osshun Gumといった高等1のメンツが注目を浴びるのに加え、Lil Tachiのように高等3に出てくるラッパーが先にSMTMで実力を示すケースも増えてきました。そしてなんといってもD Arkの登場は777を語る上では外せないです。当時中学生ですが、誰よりもTrap Musicの乗り方を理解しており、韓国語英語中国語をミックスしたラップを高速でラップするのが特徴です。韓国のシーンはついにここまでの化け物を産んでしまったんだなと、正直自分は怖いくらいでした。最近PSYのP-Nationと契約しましたね。

そして777ではスターも多く登場しました。MBAというクルーから登場したEKは、序盤から番組にもメンバーにも恵まれ、大きな爪痕を残します。日本でも人気のあるYouTuberのGattiの彼氏としても知られ、K HipHop好きとYouTuber好きの一部に愛される謎のファンベースを日本に持っています笑

CoogieもSMTM7で大きく跳ねましたね。The Quiettさんが番組中ずっとラブコールを送り続けた人であり、それに毎回答えていく彼のスキルの高さは実物でした。ハイトーンながら安定したスキルと非常に高い歌唱力を持ち合わせたアーティストとして、Coogieのラップを聴くたびにクワさんが嬉しそうな顔をしていましたのが印象的でした。

全体通してみると、これまでのシーズンに比べ本戦のステージ数が増えています。そしてゲストのボリュームも前回と比べ物にならないほどグレードアップしていて、(というのもNaflaやLoopyのような実力も経験値もずば抜けているアーティストにルーキーが対抗するためでもあります)、ステージパフォーマンスを存分に楽しめる構成になっていました。

あの韓国HipHopの特大ソング119 RemixもこのSMTM7がきっかけで生まれた曲です。

「あんたみたいに、こんな一気見するほど時間ないよ〜」という方でもしSMTMに興味ある方がいれば、7だけでも見てください。ここら辺にしておきます。

高等ラッパー3

メンター (Hangzoo & Boi B,  Kid Milli & Giriboy,  The Quiett & Code Kunst,  Groovy Room)

前回より2組入れ替わり、The Quiett, Code Kunst, Giriboy, Kid Milliと直前のSMTM777に出ていたアーティストがプロデューサーに加わります。

もうここまでくると安心してみれますね。Kid Milli除き全員が一度プロデューサーorメンターを経験をしているので、いらっとくることがほとんどないです。司会進行も前回に続きNucksalと、本当安定〜って感じですね笑

ただ参加した高校生たちは、前回をさらに超えるクオリティで登場してきてことで、メンターたちも相当驚いていたようでした。

Sokodomoのようにただ、早口なだけでなくフロウや言語を様々織り交ぜるスタイルに、GI$Tのようなメロディアスなラップ、カンミンスのような高校生だからこそできる純粋なリリック、圧倒的なラップ安定感とキャラクターで人気をイヨンジ等々、全く異なる才能やスキルを持ったアーティストがバランスよく登場したのが、番組のバランスを調整し素晴らしいできになりました。

高等2では、スターが大勢誕生したことで、今回もそこに注目が集まりました。メンターもその点かなり熱が入ってより、「高等だよね? 」って確認したくなるレベルで大物ゲストが登場してきます。

つまらなかった部分ではないのですが、才能がちょうどよく分散して、誰が優勝してもおかしくない状態が長いこと続くので、1のYoung B、2のHaonのように、番組通してのリーダーが今回は出てこなかった感想です。

ただ番組の顔的キャラクターとして、「KAWAIIクリエイター」ことHOTCHKISSの登場は、魅力的でした。ラップのスキル自体は抜けているわけではないのですが、キュートな振る舞いと、独特な間を持つキャラクターは番組に愛され、視聴者にも愛され、出演しているラッパーにも愛される人物でした。

彼とは対照的なサグなスタイルを推し進めるLil Tachiとのコラボ曲は、Melonの年間チャートTOP100にも選ばれる爆発的ヒットを生み出します。ヒット曲メイカーのGiriboyの素晴らしいプロデュースもあり、番組進行上重要な曲ではない歌がちゃんとリアルの場でヒットする事実は面白い事実ですね。

こうした番組内で制作される楽曲は実質、チャートに目を向けているという事実はSMTM8になるとさらに加速していきます。

SMTM8

プロデューサー (Swings & Mad Clown & Kid Milli & Boycold   VS   Giriboy & Bewhy & Verbal Jint & Millic)

結果論で話すと、SMTM7に比べ少し盛り上がりに欠ける部分もあったように感じますが、前回のように圧倒的優勝候補がいなかったためしょうがないようにも思えます。その分、企画の部分でいくつか狙いを込めて、仕掛けていたのが伝わる内容でした。そしてSMTM8は9につながる布石がいくつも存在するので、9でその辺りも細かく書ければと思います。

まずは、プロデューサー構成ですが、ここにきてSMTM2ぶりの2チーム対決に戻しました。そして両チームに、BoycoldやMillicといった実力はありつつもまだ世間に認められていないプロデューサーを選出したのは、とても未来のある抜擢だったと感じます。Boycoldはクレジットさえされないものの、高等で多くのビートを提供しています。またBewhyとKid Milliといった年齢的にはまだ若くも、実力を兼ね備えたラッパーを両チームに配置しています。4チーム構成では難しかったような気もしますが、2チーム構成だからこそ、こうしたチャレンジも可能にしていたように感じます。

またシーズン8では決勝の前ラウンドで、一般人から公募したビートを使いステージで披露する機会も作っています。それぞれのビートのクオリティも非常に高く、BoycoldとMillicだけでなく、韓国HIPHOP全体で質が高まっていることを世に知らしめた瞬間でした。

全シーズンでNafla、Loopyのような番組をリードするラッパーが、今回はあまりいませんでした。優勝候補とされていたEK、Punchnello、Young Bは、どちらかといったらリーダーといった感じでもなく、むしろSMTM7のような想像で出場したEKは優勝候補へのプレッシャーをとても重く感じているようでした。

SMTM7で大物が出て最高のステージを披露したのに対して、今回はルーキーの登場が非常に華やかであったと感じます。YunhwayやBrynは、女性ラッパーがこれまでずっといい成績を残せてない中、大きなインパクトを見せつけました。Yunhwayは作曲センスがずば抜けており、その上ラップもめちゃくちゃ上手いチートのような印象すらもあります。BrynはYoung Bと高校生のとき同じクルーで活躍していましたね。

中でも今シーズン注目を浴びたのは、Big NaughtyとTakuwaでした。この2人はこれまでのSMTMがあったからこそここまで跳ねたのかなと個人的には思っています。

SMTMのシーズンが進むにつれ、ありきたりで古いラップというのが、非常に毛嫌いされて行くようになります。番組の趣旨としてマンネリ化を避けたかったのか、1日に何百人何千人と審査するプロデューサーが、ただラップが上手いだけでは記憶に残らないのか。理由は多々あるかと思いますが、年月がすぎるにつれこのような方向に進むのはもはや避けられなかったと感じています。そのためP-Typeのように、過去CLなどにラップを教えていたレジェンドが軽く見られる事例が少なからず存在していました。

ただその変わりゆく流れにうまく迎合したのが、Takuwaです。ピンクヘアーにツノ、鼻に詰まったような甲高い声、それでいて安定したラップという、めちゃくちゃなスタイルですが、プロデューサー陣からとてつもなく高い評価を受けていました。Mad Clownは今シーズンで最も理想的な参加者と彼を評していましたね。

そしてもう1人が現役高校生ラッパーのBig Naughty。のちのH1gher Musicのメンバーですが、この段階では彼の名前を知るものは1人もいません。家に機材もなく、作詞作曲もほぼ未経験ながら、圧倒的な歌唱力で予選の段階から大きな注目を浴びました。

少しまえのシーズンなら、ラップじゃない。と切り捨てられたかもですが、むしろ変化を求めていたSMTM8にとって彼もまた理想的な参加者でした。Beenzinoといきなり比べられたり、歌声を聞いた瞬間に立ち上がるCrushなど、ずば抜けたセンスが本当に笑っちゃうくらいでした。

そして番組とは直接的には関係ありませんが、外の音楽シーンとも少し話しておく必要があるかと思います。YouTubeを主体にしているdingoです。

知っている人は知っているかと思いますが、YouTubeを軸にコンテンツを投稿しているチャンネルで、HIPHOPを主にしているdingo freestyleだけでなく、アイドルシーンを専門としたチャンネルなど、多くのジャンルをカバーする韓国音楽シーンを語る上で欠かせない番組です。

なぜこれを話したかと言うと、SMTMに出なくてもここからスターが生まれるような事例が出てきたからです。

Yummdaはdingoと組んで出した新曲が人生初のチャートインを果たし、続くDAMOIM(84年生まれのYummda、Paloalto、The Quiett、Simon Dominic、Deepflowが集まったユニット)でも好成績を残すなど、YouTubeを起点に遅咲きながら大成功を収めます。最近ではThe Quiettと共にDaytona Entertainmentという新しいレーベルも立ち上げました。

これまで成功するにはSMTMしかないとラッパーに刷り込まれていた考えが、ここにきて一気に破壊されたような気もしています。この辺りも含め、SMTM9ではさらにそれが広がっていきます。

GOOD GIRL

一旦SMTMから離れます。

これは様々なジャンルの女性アーティスト10人を集めて、とにかくいい曲を作ろう的なコンセプトの元、コロナ禍で開催されたものです。(その代わり高等4は開催されていません)

少女時代のヒョヨンから、高等3で活躍したイヨンジ、ヤバすぎるTwerkから韓国のCardi Bとも呼ばれるQueen WA$ABIIなどなど。アイドル、シンガー、ラッパー問わず9名の構成で進んでいきます。

回が進むにつれ、対戦相手が登場するので、そことステージで勝負して、勝ったらお金をもらえるからそれでFLEXしようという、なかなかにゆるい企画です笑

今までのサバイバル系だと、負けたら即敗退の緊張感の中での対戦でしたが、今回はそれを敢えて取っ払って、いい曲を作りいいステージを作るということにフォーカスした新しさがありました。

SMTMや高等を見てもわかる通り、必ずしも最後まで残ったアーティストの曲が再生回数が高いというわけではありません。勝負事のため敗れ去りはするものの、曲だけはずっとチャートに居座り続けるというケースがこれまで多々ありました。ファンベースの大きさやステージが得意なアーティストが多少有利という条件のもと、もったいないと感じることが多くあったので、何度も挑戦できる番組のフォーマットはとても魅力的です。

いい曲を作り、いいステージで披露し、ちゃんと届きさえすれば、世間の話題になるという番組側の強い意志も感じましたね。

ルックスで評価されるアイドルは、楽曲を制作し披露することで新たな一面を見せたり、ラッパーは全く違ったファン層にスキルを披露できたりと、ジャンルレスに9人を集めたことがとてもいい方向に進んでいきました。互いに刺激し合い、1つの曲を完成させていく姿に、新たな番組の方向性を見た気がします。

自分はこういう番組が日本にもあるといいのになぁ...と思いながら見てました。

SMTM9

プロデューサー (Paloalto & Code Kunst,  Giriboy & Zion.T, Justhis & Groovyroom, Bewhy & DynamicDuo)

個人的には韓国で一番ラップがうまいんじゃないかと思っているJusthis。ついに彼が登場しましたね。過去SMTMをちょっとディスったりと出ないんじゃないかと言われていましたが、出ましたね。

それ以外のメンバーは既にプロデューサーorメンターを経験しているので、安心して見てられましたね。GiriboyとZion.Tのフワフワ感は終始面白かったですが笑

まずは番組背景ですが、2020年の秋ごろにスタートと、コロナが真っ只中で行われたため、それぞれ進める上で、番組の構成をかなり変化させていたように感じます。

感染対策もそうですが、密になる場を避けるために、番組序盤からチーム分けをし、一箇所に多くの人が集まらないような工夫がなされていました。また本戦のステージパフォーマンスですが、客席は最小限に留め、オンラインでの投票を多めにしていました。

ステージパフォーマンスもその空白を埋めるように、カメラワークや演出でカバーしていて、コロナ禍を感じさせることなく進んだのは本当素晴らしい運びでした。

ただ逆にこの混沌が招いたいい点もありました。ゲストが史上最高の豪華さでした。多くのアーティストがツアーやライブの中止などで時間が空いたためと思われますが、これでもかといったほどにスターがバンバン出てきます。正直今後のSMTMでこれ以上の豪華さは出ないと思うので、若干寂しくなるんじゃないか。って心配させるほどでしたね笑

参加者に戻りますが、今回はシーズンが始まる前から1人の男の話で持ちきりでした。Swingsの参加者での登場です。司会者のキムジンピョが、間違えて「Swingsプロデューサーは」と発言してしまうほど、番組に定着していた彼が登場し話題になりました。

SMTM3のときに不運にもC JammとGiriboyが対戦することになってしまい、どちらかを落とさざるを得ない状況に、Swingsは涙を流していました。それが今回はSwingsが審査をする側に回り、これまでの出来事を振り返りGiriboyが涙していたのはとても印象的でした。

Swingsはと言うとプライベートでも様々なことがあるわ、巨大化したレーベル、アルバムへの低い評価など、多くのものを背負って出ていたことでしょう。そしてそれを跳ね除けるパワフルな姿は健在でした。

そして優勝候補のもう1人としてLil Boiが登場します。SMTM4の時も優勝候補として出場しましたが、そこから大きな日の目を浴びることは少なかった彼です。理由としては、精神的にそこまで健康でなかったと話しています。

そしてSMTM9は、これまで張られていた伏線が回収されたような。そんな回であったと感じます。

前シーズン大きな成績は残せずとも、強烈なパンチラインや、スタイルで注目を浴びたアーティストがいました。名前をあげるとMushvenom、Layone、Munchmanです。Munchmanに至っては、8の予選で5秒ほどしか映っていないほどです笑 彼らは、インターネットミームや、それぞれのYouTubeチャンネルなどを通し、SMTM8リタイア後はそれぞれ工夫を凝らし注目を集め続けていました。

LayoneはSMTM9のエントリー動画をYouTube上でいち早く公開。しかもその映像が、なぜか水の中から顔だけ出してラップするというふざけた演出で、400万近い再生回数を叩き出します。Mushvenomは予選で披露するラップを、テレビにて公開するタイミングに合わせてリリースし、一気に注目度を高めました。

彼らは自身のプロップスを高める方法を、SMTM8終了後に多く学んでおり、それをSMTM9でリアルタイムで披露したことは、天才的なほどでした。

SMTM6のときにヘンジュがインスタのストーリーを通して、プロデューサーのZicoへのリスペクトを示して話題を作るなどありましたが、彼らは音楽を通して、SMTMを飛び越えた広げ方をできていて、とても素晴らしかったです。

こうした動きをしていたラッパーは実はSMTM7にもいます。Mommy Sonは、過去にSMTMでプロデューサーも行っていたラッパーですが、招待を隠して(バレバレ)参加します。結果は歌詞ミスでの敗退でしたが、その後その怒りをぶちまけるかのように、YouTubeの精力的な活動で気を集め、各メディアに引っ張りだこの裏の勝者になりました。

多くの参加者にとって、SMTMで優勝することはもちろん大きな目標ですが、自分の曲が多くの人に聴かれることを目指して出場しているのは全員同じでしょう。そうした中、優勝のしないロールモデルが続々と誕生した結果に思います。

高等ラッパー4

プロデューサー (Jay Park & Ph-1 & Woogie,  Simon Dominic & Loco,  The Quiett & Yummda,  Changmo & Way Ched)

ついに募集が始まりました高等4です。2/19に始まりますね。

あり得ないくらい豪華なプロデューサー陣です。ざっくり分けると、H1gher MusicとAOMG(どちらも代表はJay Park)、Daytona EntertainmentとAmbition Musik(どちらも代表はThe Quiett)と、韓国HIPHOPで大きな力を持っているこの2人の対決にもなんとなく見えてきますね笑

そしてH1gher Musicと契約したTrade Lが出場することも発表されました。昨年高等が開催されなかったこともあり、おそらく今回のレベルはさらに上がっているかと思われます。SMTMで注目を浴びた高校生も多くいるため、彼らが参加するかどうかもかなりの注目ポイントです。

楽しみですね。


最後に

ここまで2万字超えてるんですよね。2020年の終わりから少しずつ書き始めたんですけど、結局ここまで時間かかってしまうという。

おそらく2020年9月〜11月はもうこれしか見てないってくらい、韓国HIPHOPをずっと追ってました。言葉だけでどれだけ伝わるかわかりませんが、自分がハマっていたことが少しは伝わるかと思います。

さらっとまた振り返りますが、SMTMは時代に合わせて、様々な目的を持って、韓国シーンに大きな影響を与えてきたと思います。

中でもスターの誕生、OGの再評価、アイドル文化とアングラ文化の融和、海外で活躍するアーティストの本国での知名度向上、プロデューサーの立場向上、メインストリームへの押し上げ、などなど大きな功績を挙げたと感じています。

SMTMにでなくとも、成功しているラッパーは多くいます。ただ、彼らもまたSMTMの隆盛と共にどこかしら影響を受けて、成功への見えないPushが働いているのも事実です。特にYouTubeで、大量の動画を出しまくり、SMTMシーズンはHIPHOP一色のトレンドを作り上げていたのは、非常に大きな助けになったはずです。

自分もこの番組を通して多くのラッパーを知ることができました。それぞれのラッパーを見ていくとさらにそこから奥へ奥へとどんどん沼が広がっているので、ここからもさらに時間がかかりそうです。

最近USと日本のHIPHOPでこう言う感情が出てくることが少なくなっていたので、自分にとってはとても刺激のある時間でした。日本でもいつかこの規模で観れるといいな... とボソッと呟いておきます。

ただもうすぐ10年番組に差し掛かり、飽和していると感じている人も多くいます。大きな変革が必要なタイミングなのか、それとも現行のHIPHOPシーンと共存していくものになるのか、これから全く想像ができないです。

自分がそうだったように、今から参戦しても楽しめると思うので、皆さんも興味があれば是非!ここまで読んでくれた人はおそらく数人かと思いますが、ありがとうございました〜!

written by Yoshi


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