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工藤麻紀子展 花が咲いて存在に気が付くみたいな @平塚市美術館

少し前になりますが、平塚市美術館で行われている「工藤麻紀子展 花が咲いて存在に気が付くみたいな」を見てきました。

これがとても良かった!

行ったのは、オープニングの翌日とアーティストトークの計2回。最初はドライブがてら SHONAN T-SITEなども見つつ車で。2回目は電車で。

週末は車がそこそこ混んでいるので、都内からだと電車も車も時間は同じぐらい。平日だと車のほうが早いと思います。

工藤麻紀子さんの絵を実際に見るのは今回が初めてでした。以前から作家としては知っていて、とても気になっていたので、この展覧会も開催を心待ちにしていました。

それでも実際に見た絵は期待していたよりもずっと素敵で、絵の前からなかなか離れることができず、できればずっとそのまま見ていたくなる、そんな展覧会になっていました。

展覧会の構成としては、基本的に年代順に並べられており、学生時代の作品や、芸術道場(村上隆が主催する現代美術の祭典GEISAIの前進)に展示し、最初に小山登美夫さんが購入した作品などが並べられた部屋から始まります。
今とは少し作風が違うけれど、それでも発色のいい綺麗な色使いや、描かれる対象物の画面全体の中での独特のレイアウトの仕方は、すでにこの時点であらわれています。

次の部屋では、かなり現在に近い作風になっていきます。
絵のサイズもグッと大きくなり、作品の前に立つと周囲の視界がふっと消え、絵と自分が一体になり、世界がまるで絵と自分だけしか存在しないかのような、そういうサイズの絵が並べられています。

もちろん中には小さなサイズの絵もあって、それもまた愛らしく魅力的で、近づいたり離れたりしながら、かなり長い時間それらの絵を眺めていました。

展示はさらにその奥のドローイングのコーナーや、ハンカチを使ったコーナー。さらに本当にギリギリまで描いていたという最新作の青森の絵などが並び、ちょっと不思議な作風の絵で展示は終わります。

ともかく、絵とゆっくり向き合って過ごすことのできる展覧会で、とても良かった。
「良かった」と言うぐらいしかできないほど絵は素人なので(笑)感想にしかなりませんが、ともかくオススメの展覧会です。


とはいえ、これだけだと流石にバカっぽいので(笑)少しだけ補足すると、近年、アートの世界では再び絵画が見直されています。というのも、メディアアートやリレーショナルアートなど、いわゆる絵画や彫刻といったこれまでのメディアにとらわれない新しい作品をつくる作家が注目される機会が、この数十年でとても増えてきたという背景があるのだと思います。ただ、それらも登場した際には新しく思えたものの、増えてきてしまえば、その中でも傾向やある種のスタイルのようなものが生まれてしまう。多分どこかで鑑賞者側も、この流行に飽きてしまった部分があるんじゃないか。少なくとも、ぼくはちょっと食傷気味というか飽きてしまっていました。

そういう視点で改めて絵画を見るととても新鮮だったのです。それも抽象画よりは、ある程度まで具体的な事物や風景を描写したものに惹かれてしまう。この感覚は、時代の共通認識じゃないかなと思います。

例えば、2020年に東京国立近代美術館で行われたピーター・ドイグ展などはまさに絵画だけの展覧会だったし、今年(2022年)国立新美術館で行われた「ダミアン・ハースト 桜」展に至っては、これまで鮫のホルマリン漬やダイアモンドで覆われた髑髏など、さんざん現代アートをやっていた彼がコロナ禍もあってひとりで絵に向き合い、自身の手で桜を描いている。

ふたつの展覧会は、作家も展示そのものもかなり方向性が違うものだけれど、絵画が再び注目されているからこそ日本で行われた展覧会だったのではないかと思います(ピーター・ドイグの展覧会が日本で行われたのは今回が初めて)。

回り道が長くなりましたが、工藤麻紀子展もまさに絵画を存分に楽しめる展覧会です。その絵も日常と地続きの風景を描いたものが多く、アーティストトークで聞いた話でも、その時々に住んでいた周囲の風景や、子どもの頃に住んでいた青森の風景がベースになっていることが多いとのことでした。

そして、日常の中でふとした瞬間にハッと輝いて見える、そんな風景を描いていると工藤さんは話していました。

この話を聞いて思い浮かぶのは、展示会場の中央付近にあるとても巨大な「空気に生まれ変わる」という絵です。

まさに横浜あたりにありそうな(当時実際に住んでいたそうです)、坂道から見える風景を描いた作品で、斜面にへばりつくように建てられた大小さまざまな建物が夕陽に照らされてとてもとても綺麗に輝いている。そして、それらの建物の内外では、人や動物や植物が暮らしている。その優しく美しい風景が絵の中にある。この絵を見るだけでも、展覧会に行く価値があると思います。

あと、工藤さんの作品には基本的にそれぞれタイトルがつけられていて、それもとても愛おしくなる名前なので(「あたためていた計画」とか最高)、一度はタイトルを見ずに絵画だけを楽しんだあとは、ぜひ会場で配布している作品リストを片手にタイトルと照らし合わせて見ることをオススメします。

というわけで、9月11日までと会期も残すところ1ヶ月。

この夏は、平塚美術館の
「工藤麻紀子展 花が咲いて存在に気が付くみたいな
展へぜひ!

IMG_8132のコピー


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