23/24 ラ・リーガ開幕

お金がない。他国と比べると、顕著に。それでも熱狂のラ・リーガは今年も開幕した。移籍市場の動きも激しくなっているなか、補強が順調なクラブにも、まだまだ選手が足りないクラブにも、ビッグクラブの動きに左右される中小クラブにも、第1節は平等にやってくる。

風格 - アトレティック・クルブ vs レアル・マドリー

アトレティック・クルブ 0 - 2 レアル・マドリー

早々と移籍市場でのタスクを完了したかにみえた今夏のマドリーだが、7月後半からはエンバペ騒動に時間を使うことになった。そんな慌ただしい開幕直前の時期を過ごすマドリーに、さらなる激震が走る。クルトワの前十字靭帯断裂。事実上の今季絶望。

ベンゼマがゴールを決め、クルトワがゴールを守る。21-22シーズンのチャンピオンズリーグを、ただそれだけのスローガンで優勝まで走り抜けたチームは、大幅な刷新を要求されている。さしあたっての開幕戦、アトレティックが待ち受けるサン・マメスでは、ルニンを信頼してゴールマウスを任せるほかなかった。

サン・マメスの声援を受けたアトレティックの果敢なプレスに手を焼くことが予想される中、ロドリゴとベリンガムの早い時間帯の得点によって、想像よりも楽にゲームを進めることができた。現地でベリンガムシステムと呼ばれているダイヤモンドの 4-4-2 は、ニコとムニアインの両ウイングを無力化し、エルネスト・バルベルデは後半頭から前線を3枚交代することを選んだ。

ベリンガムとヴィニシウス、ロドリゴのトリデンテは、時間が経つにつれて感覚の共有を強めたようだ。この3枚で得点を量産する未来が予感された。20歳のベリンガムには、すでに風格が漂っている。それは技術と運動量に加え、ボールに対する圧倒的な執着心が生み出す光彩だろう。

前十字靭帯を断裂したミリトンと代わったリュディガーを含め、交代で入った選手は全員30歳オーバーのベテラン勢。スタメンが走力で相手を上回って消耗させたあとに、ベテランがピッチを完全に沈める。今季のマドリーの黄金パターンとなるかもしれない。

それはさておき、マドリディスタは絶句している。クルトワに続いてミリトンまでも今季絶望に近い大怪我とは。前途多難なシーズン開幕となった。

乱戦 - ヘタフェ vs バルセロナ

ヘタフェ 0 - 0 バルセロナ

昨シーズンの終盤、降格圏に沈むヘタフェの監督に復帰し、クラブを残留に導いたホセ・ボルダラスの2年目は、前年王者をホームに迎えた状態でスタートした。バルセロナは、コリセウム・アルフォンソ・ペレスを苦手としている。ヘタフェとのアウェーゲームで、直近3試合で2分1敗。今回もまた、苦い記憶を更新することになった。

ボルダラス率いる武闘派集団を前にして、バルセロナはリズムを掴めずにいた。中央を固く閉ざし、引いて守る相手に対しては、強烈な個性を持つウイングによる質的優位性の発揮が有効だ。この日のスタメンでは、ハフィーニャの裏抜けやドリブルでの仕掛けこそが頼みの綱だったのだが、度重なる挑発に負けたハフィーニャ自身の愚行により、その活路も潰えた。

後半頭から、チャビはアブデを投入した。ハフィーニャが右で担っていたタスクを、左で担当させようという意図だろう。退場者が出ている状態でリスクを取る選択ではあったものの、それを成立させたのは中盤の選手たちの技術と運動量、とくにフレンキー・デ・ヨングの活動量だろう。基本はCBとして最終ラインに入り、ビルドアップの局面では中盤に、さらに得意のドリブルで長距離を駆け上がって前線まで顔を出す。今のバルサで最も代えの効かない選手の一人だ。

しまいにはチャビまでもが退場となり、ゲームは荒れに荒れた。そんな中でも見るべきところがあったのは、最終的にピッチに立っていたバルサの若手選手たちの姿だ。最後に2列目を構成していたのは、アブデ、アンス・ファティ、ガビ、ラミン・ヤマル。デンベレの電撃移籍は、若手にとってのチャンスでもある。レヴァンドフスキの後ろにこの4人が並ぶ異常事態を、今シーズンは何度か目にする機会があるかもしれない。

盤石 - アトレティコ・デ・マドリー vs グラナダ

アトレティコ・デ・マドリー 3 - 1 グラナダ

昨シーズンは11月に優勝戦線から早々と離脱し、CLでもグループリーグ最下位に終わったアトレティコ。しかしW杯明け、後半戦の躍動はまるで別のチームをみているかのようだった。今夏はソユンジュ、アスピリクエタ、ハビ・ガランといったDF陣が加入。盤石の補強を進め、3年ぶりの優勝を目指す。

コケが6分のプレーで負傷し、先行きは怪しかった。グラナダは 3-4-1-2 で 3CBとドブレピボーテを置いた。2トップのオモロディオンとウズニはアトレティコの3バックのボール出しを制限したが、アスピリクエタのドリブルでの持ち出しによる敵中突破により、デ・ポールやグリーズマンがフリーになるシーンが増え、徐々にチャンスが生まれ始める。

前半終了間際にモラタ、追いつかれた数分後にメンフィス・デパイ。いずれもここで取れなければ嫌な流れが加速しそうなシーンだった。決めるべき人が決めるとき、アトレティコ・デ・マドリーは強い。13-14シーズンのジエゴ・コスタ、20-21シーズンのルイス・スアレスは、ともに抜群の決定力を発揮した。優勝したシーズンは前半戦だけで勝ち点50を積み上げている。ラストピースは常にストライカーだ。

新加入のアスピリクエタは先発し、ソユンジュは後半途中から出場した。ソユンジュの投入により、マルコス・ジョレンテがインテリオールへ、アスピリクエタはウイングバックへ、サヴィッチが右のCBへとスライドした。守備でのポリバレント性が高い選手が多く、コケが負傷後退したことを忘れてしまうほどだ。攻守に不安要素が少ないアトレティコは、文句なしの優勝候補である。

上質 - レアル・ソシエダ vs ジローナ

レアル・ソシエダ 1 - 1 ジローナ

これぞラ・リーガだ。どちらもボールを保持してビルドアップから作り込んでいくスペイン型のチーム。開幕から素敵なカードが組まれたものだ。自分たちのスタイルを貫きスペクタクルなサッカーを展開する両チームの対戦は、期待通りの光景を見せてくれた。

昨シーズンを昇格組として挑んだジローナは、10位フィニッシュのキーマンであったロメウを引き抜かれ、さらにカステージャーノスやリケルメといった前線の主力も失った。それでもバイエルンからブリントを獲得し、さらにドニプロからウクライナ代表のドフビクを獲得。ポジショナルプレーを落とし込んだミチェル監督により、さらなる飛躍を目指す一年となる。

ダビド・シルバが電撃引退し、イジャラメンディやゲバラも去ったラ・レアルは、まだまだ移籍市場でのタスクが多いようだ。昨季怪我に泣いたサディクにフル稼働を求めたいが、プレシーズンで負傷した影響で開幕はベンチスタート。先行きの怪しい中での開幕となった。

前半5分、我らがTAKEのゴールで、レアレ・アレーナのボルテージは最高潮に達した。前線からのプレスがハマり、何度もチャンスを作った。ラ・レアルのプランを前に、ジローナは得意のプレス回避を発揮することができなかった。

後半には、今季のジローナの中心となりそうなウクライナ代表ホットラインが火を吹いた。ツィガンコフのクロスにファーで合わせたのは、新加入のCFドフビク。その起点となったのは、ロメウと入れ替わりでバルサから借り受けたパブロ・トーレだった。バルサで同世代の活躍をベンチから見守りつづけ、出場機会を得られずに燻っていた男の、ジローナでの挑戦の1年が幕を開けた。

初陣 - アルメリア vs ラージョ

アルメリア 0 - 2 ラージョ

新監督同士の対戦となった。昨季バルサを破るなどのインパクトを残して残留を果たしたアルメリアは、ルビの後任にビセンテ・モレノを招聘。イラオラがボーンマスに去ったラージョは、フランシスコ・ロドリゲスを後任に据えた。ラ・リーガの23/24シーズン最初のゲームでもあった初陣対決は、イラオラの残像を振り払おうとするラージョに軍配があがった。

前半の2つのPKをものにしたラージョは、2列目を構成するイシ、トレホ、アルバロ・ガルシアを中心にハイプレスを敢行し、敵陣で長くプレーすることに成功した。タイトな守備を繰り広げ、CBアリダネが多くの危険な場面をクリアし、瀬戸際ではGKディミトリエフスキが好セーブを連発した。

アルメリアとしては、いずれも不運なPK献上だった。ラマザニが気を吐いてチャンスを作り、全体で相手の倍近くのシュートを放ったものの、ルイス・スアレスをはじめ前線が決定力を欠いた。アキエメはPK献上のミスがあったものの、ドリブル突破からのチャンスメークには目を見張るものがあった。ババは中盤の守備を掌握し、ラージョにPK以外のチャンスを許さなかった。

復権 - セビージャ vs バレンシア

セビージャ 1 - 2 バレンシア

この2クラブが沈んでいるようでは、ラ・リーガは物足りない。昨シーズン途中からのルベン・バラハ体制でなんとか降格を免れたバレンシアは、今夏の補強も順調とは言い難い。その部分だけをみれば、メンディリバル体制2年目となるセビージャにも同じことが言えるのかもしれない。

試合を決めたのは、ラ・リーガ名物のレッドカードだった。セビージャのCBバデの不運な退場。その代わりに投入されたガットーニのミスからチャンスを作り、ハビ・ゲラが決定力を見せつけた。

バレンシアで特に目を引いたのは、両翼を構成するカンテラーノだ。ディエゴ・ロペスは至る所に顔を出し、フラン・ペレスはキレのあるドリブルで敵陣を切り裂いた。クラブが苦しい時には、優秀な育成組織の存在は涙が出るほどありがたい。若き両翼によって、クラブは低迷期を脱することになるのだろうか。

彷彿 - ラス・パルマス vs マジョルカ

ラス・パルマス 1 - 1 マジョルカ

カナリア諸島とバレアレス諸島、島同士の激突だ。ラス・パルマスを率いるのは、ラ・マシア育ちの指揮官、ガルシア・ピミエンタ。バルセロナBでも3シーズン指揮した経験があり、ラス・パルマスを5年ぶりのプリメーラ復帰に導いた。夏の移籍市場でノリに乗っているマジョルカは、エスパニョールの中心的存在のダルデルをはじめ、ラリン、サムエル・コスタなどの補強に成功。アギーレの手腕により、選手の能力は最大限に引き出されるだろう。

前半からラス・パルマスがボールを支配する時間が続いた。バルセロナ流の 4-3-3 で、エースのジョナタン・ヴィエラがファルソ・ヌエべを担う。中盤を含めた4〜5枚が流れるようにパスを出し入れする姿は、バルセロナのティキ・タカを彷彿とさせた。昇格組相手にボールを捨てて 5-4-1 で守るマジョルカとは対極的な選択だ。前半の支配率は、ラス・パルマスが 76:24 で上回った。

後半に入ると、アギーレが動く。ダルデルを投入し、システムを 4-2-3-1 に変更。守備では相手ピボーテへの圧力を強めることに成功し、攻撃では前線の活性化をもたらした。試合を通して70%近い保持率を記録したラス・パルマスはファイナルサードの精度を欠き、シュートは5本のみ。対するマジョルカは、30%の保持率ながらも倍以上の12本のシュートを放った。

帰還 - セルタ vs オサスナ

セルタ 0 - 2 オサスナ

ラファエル・ベニテスがラ・リーガに帰ってきた。15-16シーズンにレアル・マドリーを解任されて以来、約8年ぶりだ。開幕節の相手は、アラサテ監督が6年目の長期政権を築いているオサスナ。年数からも察しうるとおり、この試合では戦術の浸透度の差がもろに表れることとなった。

ナポリへの移籍がまもなく決まるとされているガブリ・ベイガはベンチスタート。ベニテスのチームには安定したドブレ・ピボーテが欠かせないところだが、この試合では24歳のベルトランと19歳のソテロがコンビを組んだ。守備のバランスを重視するベニテスの戦術では、前からボールを追いかけ回すシーンは少なく、スタティックで後ろが重たい印象がある。相手のゴール迫る迫力は乏しく、枠内シュートは1本のみ。試合後にベニテスが語っているように、細部の理解度を深めていくことで結果がついてくるだろう。

個を超えたチームの成熟度に満足しているアラサテのオサスナには、6年目の安定感がある。モンカヨラとオロスを中心としたパスワークでミドルサードを突破した後は、SBの突破力が発動される。この日はセルタの左サイドをルベン・ペニャが壊滅させた。アバウトなクロスでも競り勝てるブディミルの存在感、ボックスへの侵入で怖さをみせ、セカンドボールに殺到するルベン・ガルシアとモイ・ゴメス。堅固で堅実なオサスナは今年も健在だ。

再起 - ビジャレアル vs ベティス

ビジャレアル 1 - 2 ベティス

昨シーズンの5位と6位。今季は揃ってELに出場し、リーグ戦では4位を直接争う両クラブが、開幕からいきなり激突した。セティエン監督率いるビジャレアルは、パウ・トーレスやチュクウェゼ、ニコラス・ジャクソン、ロ・チェルソといった主力が去り、若い世代の台頭に期待したいところ。ベティスを指揮するペジェグリーニ監督は、早速の6ポイントマッチだと意気込んでいる。ボルハ・イグレシアスがサラ賞を狙い、新たにスカッドに加わったイスコがそれをアシストする。

序盤からベティスのプレスが炸裂し、速い攻撃からいくつかのチャンスを生み出した。ビジャレアルの新CBコンビに対して果敢にプレッシャーをかけ、ルイス・エンリケとアヨセは鋭く敵陣に切り込んだ。プレスと攻撃の連続性を担保していたのは、この夏にカムバックを果たしたイスコの存在だ。先制点はこの3人から生まれた。恩師によって創造的なポジションを託されたイスコは、足に吸い付くようなドリブルと献身的な守備でチームを導き、まだまだ輝きを放つことができるということを証明してみせた。

後半は落ち着きを取り戻したビジャレアルがゲームを支配した。ジェラール・モレノは本領を発揮し、組み立てフェーズにも顔を出すようになった。バエナはセットプレーからチャンスを作り出し、クエンカのゴールをアシストした。

試合終盤に劇的な勝ち越しを遂げたのはアウェーチームだった。ペジェグリーニはフレッシュな前線の選手を躊躇なく投入し、勝ち点3をものにした。イスコの再起は完璧なスタートを切った。

早撃 - カディス vs アラベス

カディス 1 - 0 アラベス

シーズン開幕節ながら、現地メディアではこのカードをはやくも降格争いの直接対決だと位置付けられていた。シーズンが終わる頃、この試合の結果によって降格が決まるということも考えられなくもない。

カディスのセルヒオ・ゴンサレス監督は、2年連続でクラブを残留に導いたことで英雄となった。2025年まで契約を延長し、3シーズン目に挑む。アラベスを指揮するルイス・ガルシア・プラサ監督は、降格した21-22シーズンの終盤、すでに降格が決まった状態のクラブにやってきた。プレーオフを勝ち抜き、1年でプリメーラに復帰できたのは、過去2度の昇格経験を持つ指揮官の昇格請負人としての手腕によるところが大きい。

セットプレーからエメテリオのゴールにより、開始早々のリードを得たカディスは、試合を通して守備に奮闘した。昨季、第6節まで勝利どころかゴールも勝利も遠かったカディスが、今季はわずか7分でその壁を破った。セットプレーからの得点も、昨季はほとんど見られなかった。今季は最初のチャンスでそれをものにした。着実な改善が実を結び、幸先の良いスタートを切った。


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