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パリ五輪に挑むスペイン代表の話

なぜだかわからないが、スペイン国内では注目度が低そうだ。

パリ五輪の開幕が目前に迫っているなか、スペインのスポーツ新聞は女子サッカーやバスケの代表に誌面の多くを割いている。U-23 男子サッカー代表については、ほんの小さな記事でしか扱わない。下手をすれば、同時期に開催されている U-19 の EURO のほうが大きな話題になっているようにも見える。

しかしラ・リーガファンとしては、目を輝かせずにはいられない。若い選手が次々と台頭してくるスペインである。ラ・ロヒータ(スペイン代表のアンダーカテゴリ)でプレーする選手たちの中には、ラ・リーガで活躍している選手も多い。

この五輪でさらに名を上げた選手は、近い将来ビッグクラブで活躍するだろう。そして未来のラ・ロハに名を連ねるだろう。待ち遠しくて仕方がない。収穫前の稲の実りの、力強く美しい姿を堪能できる。そんな魅力が、ラ・ロヒータには詰まっている。

監督、サンティ・デニア

U-21スペイン代表監督であり、パリ五輪男子サッカー代表監督。選手時代はアトレティコ・マドリードでディフェンダーとして9シーズンプレーし、キャプテンを務めたこともある。引退後はアトレティコでアシスタントコーチに就任した。

2010年に南アフリカでイケル・カシージャスがトロフィーを掲げた数週間後に、サンティ・デニアは U-16 スペイン代表監督に就任した。そこから彼の代表トレーナーとしてのキャリアが始まった。東京五輪ではルイス・デ・ラフエンテ(現スペイン代表監督)のアシスタントを務め、その先輩のあとを追うように昇格を続けている。2022年12月からは U-21 代表監督に就任し、U-21 EURO 2023 で準優勝を果たした。

18+4人

スペイン代表の男子サッカーには、U-23 というカテゴリはない。年齢で括るカテゴリの最高齢は21歳である。サンティ・デニア監督が率いるこの五輪代表は、U-21 EURO 2023 の準優勝メンバーと、U-21 EURO 2025 予選を現時点で戦い続けているメンバーをミックスしたチームとなっている。

※所属は2024/07/22時点

GK
1. アルナウ・テナス(PSG)
13. ジョアン・ガルシア(エスパニョール)

DF
2. マルク・プビル(アルメリア)
3. フアン・ミランダ(ボローニャ)【OA】
4. エリック・ガルシア(バルセロナ)
5. パウ・クバルシ(バルセロナ)
12. ジョン・パチェコ(レアル・ソシエダ)
15. ミゲル・グティエレス(ジローナ)
17. セルヒオ・ゴメス(レアル・ソシエダ)【OA】

MF
6. パブロ・バリオス(アトレティコ・マドリード)
8. ベニャト・トゥリエンテス(レアル・ソシエダ)
10. アレックス・バエナ(ビジャレアル)
11. フェルミン・ロペス(バルセロナ)
14. アイマール・オロス(オサスナ)
16. アドリアン・ベルナベ(パルマ)

FW
7. ディエゴ・ロペス(バレンシア)
9. アベル・ルイス(ジローナ)【OA】
18. サム・オモロディオン(アトレティコ・マドリード)

予備登録
GK アレハンドロ・イトゥルベ(アトレティコ・マドリード)
DF クリスティアン・モスケラ(バレンシア)
DF フアンル(セビージャ)
FW セルヒオ・カメージョ(ラージョ)

引用:https://x.com/SEFutbol/status/1811053412189888720

U-21 EURO 2023 で結果を残し、パリ五輪への出場権を獲得したのと同じメンバーを頼りにしている。そのチームからは、GKのアルナウ・テナス、DFのパチェコとフアン・ミランダ、MFのアレックス・バエナ、アドリアン・ベルナベ、アイマール・オロス、FWのカメージョ、アベル・ルイス、セルヒオ・ゴメスが招集されている。

本登録は18人、予備登録を含めて22人。このなかでGKを3人確保しなければならず、サンティ・デニアは頭を悩ませた。選考の基準となったのは、ポリバレント性だと語る。大会には、もしも…ということが無数にある。そのすべてに 18 + 4人のメンバーで立ち向かわなければならない。複数のポジションに適応できるメンバーが優先的に選ばれた。

このメンバーでの最初のテストマッチとなるアメリカ戦は、完全非公開のなかでの実験となった。メディアも報道していない。そのためサンティ・デニアがどのような起用法を検討しているのか、さっぱりわからない。だから想像するしかない。開幕まであとわずかだ。想像を楽しんでみよう。

中盤

この1年で開催されている U-21 EURO 2025 予選におけるスタメンの変遷を見るかぎり、U-21 代表の中盤はフェルミン・ロペス、パブロ・バリオス、ベニャト・トゥリエンテスがレギュラーだ。今回の五輪代表では、この3枚にU-21 EURO 2023 のレギュラーだったアレックス・バエナを加えた構成が期待できる。

フェルミン・ロペスはこの1年で躍進を遂げた選手だ。彼は U-21 代表としてデビューする2023年10月まで、アンダー世代を含む代表に招集された経験はなかった。エル・クラシコでセンセーションを巻き起こし、シャビ・バルサの申し子と呼ばれるまでになったフェルミンは、A代表で欧州王者を経験した。ラ・マシア育ちならではのボールスキルに加え、前線での感覚にも優れている。守備の強度もあり、ハイプレスもこなす。

パブロ・バリオスはアトレティコの救世主であり、希望である。22/23 シーズンにトップデビューを果たして以来、アトレティたちからそう呼ばれている。質の高いパスやゲームメイク力に加え、シメオネイズムの注入されたメンタル、ボール奪取力、縦への意識、リーダーシップと献身性。大胆さと繊細さを兼ね備えたミッドフィルダーだ。23/24 シーズンにはアンカーにも挑戦し、プレーの幅を広げた。

5月の国立競技場でベニャト・トゥリエンテスを生で観られたことが、今夏の私の自慢のひとつである。レアル・ソシエダの中盤でスタメンに食い込むことはさすがに難しいものの、出場すれば爪痕を残す。中盤から攻撃のリズムを作り、細かいボールタッチでテンポよくボールを捌いていく。ロングパス精度もあれば、ドリブルでのダイナミックな持ち運びもできる。体も強く、守備の強度も十分だ。

この盤石の3枚に、アレックス・バエナが加わる。U-21 EURO 2023 ではドブレピボーテの一角として、準優勝メンバーに名を連ねた。今夏の EURO 2024 にも招集され、フェルミンとともに欧州王者を経験している。ライン間での巧みなプレーとスルーパスにより、アシストを量産する。高精度なミドルシュートも兼ね備えている。守備側にとってこれほど嫌な選手はいない。

オーバーエイジ

ベテランではない。フアン・ミランダ、アベル・ルイス、セルヒオ・ゴメスの3人は、いずれも2000年生まれである。そして3人とも、ラ・マシア育ちである。このトリオは2017年以降、サンティ・デニアが代表チームのユースで指導したすべての大会に帯同している。U-17 EURO 優勝、 U-19 EURO 優勝、U-17 W杯準優勝、そして U-21 EURO 2023 でも準優勝。トーナメントの経験豊富な、2000年世代を象徴する選手たちだ。

ベティスの攻撃的な左SBとして名を上げていたフアン・ミランダは、今夏ボローニャへの移籍が決まった。疾走感のあるオーバーラップと、左足から放たれる高精度なクロスに、強烈なミドルシュートを兼ね備えている。アンダルシアの風を感じるアタッキングな雰囲気に、ラ・マシアで鍛えたボールスキルが混ぜあわされ、攻撃で目を見張るような違いを見せてくれる。各世代で代表に名を連ね、いくつかのタイトルにも貢献しているエリートだ。

ブラガでの4シーズンを終え、アベル・ルイスはカタルーニャに帰ってきた。そのクラブはバルセロナではなく、昨季の躍進が記憶に新しいジローナだ。今季のジローナは注目のチャレンジャーとしてCLに挑むため、重要な戦力として迎え入れられた。ダビド・ビジャやルイス・スアレスのような選手を目指す彼は、ダイレクトで合わせるフィニッシュスキルと、強いハングリー精神を持つ。ラインの背後やサイドに流れてのプレーも得意な万能型FWだ。アンダー世代の代表でゴールを量産しており、U-21 EURO 2023 では3得点で得点王に輝いた。

セルヒオ・ゴメスはDF登録であるが、もとは前線の選手だ。U-21 EURO 2023 では左のウイングとしてプレーし、アベル・ルイスと並んで3得点で得点王となった。パスやドリブル突破などの攻撃スキルに秀でており、プレースキッカーとしても頼りになる。左サイドならどの高さでもプレーできるうえに、右サイドでの起用にも応える。こうしたポリバレント性も魅力のひとつだ。ウエスカで頭角を表し、21/22 シーズンにはアンデルレヒトで49試合7ゴール15アシストを記録した。マンチェスター・シティでは難しい時期を過ごしたが、この夏には活躍の場を求めてラ・レアルに移籍した。

クバルシ

多くのメディアで取り上げられているこの17歳の少年について、少し触れておこう。2000 年生まれより若ければ出場できるこの大会で、彼は 2007 年生まれだ。

ルイス・デ・ラ・フエンテは、彼をドイツには連れて行かないという試練を与えた。EURO 2024 に出場せずとも、彼は今後のキャリアで幾度となくEURO に出場するだろう。しかしオリンピックに出場する機会は、二度と訪れないかもしれない。急上昇のディフェンダーがアンダー世代でのトーナメントを経験することの価値を、デ・ラ・フエンテは強く認めているということだろう。この試練にはそうした意図があるように思う。

クバルシをスタメンで起用する場合、相方になるのはエリック・ガルシアだろう。パチェコを含め、招集されたCBはみな足元の技術が高く、ビルドアップ能力に秀でている。エリック・ガルシアは守備の強度に不安を残すが、ゲームメイク力で評価されてきた選手だ。ビルドアップのクオリティで比較したとき、パチェコをベンチに座らせざるを得ない。

エリック・ガルシアには国際大会での経験がある。EURO 2020、東京五輪、カタールW杯でトーナメントを経験している。彼はサンティ・デニアの U-21 代表には呼ばれていないが、それはルイス・エンリケ時代のA代表ですでにメンバーとして定着していたからだ。そこに 23/24 シーズンのジローナでの活躍を加味することができる。才能あふれる若きCBの相方として、最もマッチする存在だ。

ジョーカー、サム

スペインらしからぬ怪物FWがいる。193cmのCF、サム・オモロディオン。

22/23 シーズンにグラナダBでリーグ戦33試合に出場し、18ゴールと爆発した。グラナダBは当時セグンダ RFEF(実質4部リーグ)だったが、その活躍が認められて2023年4月にトップチームデビューを果たす。グラナダはそのシーズンにプリメーラ昇格を決め、23/24 シーズンの開幕戦スタメンに抜擢されると、いきなりアトレティコ・マドリード相手にゴールを決めた。その直後にアトレティコが彼を引き抜き、レンタル先のアラベスで8ゴールの活躍を見せた。

両親がナイジェリア人である20歳の彼は、とにかく身体能力が抜群に秀でている。最大の武器であるフィジカルに加え、スピードもある。23/24 シーズンのアラベスは、とにかくよく走る中盤と前線のパワーで気持ちよく勝利を重ねるチームであった。その前線のパワーの一翼を担ったのが、この期待のジョーカーだ。

U-21 代表では直近の EURO 2025 予選に出場し、4試合2ゴール。ゴールはいずれも途中出場の試合であげたものであり、五輪でもジョーカーとしての起用が予想される。試合に変化をもたらす重要なピースだ。サンティ・デニアが彼に準備を命じるとき、ピッチに戦慄が走る。

栄光の直後

EURO で優勝した直後のオリンピックといえば、12年前を思い出す。EURO 2012 で華々しい栄光を掴んだラ・ロハから、ファン・マタ、ハビ・マルティネス、ジョルディ・アルバの3人がロンドン五輪へ向かった。結果はグループ最下位での敗退。日本代表に初戦で敗れたのが痛手となった。

ロンドン五輪の代表も、期待の若手が揃っていた。あのときの光景がフラッシュバックしないでもない。しかしこの年代の大会は、勝利がすべてというわけでもないだろう。何かを掴んで帰ってほしい。できれば金メダルを。そしてまた、ラ・リーガで溌剌と輝く姿をみせておくれ。


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