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獄中記⑤ 鑑別の先生と再逮捕

東京西鑑別所へ新幹線で移動してきた私は、一通りの入所手続きを受けていた。

クセ者の医者

健康診断へ行くと小太りの医師と中年看護師が座っていた。私は大の病院嫌いで、今でも病院へ行くと注射の痛みが腕を襲い、虫歯を削る痛みが頭を襲う。医師は聴診器やのどのチェックを終えると、「体のキズは?」と聞いてきた。私は少し前に暴行を受け、その時のキリ傷があると言って見せると、医師は事細かく経緯を聞いてきた。

私はバーの経営をしていたことや、若干(笑)高い料金を徴収してまとまった売り上げを持っているところを襲われたと、かいつまんで話をした。  するとものすごい怖い顔で「で、それ、税金払ってんの??」と聞いてきた。そこか~い・・・って感じだったので、「まあ個人商店ですから、払っている人の方が少ないでしょう」と笑って答えると、「脱税じゃん、それ。うわ!脱税」と指摘してきた。                    脱税とは違う気がしたが、言い争っても仕方ないので笑って流すと、同行していた法務教官も僕と目があって苦笑いしていた。           医務室から出ると、「変な人だろ?まあ申し訳ないけど、うちはあの人だから、それは覚えといてよ」と再び苦笑いしていた。

大量の図書、美味しすぎるカレー

続いて図書室で本を借りた。小説は5冊まで、勉強の本は別で5冊とのことだったので、すぐ目のついた「FP3級の教科書」をとった。       小説については「検察側の罪人」や東野圭吾、重松清の本を借りた。 本は10畳くらいの部屋に本棚が置いてあり、ビッシリ詰まっているので退屈しなさそうだ。

部屋へ戻ると女の人が来て「こんにちは。今日恥ずかしかったかな?疲れたよね。明日から話聞くから、ゆっくりして」 と言ってくれた。 「優しそうで心理士っぽいオバサン」と私は心の中で唱えてインプットした。   (ちなみに私は一度インプットした人は忘れない)           食事はカレーだった。神戸も美味しかったが、ここは比べられるレベルではなかった。外で1000円払って買うレベルだ。 聞くところによると、隣が少年院でそこから持ってきているという。おそらく食堂で作っているのだろう。ご飯は麦ごはんだけど、私はそちらの方が好きなので、はっきり言って最高だった。

技官との面談

二日目、初日に来た「優しそうで心理士っぽいオバサン」が面接に来た。この先生は技官と言って心理学系の専門職員だ。面接室は4畳半くらいで大きなテーブルが向い合せでイスが2つあり、間には天井からビニール降ろされていた。

初日は事務的な話、事件のこと家族のことを話し、最後に「木」の絵を描いた。普通の木の絵を描いた後に、「夢の木」の絵を描く。心理テストらしい。「どういう結果か知りたかったら、聞いてね」と言われたが、何だか自分の心の中を覗かれた気がして恥ずかしくて聞けなかった。

先生は週に2,3回来た。通常は週に1回程度である。昔、一度入ったことがあるが、その時は週に1回くらいだった。              なぜ犯罪に走ったのか、今後どうして行きたいのか、家族、友人、恋愛のことまで幅広く話をしたが、先生は常に聞いているだけで、何か答えを求めると、「自分で分かっているから私に話しているんでしょ?」と言ってきた。

私は当時先が見えない中、やりたいことも外への希望も失いかけていた。いつか出られるその日まで、どう時間をつぶそうか・・・なんてことしか考えていなかった。                           先生に一度、「もう何もかも投げ出したんです。自分で手に入れたものも自ら投げ出したんです。これでいいんです。諦めていますから」 と言ったことがある。先生は 「寂しいことだよ。自分でそこら中のシャッターを閉めて、他人が入れないようにしている。”諦めた”って言葉とは裏腹に”諦めたくない!!”って心がもがいてるよ。」 と言っていた。          先生曰く、私は”小さな”自分を守るために、絶対に不必要なくらいのガードを張っているらしい。例えば話をするときも、相手から反論が返ってこないように、あらかじめ反論を封じるためのワードをちりばめているとか。

最後にあった日はこんな話をした。「彼女とか好きな人はいるの?」 「まあいますよ。手紙は出していないけど。」「え~なんで?」 「しばらく出られないでしょ。だからもうきっぱりいかないといけないなって思っているですけど、何というか、後回しにしています。」 「お~いいね。そのままずっと悩み続けなさいよ。それがいいわ。」(先生大笑い)     「あ、そうだ。作文ちゃんと書いてくれてる?」 「ちゃんと書いてますよ。先回りしてるのでもうすぐ終わります。」 「早めに書いといてね」

作文というのは毎日の課題作文のことで、1日2つずつくらい 「なぜ事件を起こしたのか。」 「家族に対してどう思うか。」などを書いていく。 少年審判で参考にされるのだ。 私はやらなければいけないことを残したくないタイプなので、1日4つくらいのペースで先回りしていた。残っていたのは自由課題、つまり何でも書いていいページだけだった。

大量の読書をこなした日々

私は毎日朝起きるとすぐにやらなくてはいけない課題を片付け、食事、トイレ、風呂、面接、面会以外の時間を全て小説に費やしていた。      1日に3冊読む日もあった。東野圭吾の小説は読みやすく、心穏やかになる。警察や検察について書いた小説は自分の境遇と重ね合わせ、色々と感じることも多かった。濱嘉之さんの小説は「ハニートラップ」の黒田シリーズや青山シリーズも含め、すべて読んでしまった。(濱氏は元警視庁公安部の警察OBである)

私が読んで最もグッと来たのは、重松清の「とんび」。詳細はおいておくとして、”家族”の物語だ。私は産みの親、家族を大切にしてきていないという負い目があるので、家族のストーリーは心が苦しくなる。はっきりいって苦手だ。「とんび」も例外ではなく、何度も泣きそうになり、読むのに時間がかかった。 ちなみにホリエモンこと堀江貴文さんも獄の中で「トンビ」を読んで泣いてしまったと言っていた。読んでみたいひとはぜひ。

つづく


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