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刑務所に来て1か月。刑務所といじめについて思ったこと

私は8月に有罪の実刑判決が確定し、懲役受刑者となった。約か月間を拘置所の単独房(独居)で洗濯ばさみ作りの作業をしながら過ごした後、行く先の刑務所を決めるために大阪刑務所へ一時的に来ている。

関西では初犯の受刑者は基本的に大阪刑務所(大刑)か京都刑務所(京刑)へ集められる。
そこで「分類」という期間を経て、近隣の加古川刑務所や播磨社会復帰促進センターなどに移送され、やっと一人前のチョーエキ(受刑者)となる。

私は現在22歳であるが、日本の刑事収容施設は26歳未満の受刑者を主に少年刑務所へ送り、一般の受刑者とは隔離して更生させるように取り組んでいる。(という建前になっている)

そこで一人一人の若手チョーエキの適性を見極めるため、「分類」には通常の受刑者より長い時間をかけている。
一般のチョーエキは大刑に来ると、2~4週間、紙折などの作業をしつつ、時々分類担当の職員と面接して、行き先が決まる。

この間は問題を起こしたり、特別希望をしない限り集団部屋(雑居)だ。

この部屋割りはランダムだが、初犯と大刑自体で受刑予定の累犯(再犯)は厳格に分けられている。
私もここで4週を過ごしたが、累犯の人と接触したのは、運動の時1回だけだった。

今日はこの雑居生活で私が見た、チョーエキの人間関係のいびつさについて論考を書く。

刑務所では性犯罪者がいじめられる説

世間には刑務所はいじめが酷いらしいとか、男同士でイチモツをくわえあうらしい・・・といった様々な説が流布されている。
後者に関しては完全に俗説であり、同性愛てきなことは基本的に起こらない。

ただ、いじめは存在する。

私の感覚では4.5人集まれば、1人いじめられる人が出て来る。
その中でも最もいじめられやすいのは、性犯罪者と高齢者だ。

ここでは性犯罪のケースについて、なぜ彼らがいじめられるのかを考えてみたいと思う。

世間の皆さんにしてみれば、刑務所はヤクザ・半グレ・ヤンキーの集まりで、性犯罪者はその手のタイプからすると異質な存在だからいじめられる、という考え方が一番わかりやすいだろう。

もちろん私もその考え方を否定しない。
しかしこれは本質を見誤っているとも思う。
個人情報に徹底的に注意して1つのエピソードを紹介する。

空気の読めない奴を排除して自身の身を守る。

Aさんは性犯罪で受刑中だ。刑期は結構長い。
チョーエキの間では6年を超えると”○○さんはロングやな~”と言われることが多い。(法務省の指標では現在、10年以上がL・ロング扱いとなっている)
Aさんはチョーエキの言うところのロングだが、法務省の指標上はロングではない程度の刑期だ。

にもかかわらず、彼は刑務所がどんなところか、何一つ情報収集をしていない。
受刑者はカネをもらえると思っているので、全財産を拘置所で使ってしまっている。

私は変わった人が来たものだ、と軽く流していたが、Aさんは爆弾だった。

部屋に入ってきて2日目の夜、突然Aさんが刑務所での自慰行為について、私や他のチョーエキに尋ねてきた。

刑務所では「わいせつな行為」は禁止されている。
しかし実際にはトイレで自慰行為をしている。
このとき本を隠し持ってトイレに入るタイプと、目に焼き付けてから行くタイプがいる。
本を持っていくことも当然禁止されている。が、実際にはやっている人がそこそこいる。

Aさんが私たちがこういった説明をしたところ、彼は突然エロ本を貸してくれと言った。
本の貸し借りはバレると懲罰の対象となる。
私は断ったが、別のチョーエキが2冊の週刊誌を貸した。

Aさんはその後20分トイレに籠った。
そして突然全身を震わせて、片手に本を持って出てきた。
「で、で、で、出ませんでした。」

普通、他人から本を借りている&トイレに持ち込んでいるのだから、一旦本を置いて出てみて、職員が近くにいないか確認するのが刑務所の作法だ。
こういうところをわきまえないと、チョーエキ生活は大変だ。

この2日後、Aさんは作業中に隣の人にニヤニヤしながら「こんなとこ早く出たいよ~」と言ったところ職員に見つかり、大目玉を食らった。
作業中は交談禁止だ。

話している人もいるが、その場合は目線を一切動かさず、小さな声でやっている。

おそらくAさんは他の人が話しているのを見て、イケると思ったのだろう。この時Aさんから話しかけられた人は新人で、返事もしていなかった。
しかし刑務所ではこういう時は二人ともやられるのが原則だ。
この人もメチャクチャ怒鳴られた。

ここまで見てきたように、Aさんのような空気の読めないチョーエキは爆弾なのだ。
周りの人がとんでもない迷惑をこうむる可能性が高い。

だからチョーエキ達はこの手の空気の読めない奴、刑務所の雰囲気になじめない奴を追放しようとする。
その手段がいじめなのだと私は思う。

暇つぶしや積極的な攻撃というより、むしろ自衛なのだ。

人間関係を維持するために誰かをいじめる。

一方でいじめる側にも面白い発見があった。
私がその後にいた部屋で、40歳代の半グレと20歳代のヤンキーがずっと80代のおじいちゃんをバカにしたり、強く当たって2人で笑ったりしていた。
しかしこの老チョーエキが別の部屋へ移動になった瞬間、これまで仲の良かった2人は急激に対立し、言い争いを繰り返すようになった。

実は2人が対立し始める直前、40代の半グレは次のターゲットに私を選ぶか、もう1人いた50代のチョーエキを選ぶか迷っていた。
ボソボソっと私ともう1人の行動にケチをつけてみて、20代のヤンキーくんの反応を伺っていた。

しかし私ともう1人は部屋の仕事を回していたこともあり、その半グレはターゲット設定に失敗した。

その直後にこの2人の関係は悪化したのだ。

思うに、40代の半グレチョーエキも20代のヤンキーも人間関係を維持するのが下手くそなのだ。
だから自分の立場を持っておくために、誰かを嫌うこと(共通の敵を作ること)で人間関係を維持しようとする。

ふざければいじめられない?

私は4週間の雑居生活の後、分類センターという工場で行動訓練や刑務所生活の基礎を叩きこまれている。
ここも鬼のような教官が複数いて、目を光らせている。

しかし実際には死角がいくつか存在する。
私はいたってマジメなチョーエキなので、死角だからと言って悪ふざけをすることはない。

が、死角に入る度、しょうもないおふざけをしている連中も一定数いる。ふざけているにはいつも同じメンバーのようだ。

興味深いのはこの人たちは必ず何かしら、刑務所での立場を危うくするウィークポイントを持っている点である。

例えば受け子出し子のように末端で使い捨てされた人。
残念ながら刑務所という所は、ヤンキー・ヤクザの文化の延長戦上だ。
結局誰が外で一番ワルだったか、に従って力関係ができたりする。

川越少年刑務所なんかでは、受け子はピンク(性犯罪)と同じくらいいじめの対象になるらしい。

ふざけるのは他にも要領の悪い人達なんかがいる。要領が悪いと集団で生活する上で迷惑なので、嫌われやすい。
こういったウィークポイントを持っている人達が陰でコソコソふざけるのだ。

私はなぜウィークポイントありのチョーエキがしょうもないおふざけをするのか考えた。
そこでいきついたのは、彼らには自分に自信がないのだ、という答えだ。

彼らは自分の立場が弱いことを自覚している。
だからいじめの標的にならないために仲間を作ろうとする。
厳しい雰囲気の中で分かりやすく仲間を作るには、ふざけが一番手っ取り早い。
仕掛けてみて、乗ってくるか否かすぐに分かる上、乗ってくれなくてもダメージは大きくない。
いじめられたくない、仲間外れにされたくないから、ふざけることで周りの目を引くというのは小学生と一緒だ。
しかしこれはチョーエキが幼すぎるのではない。一定の人数が集まる集団では、こういうことはよくあるのだと私は思う。

刑務所はデフォルトが非常にマジメで厳粛だから、こういう人達が目立つのだ。
他にも人間関係が根本的におかしいヤンキーくんや、薬物の副作用・後遺症で何がホントで何がウソなのか自分でも分からなくなっている人など、刑務所は人間関係が濃い。(笑)

手紙の枚数制限もあって今回は刑務所といじめというテーマのことしか書けなかったけど、次はもっと「人間関係のいびつさ」について掘り下げていきたいと思う。

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