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獄中記⑦ 完全な不当逮捕とエサ


私は東京西鑑別所へ入って2週間が過ぎ、未だに家裁の調査官が来ないことに不安を感じていた。そんなある日、警察が再逮捕に来ていると告げられた。

外に出ると、シャッターのしまった駐車場のようなところだった。ワゴン車一台の横に6人の男が立っていた。 一人は前に見たスマートな感じの刑事だ。 「久しぶり。体調どうだ?」 「大丈夫です。」         車の後部座席に挟まれるようようにして座ると、シャッターが開いて外へ出た。 まだ鑑別所ぎりぎりの施設内という所で逮捕状が読み上げられた。

はっ?何これ!?

「被疑者は令和2年10月〇日ごろ、○○希と共謀の上、神奈川県川崎市~の路上、及び○○希の自宅である同県川崎市~にて、大麻を含有する葉片29.053g及び覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩0.1gを所持したものである。」

「これが事実だけどどう?」「いや、どうって言われても・・・。全く知らないことで驚いています。逮捕状の詳細を見せてください。」      逮捕状をめくり、2ページ目3ページ目を見ると、私を逮捕するに足る証拠が何なのか分かるのだ。そこには「共犯者の供述調書」「被疑者のDNA型が付着した吸引器具」のようなことが書かれていた。           おそらく私が逮捕された日に、希がこの大麻と覚せい剤を持っていて、同じく逮捕されたのだろう。                       それで「私と一緒に持っていた」あるいは「私と一緒に吸った」というようなことを言ったのだと思う。

これでやっと何で私が突然尿検査なんてされたのかよく分かった。    「尿検査の結果はどうでしたか?」「ああ、どちらも出ていないよ」    「では僕はシロですね。希が何を持っていたにしても、私は知らなかったし、使ってもいない」 「じゃあ”知らないことです”でいいかな?」   「はい」 私達は川崎市の某警察署に着くまで、少し雑談をした。       「取り調べは毎日来ますか?」 「いや、来れる時にするよ。ほかの仕事もあるから」 「いや、こんなの僕は一切関与してないから、早く終わらせて欲しいんですよ」 「う~ん・・・。でも1回逮捕されたら基本20日は変わらないと思うよ。」

釈然としない逮捕理由

私は署に着いて、荷物を留置所で検査した後に取り調べとなった。私は一貫して「知らない」と言って徹底抗戦するつもりだったが、そもそも中川刑事に戦う気が感じられなかった。 「じゃあさっきの通り、知らなかったってことでいいな?」と言って雑談しながら調書を取り、その後は鑑識、つまり指紋などを取って終わった。                     「明日は来られない。明後日は君が地検(検察庁)だから次は3日後で」と言われた。 ここの留置所は1か月半ぶりだった。というのも私は逮捕された10月初旬、1日だけここで寝てから兵庫に行ったから、一度入ったことがあったのだ。 2日後には検察庁へ行った。川崎の地検は駅のすぐ近くにあり、久しぶりの街の景色はちょっと嬉しかった。           待合室は隙間風がすごくて寒かった。同じ部屋に一人だけ同じくらいの年の子がいたが、会話は禁じられている。検察庁へ行く日は朝8時半に出て、帰るのは19時くらいだ。その間待合室には本もなければ、話もできない。  何だかんだ言ってこの時間が一番キツい。                私の取り調べは午後で、担当検事は大人しそうな若い男の人だった。特にこれと言って厳しい追及もなく、「ああ、そうなんだ」程度で終わった。その後裁判所へ行った。一応検察庁から拘留してくださいと言われた人は、裁判所で拘留か釈放か判断されることになっている。            実際には99%以上は言われた通り拘留となるので、まあ儀式のようなものだ。                                私は何か釈然としない思いでいた。全く知らないことで逮捕されるなんてあるんだ・・・。しかもなぜ取り調べもキツくないんだ・・・?

ヤバいエサ

この施設の食事ははっきり言って人間の食べ物ではない。ご飯は冷凍しすぎてパッサパサでポロポロくずれる日と、ベチョベチョでとてもお米に見えない日が交互。おかずは見たこともない中身がスカスカの魚や、何で作ったのか分からないハンバーグの形をした茶色い塊などが1つメインで入っていて、後は漬物1つか2つ、そして見たこともない野菜の混ぜ物が出て来る。野菜はぐちゃぐちゃで味はない。                   又、地検の昼食は食パン2枚に茶色いクリームが人差し指1本分くらい塗られているサンドイッチが出る。このクリームは一応チョコ風味。問題はパンだ。耳が固すぎて嚙みちぎれないのだ。みんな耳を手でちぎって残していた。                                隣の部屋のおじさんが警察に対して、「ねえ、私たち同じ人間ですか?こんなビニール袋に嚙みちぎれない食パン入れて、目の前に置かれて、これじゃエサですよ」と喚いていたのが印象に残っている。

何日経っても変化なし

取り調べの方は何日経っても変化はなかった。中川刑事はだいたいの型ができている調書に私の言葉を少し付け足していく。            「希が薬物をやっていたこともしらなかったです。でいいか?」「はい」 そしてサインして指印を押す。これではどう考えても不処分。つまり20日で終わりだ。裁判にはならない。弁護士は東京から小寺先生が横滑りでついてくれた。                             先生も「まあ、不起訴でしょう。我々が考えないといけないのは、少年審判の方です。誕生日が来て20歳になるまでにやってもらわないといけませんから」と言っていた。                        又、本来なら共犯者がいるので「接見禁止」がついて面会など制限されるのだが、この時はつかなかった。このことからも捜査側に全然やる気が「伝わってこない。後半になっても中川の態度は一貫して緩かった。      普通刑事は後半になると「これからどうするんだ?」的な話をしてくるが、それもない。個人的に中川に悪い印象はなかった。親と同じくらいの年だが、同世代の友人のようにしゃべっていた。              「このままじゃパイですね。20日で。鑑別は東京に戻るんですか?」  「さあどうかな。まあお楽しみだ」そして20日が来た。

つづく

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