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第5話 平壌(ピョンヤン)観光①

目が覚めると、窓の外の靄に浮かんだ、朝焼けの太陽が目に飛び込んできた。 

私は朝鮮とは関係のない夢を見ていたはずだが、ホテルの殺風景な部屋を見渡すと、急に今朝鮮にいるのだという現実に引き戻され、そちらの方がむしろ奇妙な夢のように思えた。

この日は令和元年5月2日。 

高麗ホテルのテレビでは、BBCやアルジャジーラなどの外国のニュース番組をみることができた。

私は日本国内の「令和」の様子を知りたく、海外メディアが「新天皇」について取り上げていないかチャンネルを回してみたが、どこもやっていなかった。

今日のスケジュールでは、9時から一日平壌観光をすることになっている。

私とケイスケは、朝食をとりにホテルのレストランへいった。入り口で、チマチョゴリを着た慎み深そうな女性が私達を出迎えてくれていた。

他のメンバーたちはすでに来ていた。朝食はビュッフェであった。さまざまな朝鮮料理の惣菜に、ご飯、スープ、目玉焼き、パンやシリアル、フルーツなどがあり、別料金だがコーヒーもあった。

貧乏性の私はなるべく多くのものを腹に入れようと、朝から食い切れないほどの量を皿についでしまっていた。


私は朝ブラックコーヒーを飲まないとどうも調子が悪い。

コーヒーは10元の別料金がかかるが、それでも飲みたかったのでコーヒーを注ぎにいった。

10元を渡そうとすると、垢抜けないコーヒー係のホテルマンが「サービスだ」というふうな仕草をして、無料でコーヒーをいれてくれた。

味は全然期待していなかったが、コーヒーは中煎りくらいの苦さで、思ったほどまずくはない。

日本のコーヒー屋でももっと不味いコーヒーを出すとこはある。

飲み物はコーヒーの他に紅茶やジュースなどもあったが、コーヒーだけ有料だということは、輸入量が絶対的に少なく高価なのだと思う。 


日本ではどんなところでもコーヒーは飲めるし、むしろ国民必須の飲みものと言っても良い。だが「朝鮮」ではこの後このホテル以外でドリップ式のコーヒーをみることはなかった。 

私ははこれを「北朝鮮」の後進性が原因だと思ったが、実際、今や世界第二位の経済大国である中国でもコーヒーショップをあまり見なかったのである。 

きっと民族的にもしくは文化的に中国人はコーヒーを好まず、「北朝鮮」にコーヒーが少ないのも恐らく同じ理由で、ただ単にこの国の後進性というよりは、多分に味覚の問題なのかもしれない。


朝食を終えて皆でレストランを出た。


チマチョゴリの女性が送り出してくれたのだが、その所作が何だか優雅で、李氏朝鮮時代の宮廷婦人もこのような感じだったのではないかと思った。


私達はホテルのロビーでガイドの李さんと朴さんと会った。外にでて皆で一緒にタバコを吸った。

一緒にタバコを吸うという行為はその時は誰もがリラックスしているせいか妙な親近感を生む。

ガイドの李さんは「最近の日本の旅行者は煙草も吸わないし、酒も飲まないから面白くない」などと嘆いていたが、この旅行中「タバコ」が私達とガイドの距離を縮めたのは間違いない。



9時頃から予定通り平壌観光はスタート。

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