幸福への扉 41

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 私は工藤さんに車を借りて、上村の住所に向かった。上村の家は大学院から車で15分程度の、金武町の中にあった。町の中に巨大な米軍基地があるせいか、町内の看板には英語表記が目立った。町の中心から少し外れたところに、上村が住んでいる2階建ての白いアパートがあった。アパートの外壁はところどころにヒビが入り、年季を感じさせた。上村の住所はこのアパートの203号室となっていた。私は、アパートの駐車場の空いているスペースに車を停めて、上村の住む部屋の前まで上がっていた。玄関の横にあるインターホンを鳴らしてみる。二度鳴らしても中からは応答がなかった。

「上村さん、いらっしゃいませんか?工藤先生からのご紹介で伺いました。お話をお聞きしたいんですが。」

ノックしながら呼びかけてみる。それでも中から返事はなかった。しばらく、繰り返してみたがノックの音が廊下に響くだけだった。しばらく扉の前で思案していると、カンカンカン、と階段を登ってくる音がした。廊下の奥から70代くらいの老婆がゆっくりと歩いてきた。

「はて、どうかしましたか?」

老婆はエプロン姿で箒とちりとりを持っていた。どうやら、このアパートの管理人のようだ。

「実は上村さんに会いに来たんですが、いらっしゃらないみたいで。」

「ああ、そうですかぁ。この時間なら、彼は大学にいるんじゃないですかねぇ。なにやら大学で難しい研究をしているみたいでねぇ。」

老婆は人懐っこい笑顔を浮かべてゆっくりと話した。

「それが、大学には最近顔を出していないらしくて心配して見に来たんです。上村さんがどこにいるか分かりませんか?」

私は、少しだけ嘘を交えて、老婆に訪ねた。

「あら、大学ではないんだねぇ。それじゃあ、どこかしらねぇ。そう言えば、ここのところ上村さんの車も見なかったような気がするわ。」

「そうですか。もし、彼の居場所が分かったら連絡してもらってもいいですか?私は一ノ瀬といいます。」

俺は、老婆に携帯の番号が書かれたメモを手渡した。

「はい、はい、わかりましたよ。」

老婆はニコニコしながら、そのメモをエプロンのポケットに畳んで入れた。私は老婆に別れを告げて階段を降りていった。建物を出て車へと向かう途中、2階の廊下から老婆に呼び止められた。

「一ノ瀬さん。そう言えば、上村さんのぉ、最後にあった時、青い鳥を探しに行くとか言っていたよぉ。なんじゃったかな、アオハラなんとかとか言う鳥じゃったよぉ。」

老婆は、廊下の手すりから下を見下ろして話した。

「青い鳥。ありがとう。また何か分かったら教えて下さいね。」

お礼を言い、車に乗った。車の中ですぐにスマートフォンを取り出し、検索を始めた。いくつかの検索ワードを試して、それらしいものにたどり着いた。おそらく上村が探しに行ったのはアオハライソヒヨドリだろう。青い体に黒い翼をもつ鳥で、主に東南アジアで見られる鳥らしい。日本でも石垣島などでまれに観察できるそうだ。

「石垣島か。」

私は少し考えて、車を空港に向け、前田さんの番号に電話をかけた。

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