神楽坂はお好み焼き
前職のリバネス時代を思い出すとき、贅沢だったなと思うことがいくつかある。その1つが『食』だ。
職場は飯田橋にあり、飲食店ひしめく神楽坂が昼休みに歩いていける距離にあった。神楽坂はおいしい。
中でもふとした時に無性に食べたくなるのが、「広島風お好み焼き」だ。
そう、神楽坂は「お好み焼き」なのだ。
ぼくと幸枝さんが好んで通っていたお好み焼き屋さん「くるみ」は神楽坂を登りきり、毘沙門天を過ぎた先にある。
入り口には野菜が売られていて、店の中には大きな鉄板。カウンターがメインの店はあまり広くなく。ランチ時にはいつもいっぱいだった。
愛想の良い女将さんと、どっしりとした旦那さん。大量の麺の上に肉と生地と卵がのっかり、目の前でジュージューと焼かれる広島風お好み焼きは、仕事で疲れているぼくらにとって最高のごちそうだった。
ぼくにとって広島風お好み焼きは神楽坂で食べるものだったのだ。
あぁ、あれは美味しかったなぁ……。
会社を辞めて北海道に移住してから、5年。今年の里帰りでついにあのお好み焼きを食べる日が来た。
電話で営業していることを確認し、テイクアウトの予約。本当であれば店で食べたいが、子どもたちがきっとそれを許さないだろう。母に借りた本当の意味でのママチャリにまたがり、ワクワクしながら店へと飛ばす。
そして、店の前。昔と変わらず店の前では野菜が売られている。店内も変わっていない。女将さんはいなかったが、変わらない旦那さんがお好み焼きを作っていた。
買えた。
急いで、家に戻る。
急いで、開ける。そして、食べる。
たくさんの麺の上に、お肉と生地。十分な食べごたえがあり、味も変わらずうまい。
はぁ、リバネスが「くるみ」の近くにあってよかった。
幸せの1つは『食』なんだなとお好み焼きを通して確認するのだった。
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