幸福への扉 3

   2

翌朝、またいつも通り目覚まし時計がなる前に目を覚ます。いつも通りの朝食、いつも通りのテレビを見て、いつもと変わらない電車に揺られて会社に着く。会社では、相田が昨日と変わらない様子で仕事をしていた。横を通る時に声をかけた。

「おはよう。今朝も早いな。」

「あ、おはようございます。鈴木さん。」

相田は振り返ってこっちを向いた。

「昨日も遅かったんじゃないのか?」

「そうですね。終電までには帰りました。」

「おう、そうか。大丈夫か?」

「何がですか?」

「出張から帰ってきて、連日働き詰めなんじゃないのか?」

「ああ、そうですね。でもなんだか悪くない気分なんですよ。」

「そうか、あんまり無理するなよ。」

「はい、ありがとうございます。」

相田はまたパソコンに向かい仕事を始めた。確かに、なにか満たされたようないい表情をしていた。ただ、昨日よりもさらに深いくまが目元に刻まれていた。相田のことは少し気になったが、本人が何も気にしていない様子なので、俺はいつも通りコーヒーを飲みながらパソコン画面に表示されているアラートの確認作業から仕事を始めた。2つの会議と1箇所の外回りを終え、7時前に帰り支度をする。今日は友人と飲みに行く約束をしていた。7時10分、会社を出る。ふと見てみると相田は相変わらず仕事に集中しているようだった。

 いつもと逆方向に向かう電車に乗り、新宿三丁目で降りる。一ノ瀬とはゴールデン街の飲み屋で落ち合う事になっていた。細い道の両側に立呑のバーが何件も立ち並ぶこの街はこの時間になると店からはみ出して飲んでいる人もいるくらいの賑やかさだ。ゴールデン街の入り口のネオンをくぐって少し入った先の2階にあるDOGS。5年くらい前から通い詰めている店だ。

 狭い店の奥で、女がマスターに絡んでいた。一ノ瀬だ。

「待ったか?」

「お、来た来た。私も少し前に来たとこよ。」

「一ノ瀬さんかなり前からいらしてましたよ。次の仕事が気に入らないみたいで、ずっと愚痴ってたじゃないですか。」

どうやら長い間マスターに絡んでいたようだ。雑誌記者として全国を飛び回り、よく飲み、言わなくても良いことまでよくしゃべる。幼馴染の腐れ縁ということもあり、時々こうして会っている。

「へぇ、マスターには悪いことしたな。」

「いえいえ、皆さんのボヤキを聞くのも私の楽しみの一つですから。鈴木さんは何飲みますか?」

「それじゃあ、ハイボールを。」

「私も、もう一杯。」

「はい、それじゃあ鈴木さんがハイボール、一ノ瀬さんがソルティドッグですね。」

マスターは後ろを向いてお酒の準備を始めた。


ーーーーーーーーーーー

第四話

ーーーーーーーーーーーーーー

第一話



サポートとは「投げ銭」の意味です。 サポートにて100円でも200円でも頂けるとやる気に繋がります!皆様のサポートありがとうございます!!