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行動できる人はすごいけど

よく「山に登ってみたいけど、どうやって始めたらいいの?」と尋ねられる。

まずは、どの山に登ればいいのか。まずは、何を買えばいいのか。

山小屋で働いていたときはリアルの友だちから、ライターになってからは読者さんからたびたび聞かれる。登山してみたいけど始め方がわからない人って、実はとても多いのだ。

過去に何度か、「山に登ってみたいけど……」の質問に答えたことがある。

結論から言うと、相手は誰ひとり登山を始めなかった。

ある友人には「まずは何を買えばいいの?」と聞かれ、一緒に登山用品店に行った。しかし、友人は登山靴やザックの値段を見て「無理!」と断念してしまった。結局、彼女はその後も登山をしていない。

また、知り合いの大学生からメールで「吉玉さんのいる山小屋に行ってみたいんです」と言われ、登山口までのアクセスや持ち物、コースタイムを長文で返信したこともある。彼女の返事は、「体力に自信がないからやめておきます」だった。

そういうことがあるたび、ちょっと残念に思う。山仲間が増えると嬉しいから。

でも、「せっかく質問に答えたのになんで行動しないの!?」とは思わない。

その行動に感じるハードルの高さや、それを越えるためのエネルギー量には個人差があるからだ。

私も、やりたいと思いつつなかなか行動に移せないことはある。だから行動できない人を見ると、「だよね~わかる~」と思う。


インターネットを見ていると、「行動する人」をアゲて「そうじゃない人」をサゲる言説が多いな~と感じる。

行動至上主義とでもいうのか。「成功する人はすぐに行動する。成功しない人との差はそこなんだよね。成功できない人はやらない言い訳を探して行動しない。行動あるのみ」みたいなツイートを、1ヵ月に1回くらいは見かける。

たしかに、明確な目標があってそれを達成したいとき、行動したほうが達成の確率は上がる。「即行動」も「やらない言い訳するな」も、目標達成には有効な言葉だ。叶えたい目標があるのに行動せず、ただ他人を妬んでいるような人には、私もイライラしてしまう。

問題は、まだ目標を持ってない人までもが、そういう言葉を真に受けて焦ったり自責したりすること。

「山に登ってみたいな~」くらいの、興味の芽が発芽したばかりの人が、「やらない言い訳してないで行動しなきゃ!」と焦ったり、「行動に移せない自分はダメだ……」と自責したり。そういう姿を、たびたび見てきた。

いやいや、まだその世界の入り口を覗きこんでる段階じゃないですか。そんなに早急に結論出さなくても、いいと思いますよ。

「行動する人」はすごいけど、かと言って「そうじゃない人」がダメってことはないんだから。


「行動する人」はすごい。皮肉ではなく、本当に尊敬する。

だから行動できる人を褒めるのはわかる。行動できた自分を誇るのも。私も過去に何度か「勇気を出して行動した自分えらい!」と誇れる体験があって、へこたれそうなときは、それを思い出して自分を奮い立たせている。

けれど、行動する人(もしくは行動した自分)をアゲるために、行動に移せない人を引き合いに出してサゲる必要はないんじゃないか。

興味を持ちつつ行動に移せないとき、そこには個々人の事情がある。

事情を聞かずに「やらない言い訳」と断じることはしたくないな、と思った。


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