この湿度の高い国の避暑地で
夕暮れのテラス席でソフトクリームを食べる。高原の宿は大抵、ソフトクリームが名物だ。
空の、オレンジ色と薄紫が溶け合った部分をぼんやり見ていた。食べ終える頃には、名前を知らない山々がすっかりシルエットになっている。
「さて」
コーンを包んでいた円錐型の紙を小さくたたみ、ノートパソコンを開いた。
いろんなことが積み重なって、少しずつ息が苦しくなって。衝動的に、東京から逃げ出してしまった。暑さを言い訳に高原まで来たものの、やっぱり仕事をしてしまう。
こんなところでまで仕事なんて、と思われるかな。
つい、周りを窺う。
隣のテーブルには年配の女性がいた。寒い国の人に見える。
熱心にスマートフォンを見ている彼女は、目が合うとにっこり笑って、私に画面を向けた。碧眼の赤ちゃんの動画。お孫さんだろうか。私も思わず微笑んだ。
夕暮れの中、私と彼女はそれぞれの画面を見つめる。
湿度の高い国の避暑地で、事情を共有することもなく。
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