【ショートショート】ハイ皿のイイエ
「もう今となっては席で吸える方が珍しくなってきたからな」
男は煙たいため息を吐き出すと、白髪の混じった髪を撫でつけた。
そしてネクタイを少し緩めると灰皿にタバコをねじ込んだ。
「本当ですよね。全席禁煙の店のほうがもはや普通です。あ、すみませーん」相づちを打ちつつ、対面する部下は店員を呼び止めた。
入社三年目で仕事は一通りそつなくこなせるようになったが、合わせて悩みも折重なってくる頃だ。悩みなど無さそうにひょうひょうとした顔をしている者こそ、人知れず隠し持っているものなのだ。