【ショートショート】せみさん
「お世話になりました」
枯れすすきの如く頭をたれて男は刑務官に挨拶をした。
「しっかりやるんだぞ。元気でな」
私はその手を強く握り、晴天に恵まれなかった今日をせめて気持ちだけでも晴らそうと努めた。
しかし、並んで立っていた上司の表情は硬いものだった。
曇天の空の下、なで肩の小さな背中は遠ざかってゆく。
自身の父親と変わらないその背中を見つめ、少し複雑な気持ちになりかけていた。
「2556番…いや、吉田が『せみさん』と呼ばれていたのは知ってるか?」と上司は呟いた。
その言葉に改