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2-5 遺伝子と染色体の関係

 遺伝子が染色体の特定部位に存在することが分かると、メンデルの法則を分子レベルで説明することが可能になった。同時に、メンデル第二法則である独立の法則に反する事例も原理が解明された。この機序について、この記事では学んでいくことにする。

同じ染色体上の遺伝子は物理的につながっている

 1933年にノーベル医学生理学賞を受賞したトーマス・ハント・モーガンはキイロショウジョウバエを用いた交配研究を行った。この研究で行われた交配の結果は、メンデルの独立の法則によって予測される結果と一致しないものがあった

 モーガンは2つの既知遺伝子型$${BbVgvg×bbvgvg}$$のショウジョウバエを交雑し、その子2300匹の表現型について調べた。この遺伝子は以下の特徴を持つ。

  • $${B}$$(野生型で体色は灰色)は$${b}$$(体色は黒色)より優性。

  • $${Vg}$$(野生型の羽)は$${vg}$$(退化した非常に小さな羽)より優性。

 これを交雑すると、4つの表現型はメンデルの独立の法則に基づいて$${1:1:1:1}$$になるはずである。しかし観察結果は違った。体色に関する遺伝子と羽の大きさに関する遺伝子は独立に分離されず、一緒に遺伝する割合が高かった

連鎖群

異なる遺伝子が同じ染色体上にある場合、減数分裂の過程で(キアズマによる乗り換えを無視すれば)"常に"協調して動く。このような現象を連鎖という。これが現在の遺伝学における「ある染色体上にある遺伝子座一式が連鎖群を構成する」という基本事実につながる。種における連鎖群の数は、相同染色体対の数と等しくなる。

組み換え頻度

 染色体の乗り換えがなければ、子は全て親と同じ表現型であるはずであるが、実際は交換が行われるので一定の割合で親と違う表現型になる。ではその割合とはどの程度なのか、それが組み換え頻度である。

 実際に先ほどの観察結果を用いて組み換え頻度を計算してみる。公式と実際の計算は以下に示す。

$$
\begin{split}
\\
組み換え頻度&=\dfrac{組み替えられた個体数}{子の総個体数}\\
&=\dfrac{206+185}{2300}=0.17\\
\end{split}
$$

 この組み換えの頻度は遺伝子によって異なる。端的に言えば、遺伝子同士の距離が開いていればいるほどその頻度は上がる。これは、遺伝子の間に物理的な距離があればあるほど、染色体の乗り換えが起こる場所が増えるという至極単純な理由から説明できる。二つの遺伝子の距離が近い場合、その間で乗り換えが起こる可能性は単純に低くなる。

遺伝子地図

 組み換え頻度から逆算して、遺伝子が染色体上でどれだけ離れているかを推測することができる。もし複数の遺伝子同士の組み換え頻度が明らかになれば、これを利用して遺伝子の地図を描くことが出来る。

 遺伝子上での距離は組み換え頻度がもとになっているため、実際の距離概念とは微妙に異なる。なので、地図単位と呼ばれる単位が用いられ、組み換え頻度0.01が1センチモルガン(cM)にあたる。

練習問題

 遺伝子地図を描く問題を用意してみたのでやってみましょう。パズルのようなものなのでこの記事の内容が分かっていれば解けます。

 あなたは遺伝学研究者で、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の染色体上にある4つの遺伝子(A, B, C, D)の位置を特定しようとしています。各遺伝子間の組換え頻度データが与えられています。このデータを基に遺伝子地図を作成してください。

以下は各遺伝子間の組換え頻度(地図単位、cM:センチモルガン)を示しています。
A-B: 20 cM
A-C: 20 cM
A-D: 5 cM
B-C: 40 cM
B-D: 15 cM
C-D: 25 cM

解答は以下の通りです(左右反転しててもOK)。

 以前の記事で「染色体の組み換えによって遺伝的多様性が生じる」とありましたが、組み換え頻度を考えると「遺伝的多様性が生じやすいものとそうでないものがある」とも言えます。前の内容を忘れていたらもう一度読んで復習してください。

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