2-6 性染色体と連鎖
メンデルの研究において、相反交雑(雌雄を入れ替えた交雑検定)ではいつも同じ結果であった。つまり、優性対立遺伝子が母由来なのか、父由来なのかは全く重要でなかったのである。しかし、場合によっては染色体がどちらの親由来かが影響を及ぼすことがある。ここではそういった遺伝形式を学んでいく。
染色体による性の決定
トウモロコシなどの植物の成体はその中に雌雄両性の生殖構造を持っている。このとき、その生殖組織は遺伝的に同一である。このような植物を雌雄同株という。その逆が雌雄異株であり、そのような生物には二つの性があるといえる。
どのようにして性別は決定するのか。生物によってその決定方法は異なるが、基本的には染色体によってなされる。ヒトを含めた多くの生物では性染色体によって性別が決定され、それ以外の常染色体は共通である。
雌性の哺乳類の性染色体は1対の$${X}$$染色体からなる。一方雄性の哺乳類の性染色体は$${X}$$染色体と$${Y}$$染色体からなる。つまり、$${Y}$$染色体を持つかどうかが雌雄を決定する。
一方で鳥の場合は雌性が$${ZZ}$$、雄性が$${ZW}$$となっている。(哺乳類との区別で$${Z}$$と$${W}$$を使っているだけ)
哺乳類は雄性の、鳥類では雌性の配偶子の染色体によって決まる。言い換えれば、哺乳類は精子が$${X}$$か$${Y}$$か、鳥類は卵子が$${Z}$$か$${W}$$かで性別が決まる。
性染色体異常による遺伝子の発見
性別を決める遺伝子が$${Y}$$性染色体上にあることは分かった。しかし、遺伝子を決定するにはどうしたらよいか。ここでは遺伝子異常から導いた事例、特に減数分裂期の不分離に起因した異常をもとにそのシステムを見ていくことにする。
減数分裂の不分離が起こると、子の染色体は通常より多くなるか、少なくなる。ヒトの場合例えば$${XO}$$個体が現れる。ここで$${O}$$は染色体の消失を意味しており、$${XO}$$個体は性染色体を1つしか持っていないことになる。
このような個体はターナー症候群と呼ばれ、低身長や卵巣機能低下などの異常は見られるが精神発達は正常な女性になる。ちなみに、$${YO}$$個体は生きることができない。$${XO}$$個体も初期発生段階で亡くなってしまう。
一方染色体が多い$${XXY}$$個体も存在する。この場合は男性になり、クラインフェルター症候群と呼ばれ、軽度の身体的異常と不妊を生じる。
こういった疾患から、男性を決定する遺伝子が$${Y}$$染色体上にあることが示唆された。さらに以下のような事例から、遺伝子の位置の特定に至った。
表現型が女性であるものの、$${XY}$$型で、$${Y}$$染色体の一部を欠いている個体がいる。
遺伝的には$${XX}$$であるが、別の染色体に$${Y}$$染色体の断片が付着した男性がいる。
これらのケースで挙げられている$${Y}$$染色体の断片に男性を決定する遺伝子があることは明らかである。最終的に、この遺伝子は$${SRY}$$遺伝子(Sex-determining Region on the Y chromosome)と命名された。$${SPY}$$遺伝子は一次性決定に関わるタンパク質をコードしている。これは①個体が産生する配偶子の種類と②配偶子を産生する器官の種類を決定するフェーズを指す。
そもそも、男性か女性かを直接的に決定するのは抗睾丸因子と呼ばれるものである。これがあると精巣の発達が妨げられ、女性になる。$${SRY}$$遺伝子はこの因子を産生する$${DAX1}$$遺伝子という$${X}$$染色体上に存在する遺伝子を阻害するため、$${SRY}$$タンパクの存在下では男性になる。
一方二次性決定は体型や乳房、体毛などの要素を決めるもので、これらの因子は常染色体と$${X}$$染色体上に存在する。いわゆるテストステロンやエストロゲンが、これらの遺伝子によって制御されている。
ショウジョウバエの性決定
キイロショウジョウバエもヒトと同様に雌性$${XX}$$と雄性$${XY}$$であるが、その性決定機序は大きく異なる。例えば$${XO}$$型は雄性であり、$${XXY}$$に至っては異常がほとんど見られない雌性になる。これは、ショウジョウバエの性が$${X}$$染色体と常染色体の比率によって決定されるためである。要するに、$${X}$$染色体の本数で決まることになる。
ちなみに、$${Y}$$染色体は雄の妊性には寄与するが性別の決定には関与しない。
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