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2-2 メンデル遺伝学②

 この記事では前回に引き続きメンデルの残した業績を通して遺伝学の基礎をまとめていく。特にメンデルの法則と呼ばれるものについて詳しくみていくことにする。


メンデルの第一法則(分離の法則)

 生物が配偶子を産生するとき、対になっている遺伝子が分離し、配偶子がそのうち片方だけを受け取るというのが分離の法則である。これによってメンデルの実験の$${F_1}$$世代と$${F_2}$$世代の対立遺伝子の組合せが説明できる。

バネットの方形

 交配による遺伝子型の組み合わせはバネットの方形と呼ばれる手法で可視化できる。

バネットの方形

 バネットの方形は、考えられ得る配偶子を全て一辺に並べ、その組合せの結果を格子内に書くものである。上の図からも分かるように、メンデルの実験$${F_1}$$世代の産生した配偶子$${A}$$と$${a}$$を各辺に並べ、その組み合わせを格子内に書くとその遺伝子型が分かる。
 これの良いところは、格子の数がそのまま遺伝子型の数になるので、表現型の比率を計算できることにある。今回の場合、$${AA:Aa:aa=1:2:1}$$であり、表現型としては優性:劣性=$${3:1}$$になることが分かる。この結果はメンデルの実験で得られた比率がどの対立遺伝子についても等しく$${3:1}$$であったことの説明になる。対立遺伝子は相同染色体上に存在しており、減数分裂によって分離されることが示されている。

 メンデルのいう遺伝子は、現在では染色体のDNA分子の"ある"領域であることが知られており、染色体上の特定の部位に存在するDNAの配列と言える。これを遺伝子座と呼ぶ。染色体上の特定の遺伝子の位置を指し、染色体番号、長腕か短腕か、染色体バンド(染色したときの縞模様)の数字で表現される。簡単に言うと住所みたいなものです。

検定交雑による仮説の検証

 優性の形質(例えば球形の種子)には2つの遺伝子型$${AA}$$と$${Aa}$$が存在するはずである。これを確かめるために行われたのが検定交雑である。これは、目の前にある優性形質を示している個体と劣性形質のホモ接合体と交雑させることにより確かめようとした。ここでの仮説は「検定交雑によりホモ接合体が、ヘテロ接合体かを判別できる」である。以下に、2通りのバネットの方形を示す。

赤丸が劣性形質になる

 もし個体が$${AA}$$型の優性形質だった場合、交雑の結果全てが優性形質になる。一方で個体が$${Aa}$$型の優性形質だった場合、交雑の結果優性形質と劣性形質が$${1:1}$$で表れる。実際実験の結果はこの予測とよく一致し、これによって分離の法則がかなり信憑性を持つようになった。

 ここまでは一つの対立遺伝子について考えてきたが、実際生体にはたくさんの対立遺伝子が存在しその無数の組み合わせによって表現型が決まっている。次は複数の対立遺伝子を同時に考えた場合にどうなるかを記述する。

メンデルの第二法則(独立の法則)

 $${B}$$と$${C}$$の対立遺伝子を雌性配偶子から受け取り、$${b}$$と$${c}$$の対立遺伝子を雄性配偶子から受け取った個体$${BbCc}$$を考える。この個体が配偶子を産生するとき、雌性由来の$${B}$$と$${C}$$は同じ配偶子に入るのだろうか。もしくは何かしらの法則性を持つのか。これを考えていく必要がある。

二遺伝子雑種交雑

 メンデルが行ったのは2つの点で特徴が異なるエンドウ(形状と色)を用いて交雑を行う二遺伝子雑種交雑である。1つは球形で黄色の種子のみを産生する$${BBCC}$$型、もう1つはしわの寄った緑色の種子のみを産生する$${bbcc}$$型である。これらの交配で全て$${BbCc}$$である$${F_1}$$世代が生まれるが、これは対立遺伝子の関係上全て球形で黄色になった。
 さらにこの$${F_1}$$世代を自家受粉させて$${F_2}$$世代が生まれる。
ここでメンデルは2つの可能性について考える必要が出てきた。

仮説1:遺伝子は連鎖している

 もしも親$${BBCC}$$が実は$${BC-BC}$$であった、つまり$${B}$$と$${C}$$が常に一緒に動いていたらどうなるか。親$${bbcc}$$も$${bc-bc}$$となり、$${F_1}$$は$${BC-bc}$$と表記されるため、その配偶子は$${BC}$$か$${bc}$$になる。$${Bc}$$や$${Cb}$$はありえない。
 こうなると$${F_2}$$は$${「BC-BC:BC-bc:bc-bc=1:2:1」}$$になり、表現型の割合は「球形/黄色」:「しわ/緑色」が$${3:1}$$で出現する。要するに、このような仮説が正しいなら球形の種子は必ず黄色、しわの寄った種子は必ず緑色になる。このように、親から子へ遺伝する際に2つ以上の遺伝子が一緒に伝わることを連鎖という。

仮説2:遺伝子は連鎖せず独立している

 こちらの仮説の場合、$${F_1}$$によって産生される配偶子は$${BC、Bc、bC、bc}$$の4種類であり、それらが等しく産生される。これらの配偶子についてバネットの方形を用いて遺伝子型を見ると、9つの型が存在することが分かる。

F2世代の遺伝子型と表現型

 実験を行うと、仮説2で予想された表現型の比率と一致する結果が得られる。そこから導かれるのが独立の法則で、"原則"仮説2の方が正しい。原則というのは、この法則はそれぞれの遺伝子が別の染色体に存在する場合には成立するが、同じ染色体に存在する場合には後々別の記事で説明するように必ずしも当てはまらない。しかし、父由来と母由来の染色体は配偶子の形成中に独立して分離することは正しく、仮説2で示された現象が起こる。

メンデルの法則と家系図

 ここからはメンデルの法則をヒトに適用しようという試みである。メンデルの実験では大量の交配を計画的に行って法則を見出したが、人間にそれを適用することは流石にできない。そのため、系図と呼ばれる血縁個体の中の表現型と対立遺伝子を示している家系図を用意して調べる。
 メンデルの法則に基づいて配偶子が組み合わされて子が生まれるが、子がどの表現型かはあくまでも確率的である。劣性対立遺伝子を両親が持っている場合に子に表現型として現れる可能性が出てくるわけだが、実際に子に発現するかは分からない。このような制約の中で両親が劣性対立遺伝子を持つかどうかをどうやって調べるのだろうか?
 通常、遺伝子を調べるときは疾患に関連する場合である。なので系図を使うのは異常な表現型を引き起こす対立遺伝子を対象にするときが多く、ここでもそういった遺伝子についてみていくこととする。以下に図に使われるマークの説明を示す。

 異常な表現型を引き起こすまれな対立遺伝子が優性か劣性か知る必要がある。下の図は優性対立遺伝子の遺伝パターンを示している。これはハンチントン病が代表的で、対立遺伝子を受け継いだ場合は必ず発症する。

優性対立遺伝子の遺伝パターン

 一方で劣性対立遺伝子の遺伝パターンは以下のようになる。アルビノが代表的であるが、これは劣性遺伝子をヘテロ接合性で持っていても、発症はしないため健常な子であっても遺伝子を有している可能性もある。しかし、ヘテロ接合性同士が結婚すると1/4で発症する可能性がある。逆に言えば、発症した子供が居て、両親が発症していない場合、親はヘテロ接合性であり、この対立遺伝子は劣性であることが分かる。

劣性対立遺伝子の遺伝パターン

 この図からも分かるように、近親婚の場合きわめてまれな劣性対立遺伝子を発症しやすくなる。文化的に隔離された宗教的集団や島民なども同様の理由で発症することがある

 メンデルの遺伝法則は実は万能ではないものの、遺伝学の基礎になっているため必ず押さえたい。

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