見出し画像

2-7 性染色体の遺伝と伴性形質

 性染色体にある遺伝子はメンデルの法則に従わないことがある。これは雌性の$${XX}$$型と雄性の$${XY}$$型の非対称性から生まれる。この記事ではその非対称性が生み出す事例について学ぶ。


半接合性が引き起こす現象

 もしも$${X}$$染色体上に重要な形質を決定する因子があった場合、雌雄でどのような差が見られるのだろうか。ある遺伝子が$${X}$$染色体上にある場合、女性はそのバックアップが2コピー存在するが男性は1コピーしか存在しない。このようにある遺伝子が染色体の1コピーしか存在しない状態を半接合性という。
 このような場合、相反交雑は複雑化し、メンデルの法則には従わない。

ショウジョウバエの事例

 半接合性によって引き起こされる現象を理解するために、ショウジョウバエの目の色に関する相反交雑をみていく。性染色体上に位置する遺伝子によって決定される形質のことを伴性形質という。
 ショウジョウバエの野生型は赤い目をしているが、突然変異体は白い目をしている。以前紹介したモーガンはこれらの交雑を行い、以下の結果を得た。

  • ホモ接合性の赤目$${♀}$$がヘテロ接合性の白目$${♂}$$と交雑したとき、赤目は白目に対して優性であるため子供は全て赤目であった。

  • 白目$${♀}$$と赤目$${♂}$$を交雑すると、雄性の子が白目、雌性の子が赤目になった。

ショウジョウバエの相反交雑
目の色を決定する遺伝子はX染色体上にしかないため、雌雄を入れ替えて交雑すると結果が異なる。

 また、ヘテロ接合性の$${♀}$$が赤目の$${♂}$$と交雑した場合は、雄性の子の半分が白目で雌性の子は全て赤目であった。
 これらの結果から目の色の遺伝子座が$${Y}$$ではなく$${X}$$上にあることが示された。

ヒトにおける伴性形質

 ヒトの$${X}$$染色体上にある既知遺伝子は現在$${2,000}$$にも及ぶ。これらの遺伝子はショウジョウバエの白い目の対立遺伝子と同じようにふるまう。これを$${X}$$連鎖性形質と呼ぶ。特徴を以下に示す。

  • 女性よりも男性に多く現れる。これはショウジョウバエの例からも明らかであり、男性は$${1}$$本の$${X}$$染色体だけが変異を起こせばよいからである。

  • 変異を有する男性はその遺伝子を娘にだけ伝えられる。子に$${Y}$$染色体が受け継がれた場合、その個体は雄性である。

  • ヘテロ接合性で変異を受け継ぐ娘は保因者という。半分の確立で次の世代に変異を渡すことになる。

  • 保因者の娘が次の世代に変異を受け渡し、かつそれが雄性である場合、表現型が対立遺伝子のものになる。このことから、変異の表現型は世代を飛び越える可能性を持つ

 一方で、$${Y}$$染色体にも数十の遺伝子があり、こちらはY連鎖性形質と呼び、父から息子にしか受け継がれない。

 興味深い話として、リボソームをコードする遺伝子がある。リボソームを形成するためのタンパク質の一つは$${Y}$$染色体上にコードされている。そしてこれに対応する$${X}$$連鎖性の遺伝子も存在する。リボソームには雌雄が存在することを意味しているが、その重要性は不明である。

核外の遺伝子

 ここからは少しテーマを変えて、核外に存在する遺伝子について考える。基本的に遺伝子は細胞の核に入っているが、ミトコンドリアや葉緑体などの細胞小器官も遺伝子を持つ。これらはどのような機能があり、どのように受け継がれるのか。以下に重要な性質を列挙する。

  • 母親のみから遺伝する。卵が豊富な細胞質と小器官を含むのに対し、精子は核のみであるからだ。

  • 細胞小器官遺伝子は核遺伝子よりはるかに速く変異する。そのために複数の対立遺伝子が存在する。

 小器官遺伝子の変異は異なる表現型をもたらすことがある。例えば、葉緑体が変異によって緑色から白色になることがあるし、また、ミトコンドリアの変異で電子伝達系に影響し$${ATP}$$産生低下を引き起こす。
 1995年にツールドフランスで3回の優勝を果たしたグレッグ・レモンはミトコンドリアの突然変異で筋力低下を引き起こして引退を迫られた。このような病気を総称してミトコンドリア病という。

 ミトコンドリアのDNAは確かに母親由来ですが、父親の食事やミトコンドリアの質を感知するミトコンドリアRNAが精子から卵子に送られ、子孫の代謝に影響を与えるという論文が出ました。興味があればぜひ読んでみてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?