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1-3有糸分裂の機序


 この記事では細胞周期のM期で起こっていることを詳細に見ていく。

DNAと染色体

 DNAは細胞内で種々のタンパク質と結合してクロマチン(染色質)を形成している。このクロマチンはM期に凝集して染色体(クロモソーム)として顕微鏡で観察できるようになる。このとき、染色体には2本の二重螺旋DNAが存在している。通常時はクロモソーム1つにつき1本の二重螺旋DNAが存在する。
※広義の場合細胞周期・凝集の度合いに関わらず染色体と呼ぶこともある。

 S期でDNA分子が複製されるが、これによって姉妹染色分体と呼ばれる1対2本のDNA鎖が存在するようになる(それぞれを染色分体と呼ぶ)。この姉妹染色分体はコヒーシンと呼ばれるタンパク質複合体によって、ほぼ全長にわたって束ねられている
 有糸分裂が始まるとほとんどのコヒーシンが外れ、セントロメアと呼ばれる中心領域のみでつながった形をとる。また、コンデンシンと呼ばれるタンパク質によりさらに凝集する。具体的にはATPの加水分解を利用してpositive supercoiling活性によってねじれを導入し、凝集を促進している。ねじれた輪ゴムが小っちゃく纏まるあれと同じだと勝手に思っています。

ヒストンとヌクレオソーム

 染色体はヒストンと呼ばれるタンパク質を大量に含んでおり、5種類のヒストンが存在する。これらはリシンやアルギニンなどの塩基性タンパク質(アミノ基が多い)を含んでおり細胞内のphではプラスに帯電している。これがDNAのリン酸基の負電荷と相互作用しDNAを引き付けており、ヌクレオソームと呼ばれるビーズ単位を構成している。

https://lifescience-study.com/histone-octamer-and-nucleosome/より引用

 間期のあいだ、DNAは上図のような形をとるが、ビーズに巻き付いていない部分をリンカーと呼ぶ。この部分に種々のタンパク質が結合して複製や発現の制御を行う。

有糸分裂の機序の詳細

 有糸分裂が行われると、親の核から遺伝的に同一である核が2個生じる。この現象は多数の段階を踏んでいるため、丁寧に追っていく必要がある。

中心体の役割

中心体の存在によって分裂の空間的方向性が決定する。S期にDNAが複製されると同時に、核に隣接する細胞小器官の一つ「中心体」も分裂して2つになる。中心体は1対の中心小体からなり、中心小体は9本の微小管からなる筒状の構造物である。2つの中心小体は直角に交わる。

https://iwasakishuto.github.io/University/3S/%E7%B4%B0%E8%83%9E%E5%88%86%E5%AD%90%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%AD%A6%E2%85%A0-7.htmlより引用

G2期からM期へ移行する際に、中心体はそれぞれ細胞の両端に移動する。これがそのまま細胞分裂の方向性を決定する。単細胞生物にはこの指向性はあまり意味を持たないが、多細胞生物の場合はどの方向に分裂するかは大きな意味を持つことは言うまでもない。

 そして中心小体の周囲には高濃度の二量体チューブリンが存在しており、微小管の形成が促進される。この微小管が形成する紡錘体によって、染色体の正確な分裂が行われる。

 実は植物には中心体が存在していない。しかし、別の機構で微小管を生成し、紡錘体を形成する。そのため有糸分裂の機序自体は類似している。


紡錘体の形成(前期)

 有糸分裂はいくつかの段階に分けられる。紡錘体の形成はその前期にあたる。有糸分裂にそなえてコヒーシンがはずれ、セントロメア領域が発生するが、そこに動原体(キネトコア、kinetochore)と呼ばれる三層構造が形成される。この動原体と中心体の存在が有糸分裂に不可欠である。

 2個の中心体はそれぞれの染色体が有糸分裂する方向を示す役割を持つ。ここから微小管が伸びて中心体と染色体を結ぶことで紡錘体を形成する。
 これは2つの"極"としての中心体を離しておく骨組みとして、また染色体が付着できる構造としての役割を果たすことが重要になる。

 厳密には紡錘体は半紡錘体2つからなる。紡錘体の中心では両側から伸びてきた微小管が重なり合う。最初この微小管の形成は不安定で、スクラップ&ビルドを繰り返すが、もう一方の微小管と接触することで安定化する。


紡錘体を形成する微小管の種類

紡錘体を形成している微小管は大きく2種類に分類される。極微小管動原体微小管である。(星状体微小管というものもあるがここでは割愛)

・極微小管
→紡錘体の骨組みを形成する。
・動原体微小管
→染色体の動原体(染色体が微小管に結合する部位)に結合し、染色体の分離と移動を助ける


染色体移動の制御(前中期~後期)

 有糸分裂の段階のうち、染色体が移動するのは前中期、中期、後期の3つの相である。この段階においてセントロメアは分離し、姉妹染色分体は互いに離れて反対方向へと移動する。

前中期
 核膜と核小体が消失する。消失といっても材料物質は細胞質内に残留し、娘細胞の核が形成されるときに再び利用される。
 また、このタイミングで染色体はそれぞれの極方向に移動を始めるが、以下の要素によって妨げられる。

  • この段階ではまだコヒーシンが染色分体をまとめているので引っ張ってすぐ離れるわけではない。

  • 極からの反発によって中央領域(赤道板)へ押しやられる。動原体微小管が短くなる(デポリメライズという)と、中心体に引き寄せられる。これはキネシンやダイニンなどモータータンパク質が関与しており、紡錘体を縮める力と言える。一方で極微小管が伸長する、すなわち紡錘体が伸びる作用もあり、これら2つの力が押し合い圧し合いしている。

 この作用によって前中期では染色体が極と赤道板を行ったり来たりする。次第にセントロメアが赤道板に接近することになる。

中期
 すべてのセントロメアが赤道板に集まる。このとき染色体の凝集も最大化されており、観察に最も適している。中期の終わりに染色分体の対がすべて同時に分離する

後期
 染色分体の分離が始まる。ここから染色分体は娘染色体と呼ばれるようになる。この分離はコヒーシンの分解によって開始されるが、そのときセパラーゼという加水分解酵素が役割を担う。
 このセパラーゼはセキュリンという阻害作用を持つサブユニットと結合しているため通常は不活性である。すべての染色分体が赤道板にあつまるとこのセキュリンが加水分解され、セパラーゼがコヒーシンを加水分解する。

 これが分離のチェックポイントになっていることは覚えておきたい。紡錘体に結合していない動原体があるかを検知している。


染色体を動かす要素

 染色体を動かすのに必要な要素は2つある。第一に、動原体自身がモータータンパク質として働く。ATPを加水分解する能力を持っているため、中心体方向へ移動するエネルギーを放出できる。これが動力の75%ほどを占める。
第二に、動原体微小管自体が短くなって引き付ける力である。これが25%ほどを占めている。

 このようにして分離するが、そのスピードはかなり遅く、10分~60分ほどかかる。この"遅さ"がある意味で正確さを担保しているのかもしれない。


細胞核の形成(終期)

 後期の最後には染色体が移動を停止する。ここからクロモソーム(染色体)はクロマチンの状態になるまでほどける。それと同時に前期で分解した核膜と核小体がそれぞれ再構築されていく。
 これらがすべて終わると有糸分裂は終わり、それぞれ娘細胞は間期に入る。次に必要なのが2個の核が別々の細胞に分離する過程、まり細胞質の分離になる。


動物細胞と植物細胞の細胞質分裂

 そもそも有糸分裂は核の分裂であって、細胞質分裂とは明確に区別された別のステップである。生物によって細胞質分裂の仕方が異なり、動物と植物では本質的な違いがみられる。

動物細胞の細胞質分裂

 収縮環とよばれる輪っかが細胞をちぎる。具体的にはアクチンフィラメントとミオシンが相互作用で収縮する。この二つのタンパク質は筋肉中にも存在しており、同じような機序(カルシウムイオンによる制御)で筋肉を動かしている。

植物細胞の細胞質分裂

 細胞壁の存在がやはり動物細胞との相違点になる。
 植物細胞の細胞質分裂は、新しい細胞壁(細胞板)が細胞中央部に形成されることで進行しする。これは動物細胞のように収縮環による方法とは異なる。
 微小管は有糸分裂中に紡錘体を形成しているが、終期には解体され、細胞板の形成を助けるフィラメントとして再編成される。次に、中央部に再構築された微小管やアクチンフィラメントからなる構造が形成され、これをファグモプラストphragmoplast)と呼ぶ。ファグモプラストは、細胞の中央に位置し、両極から伸びる微小管がここに集まる。
 続いて、ゴルジ体から運ばれてくる小胞がファグモプラストの中央部に集まる。小胞には多糖類やペクチンが含まれ、これが新しい細胞壁の材料となる。小胞は次々と融合し、細胞板を形成する。
 細胞板は、中央から細胞膜に向かって徐々に拡大していく。この過程で、微小管やアクチンフィラメントが細胞板の成長方向を制御し、正しい位置に配置される

細胞小器官の分配

 リボソームやミトコンドリアなどの細胞小器官の分配について、染色体と異なりその個数は均等に分配される必要はない。それぞれある程度あればOK。ただこの細胞小器官の個数の不均衡は発生などの段階において重要な意味を持つことがある。

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