鎌倉と紫陽花 -仕事と暮らし-
私はいま多拠点生活を実践すべく東京・鎌倉・広島に居場所を持ち、週の半分を東京と鎌倉、そして時々広島という生活をしている。実験的に行っている多拠点生活の中でも一番長く時間を過ごしている鎌倉は、ちょうどいま梅雨の時期をむかえ街は色鮮やかな紫陽花で彩られていて、そのあまりの美しさを見逃すまいと暇さえあれば近所を散歩しその美しい色彩のグラデーションを目に焼きつけています。
そんな私ですが実はこれまで鎌倉の紫陽花に対するイメージは「渋滞する道、人しか見えない混んだお寺、行列のできる坂道、それを雨の中、わざわざ傘さして見に行くのかね?」(歪んだ心...)という感じであまり印象の良いものでは無かった。
でもいざ暮らしてみると路地や民家の庭先や水路脇、山の斜面と、いたるところに紫陽花は咲いていて、その花の前で近所の人たちが足をとめ、自転車をおりて眺めたり、写真をとったり「きれいですね」と声をかけあったりと住人たちのコミュニケーションツールとなり昔から変わらない街の初夏の風景として馴染んでいる鎌倉の紫陽花が一気に好きになった。
ふと... なぜ鎌倉にはこんなにも紫陽花が多いのか?気になって調べてみると、非常に興味深く、鎌倉という街の新たなる魅力にまた出会ってしまった。※↓調べによると理由は3つほどありました。 (もっとあるかも?)
1. 鎌倉の地形と気候が紫陽花の生育に適している
2. 死者を弔うため寺院に植えられた紫陽花は挿木で増やしやすく街にも広まった
3. 潮風でも育てやすく地面にしっかり根を張るので、山を切り崩して作られた街を土砂災害から守るために植えられた
気候・地理、文化・歴史的にも適した花が 街の原風景をつくり観光資源にもなっていることは理解の範疇だったけど、紫陽花が土砂災害から街を守る役割をしていたとは知らなかった。
私達がリノベーションした"鎌倉はなれ"のある二階堂地区では昨年の台風9号により土砂崩れが起こり仮設の塀が建てられている。斜面の木を切り、コンクリートの擁壁で力づくで固めてしまうと行き場を失った大量の水が不自然に溜まり別の場所でまた新たな土砂崩れを引き起こす恐れもあると聞いた。 紫陽花を植えるだけでは防げないにしても、自然に逆らわずに自然の力と技術を融合させた方法で短略的ではなく長い目でみて街の美観に繋がる方法で、この斜面が再生できれば素晴らしいのになと思う。コンクリートの擁壁で覆われてしまわないことを祈るばかりだ。
サポーズで古い家をリノベーションして活用しようとしたことにはいくつか理由があるのだけど、その地が鎌倉であったことは偶然で、通い始め、更には住み始めてから私はこの街がどんどん好きになっていった。ここに場を持ったのが必然だったと思うに至ったのは "時間"というものに対するこの街の価値感が自分の考えと一致したからだと分析している。
建築のシーンにおいても、リノベーションは意外にお金も時間も手間もかかるから新築したほうが早くて、かつ資産価値としての評価も高い。法規も住宅ローンなど金融の仕組みもそういう思考ありきだから、新築よりもリノベはハードルが高くなり、気づけば街の風景は趣を失い画一化される。あらゆる街で、資本と経済が幅をきかせ個性のない顔になるのは悲しすぎる。。。そんな現状に自分が出来ることをライフワークとしてゆっくりとでもいいから地に足をつけて何かやってみたい。というのが私が鎌倉をもう一つの拠点とした理由でもある。
そして、ここ数年仕事をしていて常々感じていることがある「 良いプロジェクトとは目先の利益のみを目的にしない、そのプロジェクト単体を目的としない」ことにあるのではないかと思う。
例えば、 ONOMICHI U2では、昔ながらの街の風景が観光資源となり地元に雇用を生むことを目的に施設がある。だから残すことで魅力をつくるという共通認識を皆が持ち続け、予算や工期など様々な問題にも揺がず最後までブレず一貫した考えとストーリーを持つ空間となった。
渋谷のHotel koeでは、ファッションとカルチャーの繋がりを取り戻すことが目的でホテルは手段だった。結果その場所自体がカルチャーとなって街と混じり活気が生まれブランドはファッションの枠を超えて認知された。
あくまで施設や場所は手段と考えてプロジェクトを広く捉え短期的な収支より少し先にある利益や価値を見据えて考えることが大事だ。でもそしてそれは決して簡単ではない。既存のステレオタイプの仕組みでは成立しない(または前例はない)から収支計画や運営方法自体も新たに考え、空間と共に新たにデザインして解決していくことになる。だけどそれこそがデザインで自分のやるべき仕事だとも感じている。
ちょっと先の未来に視点を置くことが、 結果的にその業界や街の利益となってそのプロジェクトにいつかきちんと帰ってくる。そしてその仕事とそこに費やす時間に意味を与えてくれる。何より関わる人を幸福にする。更にそんな環境が背景にあるプロジェクトは人の能力と努力を無限に引き出すのだ。当たり前だけどみんな意味のある仕事、やりがいのある仕事が好きだしシンプルにやりたいことなら頑張れるから。
美意識をもった解決の方法論こそが、広義な意味でのデザインだと捉え、みんながそれぞれの個性や職能を発揮して地球のデザインに携わる。 (敢えて地球規模の大きなスケールで物を考えてみる。言ってみる。笑)
そんな想いを掲げて。教わることの多い歴史ある街で、”ライフワークの延長線上にある自分にとっての挑戦”を自分らしいペースで実践していきたいと考えている。 ”鎌倉なはれ”と名付けたこの場所は忙しくて手を付けれず完成してはや一年半が経つ。リモートを機にここで暮らし始めて迎えるはじめての夏。この場所を介して仕事と生活をどんな風にクロスオーバーさせデザインしていけるかな。〆切のないプロジェクトのこれからや日々のことを、またここに綴ってみたいと思います。
文:二階堂六之助(吉田愛)