川

行き先の決まった船  2006/11/29

『とにかく先に行きたいのでその船に乗せてください』

船の主は一言

「いいですよ」

『では乗せてもらいます ありがとう』

思ったよりも遠くにいかず船はとまった

船の主が言う

「着きましたよ」

“先に行きたいから と言ったのにこんなところで降ろされるなんて…”

『これくらいしか乗せてもらえないんですか?』

「…………」

船の主は言葉もなくあきれた眼を残して去った

『せっかく乗せてもらったけど あんな冷たい人だったなんて』

今度は人を見て決めよう

『とにかく先に行きたいのでその船に乗せてください』

「いいですよ」

その船も自分が思うほど遠くには行かなかった
降ろされる度に 不満をこぼす

その次の そのまた次も思い通りにはいかなかった

そのうち優しい人なんていない 誰も力を貸してくれない と先に進む事が嫌になった

不幸を全部背負ったような顔して船をみつめる

人を信じていないくせに傷ついた自分を慰めて欲しい わがままを連れて

それでも中には 「乗せていこうか」 と声をかけてくれる人もいた

その度に世界で一番自分が不幸なんだという眼でにらみ返す

もう誰かを信じてすぐ降ろされるのはごめんだ
一緒に先に進んでくれないんだろう?
どうせ自分の行きたい場所までしかいかないんだろう?

行き先の決まった船に乗せてもらうことの意味も考えず愚痴をこぼす

もう少し長く乗せてくれていればもっと先にいけていたのに…
あの人達のせいで先に進みたい気持ちもなくなってしまったじゃないか

こうして彼は先へ進む意味も忘れて感謝することもなく年老いてこの世を去りました

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