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選択的夫婦別姓の実現方法

自民党内での議論も白熱し、そろそろ実現しそうな選択的夫婦別姓制度ですが、おかしな方向でまとまると、無駄に社会のコストが上がったり、コレジャナイ感満載の制度になったりしかねないので、私が現時点でベストだと考える実現方法をまとめておきます。

ポイント

社会全体の変更コストを低く抑え、「本名を変えずに結婚する」という基本ニーズを満たす。低コストで高リターン。そして、今後のさらなるルール拡張を想定しておく。

本名と通称

前提知識の確認から始めます。まず、人には名前が付いています。親に付けてもらったもの、友だちに付けてもらったもの、自分で自分に付けたものなど、様々な名前がありますが、大きく「本名」「通称」に分けられます。「本名」とは国家が法律上正式であると認めた名前で、それ以外は法律上は根拠のない「通称」となります。本名は、「氏(名字)」「名(下の名前)」で構成されます。

本名を定める戸籍システム

日本人の場合、戸籍システムに登録された氏名が「本名」になります。戸籍システムは、一組の夫婦とその子供をひとつの「戸籍」という単位で登録する情報システムです。そして、日本人の本名が決まるのは、赤ちゃんが産まれて親が「出生届」を出すときです。出生届に書かれた「名」が戸籍システムに登録されると、両親の「氏」とくっつけられて、その子の本名となります。

結婚すると夫婦どちらかが名字を変える

子供が大きくなって結婚するときは、夫婦2人で「婚姻届」を書いて自治体に提出します。このとき、2人とも両親の戸籍から外れて、夫婦2人で新たな戸籍を作成して登録されます。婚姻届の用紙には、「婚姻後の夫婦の氏」を記入する欄があり、「夫の氏」か「妻の氏」を選びます。選ばれた方が改姓せずに戸籍筆頭者となり、選ばれなかった方が必ず改姓することになります。

名字を必ず変えなければならない原因

現在、夫婦のどちらかが改姓を強制されるのは、「同一の戸籍内に、違う名字の人を登録してはいけない(=同一戸籍・同一氏の原則)」というルールがあるからです。データベース用語で表現すると、ある戸籍レコードに夫の名字フィールドと妻の名字フィールドがあるのですが、夫婦の名字データを統一しないとレコードを登録できない決まりになっています。そして、その戸籍は、ざっくりとこんな感じで出力されます。

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本名を変えずに結婚する方法

ここで「本名を変えずに結婚する」方法を考えてみると、いくつかの選択肢が考えられます。

a1. 同じ戸籍内に、違う名字の人を登録できるようにする。

a2. 「同一戸籍・同一氏の原則」を守るため、違う戸籍に登録された違う名字の人を婚姻関係として登録できるようにする。

a3. 婚姻関係を管理する現在の戸籍システムとは別に、パートナーシップ管理システム(改姓したくない夫婦には事実婚をしてもらい、そこに法的根拠を持たせて管理するシステム)を新規に開発して並行稼働させる。

a4. そもそも戸籍システムに登録された氏名ではなく、別のシステム(例えば、マイナンバー管理システム)に登録された氏名が本名だということに法律を変更し、戸籍システムと本名の関係を切り離した上で、別システムをもって本名を証明する。

言うまでもなく、a2 a3 a4 は大がかりな変更が必要です。どこにどれくらい影響が出るか想像するだけで辛くなります。複雑な法改正をした上で、システム開発と運用に多大なコストが発生し、自治体の受付窓口の業務が複雑化するでしょう。

ということで、a1 をベースに、さらに考えていきます。a1 の戸籍イメージは、ざっくりこんな感じになります。

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どうやって選択を届け出るか

夫婦が改姓する/しないを選択するためには、結婚するときになんらかの形でその意思を表明をする必要があります。選択肢は2つ考えられます。

b1. 婚姻届を書くとき、「夫の氏」「妻の氏」に加えて「別姓(二人とも改姓しない)」の選択肢を作る。

b2. 婚姻届は変更せず、「婚前時に使っていた氏を使い続けたい」ことを別途届け出る。

パッと聞くと b1 の方がシンプルで良さそうですが、私は b2 を推します。その理由は...

なぜ届け出制がよさそうか

まず、現行の現場オペレーションと親和性が高いことが挙げられます。現在、離婚したときに名字を戻さずに使い続ける「婚氏続称の届け出」を離婚届とは別に受け付けて処理していたり、外国人と結婚したときに夫婦同姓にしたいときは「氏の変更届を婚姻届とは別に受け付けて処理していたりします。b2 は、婚姻届・離婚届とは別に、改姓する/しないを届け出に沿って処理することで、業務オペレーションの一貫性を保てます。もちろん、婚姻届のフォーマットや受け付けるオペレーションを変えずに済むのも利点です。

次に、別途届け出る形にしておけば、改姓したくない人が自分自身で意思決定して届け出られる、という利点があります。婚姻届は二人で書くので夫婦の合意が必要ですが、改姓するかしないかを届け出制にすれば、こちらは合意が不要です。ちなみに離婚時は、自分自身で名字を戻すかどうかを選べますので、b2 の方が設計に一貫性があります。「個人の名前は、本人の意思を尊重する」という基本スタンスを表現できます。

また、今後さらなるニーズに対応していくことを想定したとき、拡張が容易であると考えます。

今後のルール拡張を想定する

よく聞くのは「結合姓(夫婦の名字をくっつけて1つの名字にする)」や「創姓(婚姻時に新しい名字を創る)」です。将来的にこれらの選択肢が増える可能性を考慮すると、婚姻届とは別に、名字をどうするかを届け出る流れにしておいた方が、婚姻届とその受付オペレーションを変更せずに拡張できる利点があります。

また、これから発生しそうなニーズとしては、子供の名字のルール変更があります。現行制度だと、子供の名字は両親が婚姻する時に確定しており、兄弟姉妹の名字は統一するルールです。しかし、子供が生まれたときに選び直したいときもあるでしょうし、一人目の子には妻の名字を、二人目の子には夫の名字を引き継ぎたい、といったニーズも出てくるでしょう。これらに対応するためには、名字についてはやはり別途届け出を受け付けて対応できるよう設計しておいた方が、拡張が容易かと思います。

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反対派への配慮という観点

さらに、反対派への配慮という観点もあります。b2 の案は、婚姻届については手を加えず、「同一戸籍・同一氏の原則」の概念をニュアンスだけ残しながら、届け出によって本名を変更しない選択肢を用意する方法です。大きな変更に不安を感じる反対派にとって、妥協しやすい利点があります。

実は、b2 の案は、私の訴訟を担当してくださっている作花弁護士が考案されたものであり、最近では自民党の稲田朋美議員が「婚前氏続称制度」としてさらに具体化されています。もともとは選択的夫婦別姓に強く反対していた稲田議員が、反対派の気持ちに配慮しながら考えた結果と推測できます。

まとめ

選択的夫婦別姓制度を導入するにあたり、社会システムを大きく変更する必要はありません。むしろ、今、強制的に改姓させることで、無駄な改姓の手続きや名字の使い分けにかかるコストを、そして精神的なストレスを日本国民は日常的に背負わされています。「さっさとやれ、自民党」。何度もこの言葉を繰り返させていただきます。

同姓を望む夫婦は夫婦同姓を、改姓を望まない夫婦は婚前氏の続称を。当たり前に選択できる社会を目指して。

実現まであと一息、盛り上げていきましょう!

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