選択的夫婦別姓、改正すべきは民法か戸籍法か

前回紹介した「呼称だけ別姓」というアイデアについて、様々な反響がありました。「(戸籍法改正で)呼称だけ旧姓を使えるようになっても、真の夫婦別姓ではない」「民法を改正しなければ、夫婦別姓ができたとは言えない」など、批判的なご意見もいただきました。

今回は、選択的夫婦別姓を進めることを前提としたとき、民法を改正する方法と、戸籍法を改正する方法を比較して考えてみます。

日本には、民法だけでなく、戸籍法という日本独自の法律があります。大まかに書くと、民法では「婚姻とはこういうものだ」と定義し、戸籍法では「家族の情報はこのように管理しよう」と定義されています。

ここで、「民法上の氏(うじ=姓)」と「戸籍法上の氏」の2つの氏があることに注目します。通常は一致していますが、一致しないこともあります。例えば、「鈴木」さんが結婚して、民法上も戸籍法上も「佐藤」さんに改姓したけれど、その後、離婚して「民法上の氏」は「鈴木」に戻る。しかし、「戸籍法上の氏」、すなわち「呼称上の氏」は「佐藤」を使い続けている状態です。これは戸籍法によって、既に認められています。離婚したら必ず戸籍名を元の姓に戻さなければならないとなると、仕事や日常生活に支障が発生するため、「戸籍法が配慮している」と考えられます。図にすると、こうなります。

ところが、結婚するときは、戸籍法にこの配慮がありません。従って、夫婦のどちらかが必ず戸籍名(呼称上の氏)も変えることになります。私は「青野」から「西端」になりました。しかし、これでは仕事や日常生活では不便だろうと、近年は「旧姓の通称使用の拡大」が進んでいます。最近は結婚しても、旧姓のまま仕事をする方が多いですね。あれが「旧姓の通称使用」です。ここで、「鈴木」さんが「佐藤」さんと結婚して改姓したとき、どのように名字を使うことになるかを図にすると、

となります。

いかがでしょうか。私はまさにこの図のように「青野」と「西端」と「併記」の3パターンを使い分けながら生活しています。

通称として「青野」を使えるのはありがたいのですが、あくまでも法的に根拠のない名前を勝手に使っているだけです。どこまで使ってよいのか判断基準は明確ではなく、リスクが高い状態です。従って、財産管理や契約など、法的に重要だと思われる場面は、「西端」を使わざるを得ません。健康保険や年金手帳も戸籍姓です。

そこで、「併記」という新しい日本独自のルールが広がりつつあります。例えば、「西端(青野)慶久」のような書き方です。「両方書いておけば大丈夫だろう」ということでしょうか。パスポートは、申請すれば旧姓を併記できるようになったそうです。しかし、パスポートを持って海外に行くときに、名字を併記して飛行機を予約し、マイレージを登録し、ホテルに泊まり、クレジットカードを使えるわけではありません。あくまでパスポートに「併記」されているだけです。どこまで旧姓で活動できるかは、定かではありません。

また、この「併記」ルールを実現するためのシステム改修には、大きなコストがかかると思われます。先日総務省から発表された補正予算の説明資料(PDF)では、「マイナンバーカード等に旧姓を併記できるようにする」ためのシステム改修で、100億円の予算を取ることが書かれていました(どこまでが併記ルールのためかは不明です)。世の中に星の数ほどあるシステムが、この日本独自のガラパゴスルールに対応していくコストを考えると、賢い選択だとは思えません。

そこで、もっとシンプルに「旧姓に法的根拠を持たせる」のが良いと考えます。ただし、「民法改正」と「戸籍法改正」と大きく2種類のやり方が考えられます。

まず、民法で選択的夫婦別姓を実現した場合は、

のように、民法上の氏が夫婦で違うもの(=別姓)になります。

これはこれでシンプルなのですが、いくつか気がかりな点があります。まず、夫婦同姓にするか夫婦別姓にするかは、民法の通例に沿うと、夫婦の合意によって決定することになるでしょう。また、選択的夫婦別姓に賛同しない人たちは、民法改正によって今の日本の家族観が大きく変わることを懸念しています。よって、この案は賛同を得ることが難しく、これからも長期間、実現しないリスクがあります。

そこで、戸籍法の改正で対応をしようというのが、今回の訴訟のアイデアです。

この場合、民法上の氏はどちらかの氏に統一されます。しかし、改姓した本人の意思(届出)によって、旧姓を戸籍法上、使い続けることができます。つまり、夫婦の合意は不要です。そして、民法上の氏は統一されたままですから、今まで賛同できなかった人たちの懸念が減り、話が進みやすいと期待できます。子供の氏は今まで通り、戸籍筆頭者の氏となります。ある意味、賛同できなかった人たちが掲げていた「夫婦別姓ではなく、旧姓の通称使用を拡大すべきでは」という意見を法律上、明確にした形であり、期待以上に賛同を得られる可能性もあります。

そして、システムの改修は戸籍管理システムだけで済みます。今まで「青野慶久」だった人が、これからも「青野慶久」としてシステムを使い続けるだけですから、変更は不要です。離婚しても戸籍名を変更しない人たちのために、特にシステム改修が要らなかったのと同じです。

私自身は、民法改正を否定するつもりはまったくありません。ただ、何十年も進まなかった選択的夫婦別姓制度が、この新しいアイデアによって、ついに実現できる可能性が出てきました。

民法を改正しても、戸籍法を改正しても、「今まで使ってきた名字を、法的根拠をもって使い続けることができる」という結果に変わりはありません。

日本人の結婚は年間60万組。改姓を強制され、旧姓を法的に使い続けられないことによる精神的・経済的負担は、日々発生し続けています。

どうぞ今回の訴訟の趣旨をご理解いただき、早急に実現できるようご支援いただけましたら幸いです。なにとぞよろしくお願いいたします。


・引き続き署名活動を実施中です。→ http://change.org/choose-name

「訴訟で実現したいことへのご理解とご支援のお願い」

「呼称だけ別姓」案を国会議員へ


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