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文字の文字性

文字の文字性は文字にした瞬間になくなってしまう。LootのようなテキストのNFTはたしかにビジュアルはテキストだけど、正確にはテキストタグで囲まれたSVGだ。人間からみれば、テキストタグに入っている文字はテキストとして認識するが、SVGの内部処理で文字の形にグラフィックを整えているだけであり、これはSVGのLineなどで全く同じ形を指定した場合とどう違うのか。思考実験をしてみよう。出力された文字がまったく同じで「①SVGのLineで変換されたもの」と「②SVGのTextで変換されたもの」がある。①と②の違いは何か。確かに、人間的には②のほうがテキストっぽいが、①だって同じようにテキストにみえる。ビジュアルの差異に文字の本質はないし、文字を見て議論しても、どこまでいっても文字を可視化する行為からの逸脱はできない。
つまり、文字というのは書かれた瞬間に文字であることから離れてしまい、つかみとることができない。その意味では文字を文字として書くということは不可能なのだ。ぼくたちが、コンピュータでプレーンなテキストと感じているのは、白背景に黒文字、フォントは歴史の古いセリフを使うということぐらいで、人類の共通認識を使ってそれがテキストだと特徴づけているだけで、プログラムにとってみれば、バイト数が少ないグラフィックくらいにしか違いを感じとれないだろう。
文字は時間同期しない伝達手段なので、コンテキストのない記号だ。記号は意味づけをしてはじめて機能し、解釈する主体なしでは成立し得ない。文字をみたときに立ち上がるイメージが文字のもつ文字性であり、トリガーとしての文字にコンテキストが加わって、はじめて文字になる。文字をデザインしてコンテキストの操作をすることはできるが、基本的には、文字を文字として認識するのはとても難しいことだと思う。

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