その辺の石ころになりたい

路傍の石って素敵なタイトルですよね。
学校の教科書に載っていましたっけ。どこで覚えたのかどうも忘れてしまいました。内容も知りません。国語の教科書は全教科で最もよく失くしました。
作品とは全く関係がありませんが、私はこれになりたいです。

とてつもなく長い年月を経ていつかはなれるかもしれませんが、そういうお話ではなく、人間から石に変身したいんです。

ある朝、毛布の中で石になっているんです。石像じゃないですよ。その辺に転がっているような小指の先くらいの石です。
誰も私を知らず、なぜこんな部屋があるかも知らず、なぜ石が寝床にあるのかも不明。その辺にきっと捨てられます。
私は石になっています。よくあるネット小説もののような自我はありません。石です。ただの石。

石になったその瞬間に私は死んでいることと同義になります。私の存在そのものを誰からも忘れてもらいます。俗に言う二度目の死もありません。
私は石です。

石になりたい。石が好きなわけではなく、憧れているわけでもなく、逃避の先の石です。
生きているものになりたくなかった、と思う今、最も私のなりたいものが石でした。

5年くらい前までは人間の形状を保ちつつ、悟りを啓き無我の境地に至れるならばと考えたこともありました。無理ですね。僧侶になりたいわけでもありませんでした。

ならもう、生きているものであることをやめたいんです。けど、ダイレクトに死にたいと言うのはあまりに情緒がありません。それに、死にたいわけでもないのです。元からなかったものになりたい。わざわざ石にならずとも、ある朝忽然と消えてしまってもいいんです。だれの記憶にも残らず、痕跡もないように。もっと言うと、私に使われた金銭の全てがもとに戻ると尚良いです。
時間が巻き戻せるならとも思います。
最善はきっとこれです。私ではない別の存在に誕生してもらいたい。きっと幸せになれます。

私は石になりたい。無になりたい。存在ごとなくなりたいんです。産まれる前に戻りたい。そして産まれたくない。なぜ私の両親は河童でないのでしょうね。私はきっと産まれませんでした。

なぜ石になりたいのか、なぜ生まれたくなかったのか、なんて質問はいけません。
私の人生を1秒残らず、凡そ7億秒ほど体験しても、わかる人は多分いないでしょう。私が私だからこそ、そう思うのです。

石になって、転がって、たまに踏まれて、いつか飲み込まれるのもいいなと思います。
そして地中深くに埋もれて、いつか他の石と融合して、あるいは砂になって、遠い未来に行くんです。何度でも言いますが、そこに自我はありません。石になる想像をしているうちに、いつの間にか私という存在がなくなるのを夢見ているんです。

今日も、夕方になりました。斜めに陽が射すアスファルトの、傍らに転がる小石を眺めます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?