難病患者の就労

就労に関するテーマは、患者会でも良く出るテーマの1つだ。「難病と在宅ケア(Vol.23 No.9)」に、年間1,000件余りの就労相談を受けていらっしゃった中金氏による特集「難病患者の就職活動のポイント」が掲載されていたため、要点をご紹介したい。

平成28年4月1日の「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部改正」により、障害者手帳を取得していない、できない難病、がん、肝炎、糖尿病、難聴、弱視など、治療と就業の両立を考えながら生活を考えていく必要がある慢性疾患の方々に対しての就労支援を一層充実させ、拡充させていく方向性が、法律という枠組みにより保障された。

これを踏まえ、中金氏は、難病の人の就活で大切な7つの項目をまとめている。
1. どのように応募したらいいのだろう
2. 病気を会社に伝えることのメリットとデメリットとは
3. 履歴書にはどのように書いたらいいのだろうか
4. 希望条件と就労力のギャップ
5. なぜ履歴書への病名の記載が有効であるのか
6. 「企業脳」を知る
7. 難病の人の仕事の選び方(合理的配慮から考える)

まず、印象的だったのは、1の応募に際して、「企業の採用担当者と話をすると、「仕事をしていただければこちらは大丈夫です」といった発言を頻繁に耳にする」という現実である。難病であるか否かに関わらず、採用の現場では、会社が期待する仕事を、期待されるレベルまでできることが求められる。法律で就労支援の充実がうたわれたとしても、この立証責任が就労希望者側から企業側に移るものではなく、就労希望者である患者が、会社が求める仕事の内容やレベルを理解した上で、自分がどの程度の仕事ができるのかを説明しなければならない。

この点、中金氏は6の「企業脳」を知るの中で、「採用に至る時間が比較的短い人の特徴のひとつとして「企業目線を理解していること」を挙げることができる」という。企業が期待する仕事の内容やレベルを的確に把握できるか否かは、患者が就労能力の立証責任を果たす上での第一歩として、非常に重要であることが分かる。

次に、2の病気を会社に伝えることのメリットとデメリットについて、中金氏は、「病気を非開示に働いていた方々の中には、辛いとき、それを周囲に言いにくいため我慢をすることが多くなり、辛さが表情に出てきてしまう、すると、周囲からはそういった表情に対して「やる気がないのではないか?」と誤解を生み、次第にそれがコンディションの話から、社内の対人関係の話、人間関係の問題に発展してしまうケースを散見する。」と指摘する。病気を開示すれば、周囲が直ぐに理解をして支援をしてくれるというものでは無いが、少なくとも、このような誤解の連鎖を避けやすくなる可能性は高いだろう。ただ、中金氏は、「判断材料が少ない場合、そう簡単に割り切れるものでもない場合もあるため」、病気の開示をするか否かは、患者一人ひとりの状況に応じて就労支援をされてきたとのことで、とても患者の立場に立ったアドバイスをされてきたことがうかがえた。

また、4の希望条件と就労力のギャップが生じた場合には、「経済的な必要は、差し迫る現実的で重要な課題ではあるが、仕事を決める第一の軸になるのは、やはり「体調や病状」ではないかと思えるのである」とし、ともすれば経済条件優先になりがちな就労希望者に、中長期的な雇用継続の大切さを指摘している。

さらに、5のなぜ履歴書への病名の記載が有効であるのか?において、単に病名を開示するだけではなく、それを履歴書に記載するメリットとして、「就労時の「病気への理解、配慮もあやふや」な状態になる」ことを避けうることを挙げている点が新鮮だった。確かに、面接が複数回に及ぶ際に、病気の事実が申し送りされていなかったり、採用後の上司まで伝わらなかったりすることによるトラブルを回避するためには、開示するのであれば、履歴書に明記した方が良いかもしれない。

中金氏は、最後に、「進行性ではない難病も、進行はしても非常にゆっくりな方もおり、医薬の進展により、その速度も緩慢になっている方々もいるのが実態である」ため、「就労支援の中身も、避けがたい病気と向き合うこれからの‘働き方’、‘雇用’のあり方も‘具体的な変化’が求められるのではないだろうか。」と結ばれている。

難病患者というだけで就労競争から排除されるのではなく、持てる能力を出来る範囲で最大限に発揮するActive Patientとして生きていくためには、中金氏が示唆するような雇用環境の具体的な変化を当事者から起こしていく必要性を痛感した。

日本AS友の会では、来る世界難病の日、2月29日に、中金氏をお招きした講演会の実施を企画しております。詳細については、別途、ご案内を致します。

「難病と在宅ケア(Vol.23 No.9)」の特集「難病患者の就職活動のポイント」は、国会図書館の遠隔複写サービスにより、各自、コピーを取り寄せ可能です。
適宜、ご活用下さい。

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